上 下
244 / 385
二人の聖女と悪魔の亡霊編

招待

しおりを挟む
 
 今日、シャルロット様がコルテレの東の結界を強化しに行ったのだって、晶魔獣の侵入を防ぐためだ。
 晶魔獣は未だに脅威のまま。

「そんなことを言われてもわからん」
「俺も悪魔だなんだと言われてきたが、力に無責任な神の方がよほど害悪なように思うな」
「ぐっ」
「まあ、人間が神になる——そもそも神ってなんだろうな? 体はそのままに見えるがそうでもないのか? 身長は伸びてるように見えねぇしなぁ」
「身長の話はやめろと言っている……!」

 本当に性格が悪すぎる。

「ファントム……お前が生身の人体に興味を持つとは……」
「ない。一切興味ない。ギア・フィーネの影響で変化した登録者には興味はあるが別に貴様と同じカテゴリの興味はこれっぽっちも抱いていない」
「そう言うな! 医学もまた興味深いジャンルだぞ! お前ほどの知的好奇心に溢れた人材が医学に興味を持ってくれたならば、医学の進歩に多大な貢献をしてくれることだろう!」
「ない! 本ッッッッ当に一切興味ない! 話しかけるな!」

 ゆらり、と俺の横から立ち上がったと思ったら、一瞬でラウトの横に立つファントムのところへ移動してグイグイ勧誘し始めるディアス。
 インテリ陽キャ怖。

「くっ! そ、そうだ。さっき壊した四号機の修復! 特別にこの俺自らやってやろうじゃねぇか無料タダで!」

 逃げ道にされたー!?

「それなら五号機の整備もさせてやってもいいぞ」
「あ?」
「興味があるだろう? 神鎧化したギア・フィーネ」
「…………。ふぅん。それならついでに一号機もチェックさせろ。千年経ってりゃどこかしらおかしなところもあるかもしれないしな。あと、お前ら絶対まともに機体の整備してないだろう」
「「「…………」」」

 ギア・フィーネだと思って、全然そういうのは、はい、してないです。
 そして当然、そういうのが専門ではないラウトとディアスも思い切り顔を背けた。
 ラウトが時々五号機を整備してるのは見てたけど、あくまでも操縦者がやる簡易なもの。
 まともな整備、と言われると……。

「本当は全部一度バラして進化した点とか徹底的に調べ上げたいところだが、二、三日でどうにかなるものでもないし簡単なチェックと整備だけだな」
「もしかして、ご招待するのかい?」
「うちのお姫様が許すのならな」
「まあ、もちろんご招待に異論ございませんわ! ヒューバート様をこのままテントに寝かせておくのは、心苦しく思っておりましたもの! さすがに怒られるかと思いましたが、国守様がそうおっしゃるのなら遠慮はいりませんでしたわね!」
「遠慮はしろ?」

 急に立ち上がるシャルロット様。
 なにやら三人にしかわからない話をしているが、なぜだろう、変に嫌な予感を感じる。
 左手を掲げたファントムが、ニヤリと歯を見せて笑む。

「!」

 無詠唱で広範囲結界を展開し、ゴーグルの青い光が点滅すると、空間がずれ始めた。
 いや、ちょっと冗談じゃないぐらいに広範囲結界の広さが凄まじいぞ、なんだこれ!?

「っ……可動式人型量子演算処理のヒューマノイド体のくせに、これほど大規模な魔法を無詠唱で使うなんて——!」
「お前が作った量産型と違って俺が作って、カスタマイズしたオーダーメイドなんだ。あったり前だろうが!」

 そういえばナルミさんは魔法が非常に苦手だ。
 脳の処理を情報収集に使っているから、魔法まで手が回らないとか言っていた。
 そもそも、人工物のヒューマノイドは魔力を使うための器として不具合が多い。
 現代人の体を“加工”すれば、そうでもないとか恐ろしいこと言ってたけど……。
 だが、ファントムはそうじゃない。
 さすがに奇妙だ、と目を凝らすと両手首にしたブレスレットが光って空気中の魔力を急速に取り込んでいる。
 魔導具?
 でも、あんな強力な……いや、そもそも“体内魔力”ではなく“結晶魔石クリステルストーンの魔力”を使う魔導具なんて初めて見たぞ……!?
 結晶魔石クリステルストーンの魔力容量以上の魔力を使っている。
 あんなの、ありえない……!

「あ……!」

 夜だから暗い、とかではない、闇が降りてくる。
 ジェラルドに頼んで支えてもらいながら、はためくテントから出るととんでもないものが広野に現れた。
 真っ白な、空飛ぶ船。
 地面にゆっくりと着地すると、扉が現れて階段が降りてくる。
 まさかとは思うんだが、まさかとは、思うんだが——!

「エアーフリートではないか! 持ってきていたのか!?」
「ルレーン国の姫が徒歩で旅するわけねぇだろ、馬鹿かよ」
「……な、なるほど」

 口が悪い!
 いくらなんでもそれはひどい!
 ディアスに謝って!
 ……けど、これが伝説のギア・フィーネ運用戦艦『エアーフリート』。

「皆様をご招待いたしますわ。どうぞごゆっくりなさって」
「きっとすっごくびっくりするよ! 腰抜かさないでね!」
「ドヤってるところ申し訳ないけど、わたしとディアスは入ったことあるんだよね」
「「え!」」

 ああ、ナルミさんはミシアが瓦解した時に、シズフさんに救出されてエアーフリートに保護されたって言ってたな。
 ディアスも、反乱の時に登録者になってすぐ、行く宛がない時に助けられたって。
 ラウトの方は、難しい顔をしている。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換ウイルス

廣瀬純一
SF
感染すると性転換するウイルスの話

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

SEVEN TRIGGER

匿名BB
SF
20xx年、科学のほかに魔術も発展した現代世界、伝説の特殊部隊「SEVEN TRIGGER」通称「S.T」は、かつて何度も世界を救ったとされる世界最強の特殊部隊だ。 隊員はそれぞれ1つの銃器「ハンドガン」「マシンガン」「ショットガン」「アサルトライフル」「スナイパーライフル」「ランチャー」「リボルバー」を極めたスペシャリストによって構成された部隊である。 その中で「ハンドガン」を極め、この部隊の隊長を務めていた「フォルテ・S・エルフィー」は、ある事件をきっかけに日本のとある港町に住んでいた。 長年の戦場での生活から離れ、珈琲カフェを営みながら静かに暮らしていたフォルテだったが、「セイナ・A・アシュライズ」との出会いをきっかけに、再び戦いの世界に身を投じていくことになる。 マイペースなフォルテ、生真面目すぎるセイナ、性格の合わない2人はケンカしながらも、互いに背中を預けて悪に立ち向かう。現代SFアクション&ラブコメディー

祈りの力でレベルカンストした件!〜無能判定されたアーチャーは無双する〜

KeyBow
ファンタジー
主人公は高校の3年生。深蛇 武瑠(ふかだ たける)。以降タケル 男子21人、女子19人の進学校ではない普通科。大半は短大か地方の私立大学に進む。部活はアーチェリー部でキャプテン。平凡などこにでもいて、十把一絡げにされるような外観的に目立たない存在。それでも部活ではキャプテンをしていて、この土日に開催された県総体では見事に個人優勝した。また、2年生の後輩の坂倉 悠里菜も優勝している。 タケルに彼女はいない。想い人はいるが、彼氏がいると思い、その想いを伝えられない。(兄とのショッピングで仲良くしているのを彼氏と勘違い) そんな中でも、変化があった。教育実習生の女性がスタイル抜群で美人。愛嬌も良く、男子が浮き足立つのとは裏腹に女子からの人気も高かった。タケルも歳上じゃなかったら恋をしたかもと思う。6限目が終わり、ホームルームが少しなが引いた。終わると担任のおっさん(40歳らしい)が顧問をしている部の生徒から質問を受け、教育実習生のミヤちゃん(竹下実弥子)は女子と雑談。タケルは荷物をまとめ、部活にと思っていた、後輩の二年生の坂倉 悠里菜(ゆっちゃん、リナ)が言伝で来た。担任が会議で遅れるからストレッチと走り込みをと言っていたと。この子はタケルに気があるが、タケルは気が付いていない。ゆっちゃんのクラスの担任がアーチェリー部の担任だ。ゆっちゃんと弓を持って(普段は学校においているが大会明けで家に持って帰っていた)。弓を背中に回して教室を出ようとしたら…扉がスライドしない。反対側は開いていたのでそっちに行くが見えない何かに阻まれて進めない。反発から尻餅をつく。ゆっちゃんは波紋のようなのが見え唖然とし、タケルの手を取る。その音からみっちゃんも扉を見て驚く。すると急に光に包まれ、気絶した。目を覚ますと多くの人がいる広間にいた。皆すぐに目覚めたが、丁度三人帰ったので40人がそこにいた。誰かが何だここと叫び、ゆっちゃんは震えながらタケルにしがみつく。王女と国王が出てきてありきたりな異世界召喚をしたむね話し出す。強大な魔物に立ち向かうべく勇者の(いせかいから40人しか呼べない)力をと。口々に避難が飛ぶが帰ることは出来ないと。能力測定をする。タケルは平凡な数値。もちろんチート級のもおり、一喜一憂。ゆっちゃんは弓の上級スキル持ちで、ステータスも上位。タケルは屑スキル持ちとされクラスのものからバカにされる。ウイッシュ!一日一回限定で運が良ければ願いを聞き入られる。意味不明だった。ステータス測定後、能力別に(伝えられず)面談をするからと扉の先に案内されたが、タケルが好きな女子(天川)シズクと他男子二人だけ別の扉を入ると、閉められ扉が消え失せた。四人がいないので担任が質問すると、能力が低いので召喚を取り消したと。しかし、帰る事が出来ないと言っただろ?となるが、ため息混じりに40人しか召喚出

スキル『モデラー』で異世界プラモ無双!? プラモデル愛好家の高校生が異世界転移したら、持っていたスキルは戦闘と無関係なものたったひとつでした

大豆茶
ファンタジー
大学受験を乗り越えた高校三年生の青年『相模 型太(さがみ けいた)』。 無事進路が決まったので受験勉強のため封印していた幼少からの趣味、プラモデル作りを再開した。 しかし長い間押さえていた衝動が爆発し、型太は三日三晩、不眠不休で作業に没頭してしまう。 三日経っていることに気付いた時には既に遅く、型太は椅子から立ち上がると同時に気を失ってしまう。 型太が目を覚さますと、そこは見知らぬ土地だった。 アニメやマンガ関連の造形が深い型太は、自分は異世界転生したのだと悟る。 もうプラモデルを作ることができなくなるという喪失感はあるものの、それよりもこの異世界でどんな冒険が待ちわびているのだろうと、型太は胸を躍らせる。 しかし自分のステータスを確認すると、どの能力値も最低ランクで、スキルはたったのひとつだけ。 それも、『モデラー』という謎のスキルだった。 竜が空を飛んでいるような剣と魔法の世界で、どう考えても生き延びることが出来なさそうな能力に型太は絶望する。 しかし、意外なところで型太の持つ謎スキルと、プラモデルの製作技術が役に立つとは、この時はまだ知るよしもなかった。 これは、異世界で趣味を満喫しながら無双してしまう男の物語である。 ※主人公がプラモデル作り始めるのは10話あたりからです。全体的にゆったりと話が進行しますのでご了承ください。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

処理中です...