上 下
252 / 385
二人の聖女と悪魔の亡霊編

side ジェラルド(1)

しおりを挟む
 
「ラル坊、オレは殿下の指示通り近隣の村や町に避難指示を出してくる。避難先は王都でいいんですかね、シャルロット姫」
「はい! よろしくお願いします!」
「シャルロット様、本当に王都でいいんですか?」
「はい。わたくしとミレルダで、王都を中心に大規模結界を張ります。そのあとミレルダとともに、ジェラルド様はヒューバート様のところへお戻りください。心苦しいですが、引き続きこの国を守るためにお力をお借りしたいのです」
「それは、もちろんいいですけど」

 トニスと離れ、シャルロットとミレルダを乗せたままの地尖チセンをルレーン国の王都郊外に走らせる。
 見えてきたのは美しい丘だ。
 ゆっくりと上り坂が続き、その先に城がある。
 まるで教会のような姿の城の城壁を、ジェラルドは魔法を使って飛び越えた。

「これは、[飛行]の魔法!?」
「時間がないからごめんね」
「この質量を一瞬で浮かせるなんて……」

 なぜかミレルダが悔しそうな表情をするが、そのまま城下町に着地してもう一度[飛行]で屋根の上を駆け抜ける。
 そのまま上へ、とシャルロットが指差した方角は、城の屋根の上だ。

「ミレルダ!」
「了解だよ! シャルロット!」

 中央の最も高い塔の屋根の上に着地する。
 頷き合った二人の聖女が手を組んで目を閉じ、一息吸い込んで唇を開いた。

「見て」
「ちゃんと見て」
「「私たちの姿を、目を、心を」」
「見て」
「ちゃんと見て」
「「まだ出会っていなくても、私たちは知っている」」

 それは二人の歌声が重なり合い、相乗効果で広がる凄まじい結界の出現。
 光の輪が幾重にも幾重にも空から広大な土地を囲んでいく。
 ジェラルドでも見たことのない、まさに奇跡の御技。
 思わず口を開いて空を見上げた。
 二人の聖女の歌声で、結界はどんどん広がっていく。
 これよりもまだ、さらに。

「はぁ、はぁ……これで、新たに入ってくることは、ない、はずです……」
「次は中に入った晶魔獣を倒さなきゃ……!」
「二人とも、魔力は大丈夫なの?」
「使い果たしましたが、やるべきことはまだあります。早くヒューバート様たちのところへ戻らなければなりません。ジェラルド様、中庭へ向かってください」
「え、地尖チセンに乗ったままで?」
「それで構いません!」

 シャルロットの指示に従い、城の中庭へと[飛行]で向かう。
 数名の兵が駆け寄ってきたが、外部への音声でミレルダが牽制してくれた。
 庭を荒らさないよう着地すると、シャルロットが操縦席から飛び出す。

「ジェラルド様もいらしてください」
「は、はい」
「……」

 ミレルダには睨まれたが、二人の聖女の護衛は自分の役目だろう。
 地尖チセンに[隠遁]魔法をかけてとりあえずは見えなくして、ズンズン進むシャルロットのあとをミレルダとともについていく。
 歩きながら左右のおさげを後ろに括りあげたシャルロットは、薄いピンク色の薔薇の石畳の上に立つとその上に手を置いた。
 なにをするのかと思えば床から『プリンセスの生態データと一致を確認。承認しました』という電子音。
 がこん、と音が鳴り、薔薇の石畳が一度下にずれるとシャルロットが石畳からどける。
 すると、薔薇の石畳が右にずれてそこから階段が現れた。

「っ、隠し通路……」
「さあ、早く参りましょう」
「ぼくも行っていいのですか?」
「国守様——ファントムはきっと、あなたに三号機を託したいと思っていると思います。だからどうか手伝っていただきたいのです。ファントムと対等に“技術”の話をしていたあなたなら、ファントムの言っていたことがわかると思うので」
「ど、どういうことですか?」

 わけがわからず、思わずミレルダを見ると「三号機はボクが乗りたいのに」と唇を尖らせるのみ。
 よくわからないまま地下へと降りていく。
 入り口が閉まっていくのに不安を拭えないけれど、杖は手放すことはない。
 ヒューバートのところへ戻りたいのは、ジェラルドも同じ。

「これです」
「!」
「ジェラルド様、あなたはなにかわかりますか? これを動かすために必要なものが」

 あまりにも大きな穴。
 そしてそれは機械でびっしりと埋まっている。
 下には大きな歯車が、無数に重なり合う。

「もしかして、これが軸発電機……?」
「はい。ファントムは同調率が高く、この軸発電機を動かした者になら三号機は乗りこなせるだろうとおっしゃっていました。ミレルダは見ただけで『無理』と諦めてしまったんですが」
「だって無理だよこんなの。使い方全然教えてくれないし」

 それでしきりに直接交渉をしていたのか。
 しかしファントムはそれを許さず、この設備の起動を行える同調率の高い者を探していた——ということのようだ、
 確かに、この施設が本格始動しなければ、三号機はどのみち動かせないだろう。
 そしてこの施設のことは、国家機密。
 口に出すことを三人ともしなかった。
 それなのに、シャルロットはジェラルドをこの場に連れてきた——その意味。

「……いいんですか? 三号機は、この国の護りそのもののはずなのに」
「ふふ、ジェラルド様も真面目な方ですわね。ヒューバート様にも申し上げましたが、我が国には言い伝えがありますの。『いつかギア・フィーネが世界に再び求められる時代が来るだろう。その時、ギア・フィーネは自ら主人を選び出す。その者を見極め、どうか守ってほしい——』と。ですから……あなた自身で示していただけるのなら、わたくしたちはそれを運命として受け入れます」
「っ……」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

Solomon's Gate

坂森大我
SF
 人類が宇宙に拠点を設けてから既に千年が経過していた。地球の衛星軌道上から始まった宇宙開発も火星圏、木星圏を経て今や土星圏にまで及んでいる。  ミハル・エアハルトは木星圏に住む十八歳の専門学校生。彼女の学び舎はセントグラード航宙士学校といい、その名の通りパイロットとなるための学校である。  実技は常に学年トップの成績であったものの、ミハルは最終学年になっても就職活動すらしていなかった。なぜなら彼女は航宙機への興味を失っていたからだ。しかし、強要された航宙機レースへの参加を境にミハルの人生が一変していく。レースにより思い出した。幼き日に覚えた感情。誰よりも航宙機が好きだったことを。  ミハルがパイロットとして歩む決意をした一方で、太陽系は思わぬ事態に発展していた。  主要な宙域となるはずだった土星が突如として消失してしまったのだ。加えて消失痕にはワームホールが出現し、異なる銀河との接続を果たしてしまう。  ワームホールの出現まではまだ看過できた人類。しかし、調査を進めるにつれ望みもしない事実が明らかとなっていく。人類は選択を迫られることになった。  人類にとって最悪のシナリオが現実味を帯びていく。星系の情勢とは少しの接点もなかったミハルだが、巨大な暗雲はいとも容易く彼女を飲み込んでいった。

性転換ウイルス

廣瀬純一
SF
感染すると性転換するウイルスの話

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

処理中です...