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二人の聖女と悪魔の亡霊編
二つの国の王たち(1)
しおりを挟むはぁ……シャルロット様へ求婚しに、聖域に行くというのは建前だな?
だってシャルロット様が両国を巡り回診と結界修復を行なっているの、公然の秘密みたいなものだ。
まあ、まだ建前を使っているコルテレの王の方が幾分マシかもしれない。
しかし聖域の“遺物”ってアレだろう?
俺の後ろにある——ギア・フィーネ四号機。
そして、隠れてわからないが、俺たちの頭上にあるエアーフリート。
「……っ待て……! ファントム、ギア・フィーネ三号機は、聖域にあると言っていなかったか?」
俺たちはてっきり三号機の在処をエアーフリートの中だと思っていた。
でも、ファントムは昨日「三号機はルレーン国に置いてきた」と言っていたような!?
「……」
それが答えであるかのように、フードの隙間から、醜悪な笑みが見えた。
背筋がゾッとするような、悪魔の微笑み。
「シャルロット様は、ご存じでしたか?」
「……え、な、なにがですか?」
ナルミさんが両国の国王がこっそりルレーン国に入り込んでいたことを知っていたなら、まず間違いなくファントムもそれを把握していたはず。
エアーフリートに三号機を載せて持ってきていなかったのが、一種の罠だったとしたら——。
「ファントムが仕掛けている罠のことを、です。ご存じでしたか?」
「わ、罠? 国守様が? どういうことですか?」
知らないのか。
じゃあやっぱりあの笑みは……!
でもどういうつもりなんだ!?
ギア・フィーネは登録者以外が乗ると、脳を攻撃されて殺される。
三号機の登録者を探すと言いながら、三号機はルレーン国にあると言う。
そしてどうやって知っていたのか、ナルミさんとファントムはソーフトレスとコルテレの王たちが、部下たちに戦場を丸投げして自分たちだけで“遺物”を手に入れようと動いていたのを把握していた。
でも、多分……王たちが聖域に向かったのは別な理由だろう。
「姑息な……! それが一国の王たちのすることか……!?」
「ヒュ、ヒューバート様?」
俺の予想が正しければ本当にクソじゃん。
だとしたら、デリセット卿とオルヴォッド卿は部下ごと来てもらった方がいいな。
あの人数を安全に運ぶには——。
「シャルロット様、エアーフリートで彼らをルレーン国へ連れて行くことはできますか? 俺の予想が正しければ、両国の人間がある程度必要です」
「え、あ、は、はい。わかりました……?」
「ジェラルド! 地尖に乗れ! ミレルダ嬢、気焔をエアーフリートの中へ積むのを手伝ってください!」
「え? りょ、了解~?」
「え! 乗っていいの!?」
ギア・フィーネに乗る気だったミレルダ嬢なら、量産型の気焔には余裕で乗れるだろう。
シャルロット様がエアーフリートを出現させ、全員乗り込んでから飛び上がる。
本当にクソ面倒なことになってきた。
「ヒューバート、とりあえずそろそろなんでエアーフリートにやつらを乗せたのかを説明しろ。こっちはさっぱりわからん」
「え」
「わたくしも説明いただけると助かります」
「え」
ブリーフィングルームという多分談話室みたいなところに集まって、ニマニマ笑うナルミさんと艦橋へ行ったファントム以外に詰められる。
そういえば説明もせずに連れてきてしまった。
「国王たちが“聖域”ルレーン国に行ったんですよね?」
「は、はい」
「確かに、今回の石晶巨兵なるもののことは、陛下のお耳に一刻も早く入れるべきかと思いますが——」
「いや、そうじゃない」
両国の辺境伯たちには非常に申し訳ない気持ちになる。
その分俺は多分、怒ったような言い方になってしまったと思う。
でも仕方ない。
「シャルロット様、ルレーン国は難民をすべて受け入れるのですよね? 受け入れて、コールドスリープで戦争が終わるまで眠りにつくと」
「え? はい」
「おそらく、両国王の狙いはそれです」
「え?」
その瞬間、ラウトの殺気が漏れ出した。
ディアスも顔を顰めて溜息を吐く。
この二人にとって、権力者はどの時代も変わらないのだろう。
ジェラルドとシャルロット様とミレルダ嬢はまだわからない、という表情。
そして両国の辺境伯たちは、わかりたくない、という表情。
まあ、わかりたくないよね。
「……わ、我らが王は……我らを、民を見捨てて……聖域の最も安全なる地へと、逃れたというのですか……」
震える声でソーフトレスのデリセット卿がこぼす。
口にするのも、おぞましいだろうに。
「ルレーン国に“遺物”としてギア・フィーネ三号機が残されているのは、多分エネルギー源。ですよね? シャルロット様」
「っ! ……は、はい。そうです。ギア・フィーネの生産するエネルギーはほぼ無尽蔵。我が国は魔力以外に、千年前の技術をギア・フィーネの生産するエネルギーで賄い運用を続けています」
「となれば“遺物”を手に入れることは不可能です。ファントムは適性の高い者に三号機の登録者となるよう捜している、と言っていましたが、本当はそんなつもりはない。三号機というエネルギー源を失えば、エネルギー不足でコールドスリープに入っている多くの人々を殺すということになりますから」
「……っ」
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