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二人の聖女と悪魔の亡霊編
和平へ(2)
しおりを挟む「あなたたちは、本当につらい数年を過ごされたでしょう。多くの血が流れ、失われた命も数えきれない。国のため、民のためと言われて剣と杖を手に……よく戦い抜かれましたね」
「……っ」
「そ、そのような……」
「他国の、部外者である俺が……こんなことを言うのは筋違いだと理解はしていますが、誰よりも前へ出て戦い続けたあなたたちには、誰よりも先に——石晶巨兵が聖女の歌声で結晶化した大地を治癒するところを、見てほしい」
目を閉じる。
俺が初めて石晶巨兵の真価に気づいた日のことを思い出す。
あの美しい光に包まれ、土の大地が見え始めた日のことを。
この人たちは、あの光景を王たちよりも先に見る権利があるように思うのだ。
「きっと、一生忘れられない光景になると思うんです。本当に、美しいですよ。泣きたくなるほどに……」
「…………お——お心遣い……痛み入ります……!」
「ありがとう、ございます……」
なんか、よく見えんのだが、なぜか啜り泣くような音が聞こえる。
なんで?
誰が泣いてんの?
なんか一人や二人ってレベルじゃない数の啜り泣きの音が聞こえる。
ねえ、俺あんまりまだ見えないんだから怖いことやめてよぉ!
「それでは、停戦と和平、不可侵の条約が締結されましたら、みんなで国境まで行って石晶巨兵の性能を是非見せていただきましょう!」
名案!とばかりに、手を叩くシャルロット様。
この声は絶対シャルロット様だろ。
まあ、別にいいけども。
***
それから三時間後。
ルレーン国が調停役を務めて停戦と和平、そして不可侵条約が無事に締結された。
シャルロット様の母上、ルレーン国の女王ファラティア様は姫に劣らず超美人。
しかし、政務中毒らしくて速攻で帰国してしまった。
政務の中の書類仕事が好きで、外交や謁見、会議など人と話す仕事はシャルロット様に丸投げだそうだ。
なお、子育ても乳母や侍女に丸投げ。
あまり外交的な性格ではなく、王配殿下——シャルロット様の父君は特に忙しなく働いておられるという。
「仕事が好きなのはいいのですが、あまりにも出不精なのがなんとも……」
「今日は人前に出る仕事だからまともな格好だけどね」
「わぁ」
困り果てたシャルロット様よりも、ミレルダ嬢の心底「よかった」という安堵の表情にコミケ前のオタクの姿がよぎる。
いや、まさかね?
「シャルロット様、ヒューバート王子殿下、コルテレのメーシン公爵他、宰相ラインホル侯爵と右大臣カメル侯爵、左大臣マーシアル侯爵がご挨拶をしたいとお越しです」
「ヒューバート様、外交はわたくしが請け負います。国境への移動になりましたらお声がけしますので、客室でお休みください」
「申し訳ありません、シャルロット様……」
「とんでもございません。本当でしたらもっと落ち着いてお休みいただきたいところですのに」
「そうだよ。ヒューバート王子の体力が回復したら、ボクとシャルロットがしっかり治してあげるから今はゆっくり休んでね! 元気になったらたくさんお話しよ~」
ミレルダ嬢は引き続き護衛としてシャルロット様に同行するのか。
聖女でありながら近衛騎士でもあるのだから、ミレルダ嬢はなんていうか、自由だな。
いや、聖女の資質があったら強制的に聖女になる方が、逆に不自由なのかもしれない。
うちの国も体内に結晶魔石があったら聖殿に入り、聖女として教育を受ける。
まずそこから改善するべきかもしれないな。
聖女だって騎士になっていいし、学者になってもいいし、医者や侍女や記者や作家になっていい。
聖女に限らず、女性の職業の幅を広げるのもこれからの時代に必要だろう。
デュレオが男だけど体内に結晶魔石があるのも、あれはなんかこう、人外だから、かもしれないけど……もしかしたらこれから男でも聖女になれるかもしれないし!
……その場合は聖人?
でもデュレオは邪神だろ。
聖人のせの字もねぇ。
まあ、どっちにしてもすぐにどうこうできるものじゃないから本当にあとでいいな。
話さなきゃいけないことが、他にもたくさんあるし。
「ヒューバート、抱えるぞ」
「わ、え? は、はい」
いかん、視界も微妙だし魔法で補助してるけど耳も聞こえづらいから、部屋に着いていたことに気づかなかった。
ディアスに横抱きで抱えられて、ふわふわのベッドに横たえられる。
すぐに頭に手のひらが当てられ、ディアスに[ヒーリング]をかけてもらう。
「なんつーか、ヒューバート王子はどっか他国に行く度にぶっ倒れますねー」
「今トニスのおっさんに悪口言われた気がする」
「苦言っすよ?」
「すみませんでした」
「ミドレ公国の時は三日生き埋めだったもんね~」
「…………」
ジェラルド、それはラウトにもダメージがあるからやめるんだ……!
「あ——そうだ、落ち着いているうちに話したいことが……」
「緊急でないのなら今度にしなさい」
「はい……」
さーせんっした。
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