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二人の聖女と悪魔の亡霊編

強襲(2)

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 居心地悪そうな声と、新しい息遣いが入ってきた。
 多分ミレルダ嬢。
 ファントムは相変わらずどこに隠れているのやら。

「ちなみに何機あったんですか?」
「っ、五機です。すべてわたくしの角膜セキュリティでしか入れないところに安置してありました。盗まれるわけがないのですが……」
「盗まれたのは三機ですか」

 セキュリティはかなりしっかりしている。
 多分ルレーン国はうちの研究塔クラスの科学力を有している、世界的に見ても有数の科学技術が残る国といえるだろう。
 そのセキュリティを、コルテレがどうやって突破する?
 そんなことが可能か?
 いや、もうそれこそ罠だろ。

「…………。ラウト、[長距離精密狙撃ユニット]は回収してきたよね?」
「は? ああ、ソーフトレスとコルテレに来る前にな」
「エアーフリートはファントムの手持ちだし——ジェラルド、ディアスと一緒に長距離精密狙撃ユニットを持って最初にコルテレに入ってすぐに見つけた山の頂を確保してくれ。ラウトはジェラルドの[空間倉庫]に長距離精密狙撃ユニットを移したらブレイクナイトゼロの中で待機していてほしい。トニスのおっさんは万が一を考えてシャルロット様とソーフトレス、コルテレの要人退路を確保して。俺はギア・フィーネに乗ったら……」
「「乗れると思っているのか?」」

 だめですよね、と聞く前にラウトとディアスの度低音ブチギレヴォイスをいただきました。
 一部の界隈にはご褒美ですが、俺には普通に精神ダメージです。

「では、やはり俺は後ろで待機しています」
「というか起きるな。指揮権は別の者に与えて大人しく寝ていろ。なにをしたいのかだいたいわかったが、他の者はまだわからないだろう」
「そ、そうですね。ご説明いただけますか? ヒューバート様」

 さすがはディアス。
 しかし、シャルロット様たちはまだ理解が追いついていないみたい。
 確かに説明はしたいんだが——。

「でもディアス、相手はコルテレではないんですよ」
「!」
「どういうことでしょうか……?」
「わかんないよー! ヒューバート王子、ちゃんと説明して!」
「なるほど、そういうことであれば臨機応変に対応すべきだな」
「え!」

 シャルロット様の後ろからミレルダ嬢の不満げな声がした。
 けれど、俺の答えでラウトやトニスのおっさんも察したらしい。
 そう、敵はファントム。
 この事態を招いたのもまず間違いなくファントムだ。
 なにをするつもりなのか知らないけど、世界を敵に回しても平然としているような男が仕掛けた罠が、ろくなもんなわけがない。
 さすがに千年前から幾度となく戦って煮湯を飲まされたラウトには、特に通じるようだ。

「ですが、その山?ってのはよくわかりませんね。なんでそんなところにディアスの旦那とジェラルドの坊やを?」
「そちらは保険かな。何事もなければ長距離精密狙撃ユニットで援護してほしいけど……」
「ん~?」
「ジェラルドはディアスの指示に従ってくれればいいよ。三号機と一号機は指揮系統の機体だから、現地にいるより離れているところの方がいいと思うし」
「ん~……」

 ジェラルドもよくわかってないっぽいが、ディアスが一緒なら大丈夫。
 それよりも大変なのはシャルロット様たちだ。

「ナルミさんはシャルロット様たちについていてほしい。多分無茶振りされると思うので」
「まあ、されるだろうね。承ろう」
「シャルロット様は交渉に持ち込んだら、聖女として、そしてルレーン国の姫として対応していただいて構いません。ナルミさんが一緒なら交渉は任せてください。それでも先方が武力で推し進めようというのなら、こちらで制圧します」
「……か、可能なのですか?」
「ギア・イニーツィオとかいう機体がどれほどの機能を誇ろうと、昨日今日乗った者に俺が遅れをとるとでも?」

 ラウトさん、おっしゃることはごもっともですが殺気と魔力が漏れてるんですよ。
 怖い怖い怖い。

「し、失礼いたしました……! 戦神様をご不快にさせるつもりはありませんでしたの」
「フン」
「なので、まあ、大丈夫です。俺も近くにいますから……」
「ヒューバート様……。申し訳ありません。体調がお悪いのに……!」
「シャルロット様のせいではありませんよ」

 俺が未熟なせいだし、黒幕はオタクの国守さまですし。

「じゃあヒューバート王子の車椅子はボクが押すよ」
「よろしくお願いします、ミレルダ」
「え」

 それは思いも寄らなかった。



 ***



 で、こちらの白旗を見てロゼルナの町に入ってきたコルテレの国王オズワード・コルテレ。
 なんと二十歳という若さで王位についた。
 部下であるコルテレの辺境伯オルヴォッド卿がギア・イニーツィオに乗ったままこちらを見下ろす国王へ「どういうおつもりですか!」と叫ぶが、こちらの予想を上回るバカ回答が返ってきて家臣一同頭を抱えてしまう羽目になる。
 国王の主張をまとめると、「ルレーン国の姫シャルロットと結婚する自分こそ現在の残されたすべての国土——聖域含む——の王に相応しい。ソーフトレスは即座に降伏するべき。そしてこのギア・イニーツィオは支配者である自分が乗るのに相応しい」らしい。

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