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間章

人生反省ばかりです

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「お久しぶりです! ヒューバート王子!」
「お邪魔いたしますわ。体調はどうですか?」
「お久しぶりです、シャルロット様、ミレルダ嬢。だいぶよくなりましたよ。ええと、先に俺の婚約者をご紹介しますね」
「初めまして、レナ・ヘムズリーと申します」
「まあ! あなたが! 初めまして」

 さて、あれから多分三日後ぐらい。
 母上とレナとディアス、ファントムが部屋に現れたと思ったら、しばらくしてシャルロット様とミレルダ嬢が現れた。
 気配からしてもう従者と護衛が一人ずつがいるらしいがすぐに扉の横に控えてしまう。
 レナとシャルロット様、ミレルダ嬢が自己紹介をしてから、シャルロット様が「早速始めてもよろしいですか?」と母上に聞く。
 母上が来ている時点でそこはかとなく嫌な予感はしていたのだが、多分シャルロット様かミレルダ嬢に俺の側室の話か上がっているんだろうなぁ。

「あ、あの!」
「はい?」

 しかし、俺の左右にシャルロット様とミレルダ嬢が位置につくと、レナが声を上げた。
 返事をしたのはシャルロット様。

「わたしもヒューバート様の治癒に参加してもよろしいですか?」
「レナ」
「も、申し訳ありません、ディアス。でも、わたしやっぱり……」
「まあ、構いませんわ。わたくしの隣にどうぞ」
「あ、ありがとうございます」

 今回の俺の治療はルレーン国および西側諸国の面子を立てる意味がある。
 ルレーン国は特に、俺が結晶化津波と衛星兵器防衛に手を出してしまった。
 いや、手を出さないと死んでたので?
 自己防衛という意味でもやらないわけにはいかなかったけど?
 それでも“他国の王子が”ってところは大きく、これはそのお礼ってことなのだ。
 だからディアスは口出ししたけれど、シャルロット様は快く受け入れてくれた。

「それに、どうせこの場の誰かが漏らさなければバレません。聞けばヒューバート様の婚約者様も相当の力を持つ聖女だとか。一緒の方がいいに決まっていますわ」

 レナの罪悪感を軽くするために、シャルロット様がイタズラっぽく語る。
 少しだけ、場の空気が和んだ感じがした。

「ではいきましょう。ミレルダ」
「うん! 始めるよ」

 二人の聖女の歌声が部屋の中に響き始める。
 聖魔法の治癒魔法の中でもガチで上位のやつじゃないか?

「ヒューバート様、わたしも頑張ります」

 レナが気合いを入れたのがわかる。
 二人の歌声に負けないぐらい、綺麗な声で歌が始まった。

「いらない子なんて いない
 わたしは愛してもらい 愛を知った
 願いばかりが 駆け出して
 自分が弱くて 無力でも 歌はある
 きらめく大地と あなたと 二人
 世界が彩を取り戻し 降り注ぐ光
 洪水みたいな 想いが溢れて 届け
 あなたのもとへ 私の心」

 え? レナの歌……聴いたことがない。
 新曲?

「!?」

 自分の体に染み込むレナの、俺への好意と優しい心。
 ミレルダ嬢の感謝と尊敬。
 シャルロット様の感謝と対抗心。……対抗心!?

『シャルロットと、ルレーン国と、シャルロットの守りたいものを守ってくれてありがと、ヒューバート王子』
『ええ、ありがとうございます。でも、為政者として負けませんわよ』

 あ、そういう……?
 え、俺ライバル認定されたの!?

『ヒューバート様、わたしがお側にいない時でもたくさんの人を助けて……傷ついて……。わたしはそんなあなたが誇らしくて、危うくて心配でたまりません』

 という、レナの心が流れ込む。
 めちゃくちゃ申し訳ない。

『わたしはもうあなたから離れたくない。離れず、お側で、わたしがあなたを守り、あなたを癒す。王太子妃として、あなたをただ、好きな……“わたし”として!』

 息が詰まる。
 破損していた神経が繋がる感覚。
 脳と、血管も、治っていく。

「————どう、ですか?」
「違和感などは?」
「ない、ですね」

 起き上がり、手を握ったり開いたりしてみる。
 視界も先程のように暗いモヤがかかっているのではなく、はっきり見えた。
 耳もよく聞こえるようになったし、一番驚いたのは鼻——嗅覚だ。
 花の匂いがするし、人の匂い、石鹸の匂い、俺の部屋の匂い。
 え、匂いってこんなに……ええ、ビビる~!

「……」
「!」

 でも、一番ビビったのは母上だろうか。
 口元を扇子で隠していたけれど、眼差しが“母”そのものだった。
 ……たまにお見舞いに来てくれていたけれど……。

「……ありがとうございました」
「こちらこそ、ヒューバート様……我が国を、民を守ってくださり、ありがとうございました。どうかこのままご回復なさいますよう。足りなければ、また治療させてくださいませね」
「はい。大丈夫です」
「では、わたくしたちは退出いたします。あとはしっかり叱られてくださいませ。そのあとまた、これからのことを話し合いましょう」
「うっ……はい。そういたしましょう」

 シャルロット様の俺への評価が高すぎて怖い。
 でも、シャルロット様の言うことはごもっとも。
 二人の聖女と、ファントム。
 そして従者と護衛が出ていき、部屋の中は身内だけになる。
 扉がしまったあと、最初に俺の隣に座ったのは母上だった。

「どうですか?」
「はい、健康そのものという感じです。……申し訳ありませんでした」
「ええ、しかと反省してください。……今回ばかりは母も生きた心地がしませんでしたよ」
「は、はい」
「ディルレッドもとても怒っていたので……ちゃんと叱られなさい。あなたは……この国の次期国王で……わたくしたちの、大切な……息子なのだから」
「はい……」

 頬に手を当てられた。
 それから何年ぶりかに、撫でられる。
 母上の顔を見るのが、いやに久しぶりな気がした。
 申し訳がない、本当に。

「自分の命を、軽んじたつもりはないんです」
「わかっていますよ」

 たとえ俺の代わりが……レオナルドやライモンドがいるとしても。
 俺はレナを悲しませたくないから、自分でも死にたくないから、死なないためにやれることをやり尽くしたと思うけど……。
 俺の命は俺が思っているよりもずっと、ずっと重いのだ。
 自覚が、やはり足りなかったのだろう。
 反省します。まじで。

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