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二人の聖女と悪魔の亡霊編

ファントムの目的

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「すごい理屈を自信満々に言い放つね、あの人」
「本当に、本当に申し訳ございません……!」
「泣いて謝られても……」
「いえ、本当に申し訳ありません。父王陛下が病に伏せた頃より、戦争を始めたりルレーン国の姫君へ勝手に求婚したり、様子がおかしい子ではあったのですがまさかここまでとは……!」
「世襲制本当にしんどいよね」

 大臣さんと公爵さんに平謝りされたんだが、俺よりシャルロットとソーフトレスの皆さんに謝罪した方がいいと思う。
 この様子だと戦争は両国王が双方ポンコツであったから起こり、長引いたのは間違いない。
 両国の代理代表たちの、なんと腰の低いことよ。
 アスメジスア基国の選挙王国制が引き継がれていたら、多分こんなことにはなっていないだろうね。
 まあ、アスメジスア基国のあの制度かなり厳しいみたいだから続けるのも厳しかったのかもしれないけど。
 厄介なのはコルテレの王オズワードが、奪取したギア・イニーツィオ三号機に乗ったまま降りてこない点だ。
 シャルロット様の一号機と、ミレルダ嬢の二号機に乗っていた部下たちも同様。
 武器を構え、いつでも両国の交渉人たちを攻撃できる体勢。
 まあ、それはラウトも同じなんだけど。
 で、現在の状況としてはコルテレ王オズワードが自国の大臣たちと公爵さんへ和平条約の撤回と、ソーフトレスへの全面降伏を要求するように命令して困らせている。
 彼の中でシャルロット様の優先度はどのあたりなのか、今のところソーフトレスとの戦争勝利が最優先っぽい。

「やれやれ、やっと出てきたと思ったらとんだ小物が釣れたものだな」
「ファントム! どこ行ってたの!」

 後ろの方に待機して眺めていた俺の横に、ようやくファントムが姿を現した。
 亡霊なだけあり神出鬼没だなぁ。
 ミレルダ嬢の文句やお説教にも耳を貸さないまま、俺たちの横を通り過ぎていった。

「オズワード陛下、お聞きください! ルオートニス王国第一王子ヒューバート殿下より、新技術石晶巨兵クォーツドールが齎されたのです! 石晶巨兵クォーツドールは聖女の歌声を増強し、結晶化した大地クリステルエリアの治癒が可能となる代物! ヒューバート殿下はその技術を、停戦と和平、不可侵条約の締結を条件に両国へ提供してくださるとおっしゃってくださったのです!」
「その技術があれば、我らは新たな土地など不要となります! 失った土地を取り戻せるのです! これ以上の戦いは無用なのですよ!」

 大臣さんたちだけでなく、オルヴォッド卿たちも必死に機体に篭城しているオズワード王へ呼びかける。
 あんなでかいものへ近づくのだっておっかないだろうに、責任感の強い人たちだ。
 いや、国の今後を思えばやるしかない。
 ここで命をかけてアホを諌めなければ、国の信用がなくなる。
 この場にはソーフトレスと聖域ルレーン国だけでなく外の国であるルオートニスの俺もいるしね。
 国の今後のことを命懸けで思う、素晴らしい人たちだ。

『黙れ! それならばその技術ごと奪えばよいではないか!』
「な! なんということを!」
「ルオートニス王国には千年前の遺物を駆る神々もおられるのです! 神々の怒りに触れれば、逆に神罰が下りますぞ! 陛下!」
『神罰だと!? これまで我らを助けることのなかった神に、なぜ今生きる我々が罰されねばならない! そのような神に頭を垂れる必要はなかろう!』

 そう言いたい気持ちはわかります。
 千年間、神は人を救うことはなかった。
 でも俺はその理由を知ってしまったからな。
 ……確かに、神々は人を救わなかった。
 でも、守ってはくれていたんだ、ずっと。
 この世界が本当に終わってしまわぬように、結晶病という権能を発現し世界を覆い、惑星とディアス、シズフさんを延命させたラウト。
 人々の文明が失われぬよう魔法を授ける魔王となったディアス。
 ハニュレオと、そしてデュレオを孤独から救ったシズフさん。
 自分の生命を世界のために、千年もの間使い続けたデュレオの弟のクレア。
 彼らが救ってない?
 本気で言ってるんだろうな、そのことを知らないんだから。
 でも、彼らの……それを踏み躙るような言い方は——腹が立つ。

「ごちゃごちゃうるせぇなぁ」
『なに!?』

 そこへファントムが入っていく。
 これ以上場が混沌とするのは好ましくないだろうが、ようやくファントムの目的がはっきりわかるかもしれない。
 それに応じてこちらも対応を変える。
 ファントム、いったいなぜこんな面倒な罠を?

「そんなことよりテメェ、シャルロットに求婚した件はどうなっている? 本気でシャルロットと結婚するっていうのなら——まずは俺を倒してもらおうか!」


 ・・・・・・・・・・・・。


「ん?」

 聞き間違いか?
 俺、今聴力が弱くなっているからな?

「そうだよ! さっきから戦争のことばっかりで、シャルロットのことを本気で好きならどうしてルレーン国までコルテレと併合するべきとか言うの!? 意味わからないんだけど!」

 真後ろでミレルダ嬢がそう叫んでいるので、もしかして俺の聞き間違いではなかったのだろうか?
 いかん、ラウトがチベットスナキツネみたいな表情になっているような気がする。
 気のせいであれ。


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