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二人の聖女と悪魔の亡霊編
開幕は突然に
しおりを挟む「だが、俺の一枚上手を行くとはな。三号機の登録者ではなくなった上、目的も達成していたからここまで警戒されるとは思わなかったぜ」
「も、目的って、オズワード王がシャルロット様に求婚した件の真意を問う、ですか?」
「そう。っていうかそれ以外にないだろ」
それが一番予想外だったよ……!
「ただの雑魚かと思ったが雑兵に格上げしておいてやろう」
それは格上げなのか……?
んー、いや、魚から人になったから格上げなのか……?
「ヒューバートをルオートニスに帰国させた方がいいのではないか?」
ここにきて新しい声。
これはラウトの声だ。
降りてきたのか。
「ラウト、やりすぎではないか?」
「舐めた真似をしたのは奴らが先だ。大方ギア・フィーネがここにあるから、まとめて始末してしまえとでも思ったのだろう。ギア・イニーツィオも宇宙の者どもから見れば新型の脅威。つまりはやる気だ」
なにやらディアスが「なにも落とさなくともよかっただろうに」と頭を抱えている気配。
それに対してラウトもこの言いよう。
……もしかして、結晶病の権能って宇宙の衛星兵器まで届くの?
マジ?
「ふぅーん……いよいよ直接手を出してきたか。そうなると情報がほしいところだな」
なんかファントムが不穏なこと言ってる。
確かにこれほど直接的な攻撃は、宣戦布告とも受け取れる。
攻撃されたのはルレーン国。
でもここが攻撃されたのは、多分俺たちがここに滞在していたからだ。
巻き込んだのは俺たちの方……?
「ヒューバート、セドルコ帝国の方に間者は送っているよね?」
「へ? は、はい。父上が」
「君、もうルオートニスに帰りなよ。あとの交渉は私がやっておくから。ぼくの予想が正しければ、セドルコ帝国は宇宙の者たちと接触している」
「え!」
セドルコ帝国が……宇宙と……!?
「大方石晶巨兵を奪うのに力を貸す。石晶巨兵を手にいれられれば次の皇帝はお前で決まりだ、とか言って皇帝候補たちを誑かしたんだろう。宇宙の科学力を手に入れれば、不可能ではないしね。メリリア元妃を連れ出したのも、ルオートニスの王宮内の情報を手に入れるため——かな」
「城の中を、ですか!?」
「そう。あの女の使い道はルオートニスへの内政干渉ではなく城内の見取り図。……王家の者しか入れない、内部中の内部」
ナルミさんの声がどんどん固くなる。
だとしたら、父上や母上、レオナルドやライモンドも危険なのでは……!
「帰国して城内の改築をしなさい。今のお前なら、聖殿に奪われてきた王家の権威を取り戻した証とか、生まれたライモンドのために新たな別棟を建てるためにとか色々理由をつけてできるはずだ。ギギとアグリットを王宮内に入れて、隠し部屋など増やしておくこと」
「は、はいっ」
「城の研究も研究塔に全部移動させなさい。シズフとデュレオがいるから大丈夫だと思うけど、このタイミングでルオートニスがセドルコに攻め込まれている可能性もある」
「っ!」
確かに……。
俺たちを始末したのと同じタイミングで攻め込むのは、民や王宮への精神的なダメージにもなる。
くっ! まさかこんなことになるとは!
「ディアスなら機体ごと転移して戻れるよね?」
「問題ない」
「ジェラルドとラウトと一緒に機体ごと帰国しなさい。本当にセドルコ帝国が攻め込んできたのなら、わからせてやるといい。たとえ千年後の宇宙の科学力であっても——ギア・フィーネは遅れをとることはないって」
「ナルミさん……」
笑顔が、怖すぎるんですけど……。
「まあ、君は乗っちゃダメだけど」
「それは、ハイ」
というか俺以外のギア・フィーネが四機揃ってる時点で勝ち確がすぎる。
敵さんが可哀想確定でしょう。
「と、いう感じでルオートニスは楽しいことになっているかもしれないけれど、悪魔の亡霊はお祭りに参加しないの? 自分の機体はさっき壊しちゃったから無理かな?」
「はあ? 薄葉甲兵装があるんだから問題ねぇよ」
「え! ファントムも来るんですか!?」
「楽しそうだからなぁ」
ニタリ、とそれはもう邪悪な笑み。
オーバーキルになりませんか。それ。
というかナルミさん、しれっとファントムを巻き込んだ。
大丈夫なのか、これ、色々!
「ミレルダ嬢、シャルロット様、近くにいます!?」
「おります。聞いておりましたわ」
「あんな勝手なこと言ってますけれど大丈夫なんですかね!?」
「わたくしたちの言うことを聞くような方ではありませんから、お好きになさればよろしいかと」
「ええええええええ」
それって俺の言うことも聞かない超俺様を丸投げするということですが!?
いや、本当誰の言うことも聞かないだろうけれども!
「それに、ルオートニス王国もこのような危険に晒されているのでしたらお急ぎください。ですが、ヒューバート様が少しでもお元気になられましたらまたお越しくださいね。わたくしとミレルダで必ず完治させてみせますわ!」
「そうだよ! 絶対ボクたちに治させてよね!」
「あ、う、うーん……わ、わかりました」
俺の治療をさせてほしい、というのは、ルレーン国とシャルロット様の顔を立てる意味もあるんだろう。
それは断れない。
「では、一度帰りましょう。俺は役に立てないけれど」
「了解した。ジェラルドに通信を入れてくれ、ラウト」
「ああ。——だが、今帰ったところでもう終わっているだろうな」
フッ、と笑うラウト。
……その笑顔の邪悪さに、俺はまだ見ぬ敵へ同情を感じた。
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