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二人の聖女と悪魔の亡霊編
新年
しおりを挟む弥生。
前世では一月のことを、ルオートニス王国の暦でそう呼ぶ。
そう、一月。
新年である。
「…………」
「ヤダー、王子サマ顔が虚無ずぎる」
「……ウン……」
「…………。ちょっと本当にヤバいんだけど?」
「私に言われてもねぇ」
研究塔がこんなに癒しの地になるなんて、誰が思うよ?
まあ、元々割と居心地はいいところだったんだけどさ。
俺の横でテーブルに突っ伏して眠るシズフさん。
魔樹の皮になるものがないか、研究を続けてくれている。
レナは王宮。母上のところだ。
ジェラルドとレナは無事進級試験に合格したので、レナは本格的に俺との結婚の準備を進めることになった。
の、だが。
「自国の新年パーティーとミドレ公国とハニュレオの新年パーティーと学院新年会と進級試験と入学式と入学祝いのパーティーに連続で出たらしい」
「鬼スケジュールじゃん」
「おわかりいただけますかぁ……」
「こっわ」
テーブルに突っ伏したまま——そして手足首と首に“体で覚えろ”システムをつけたまま、ヒューバートはにこり、とデュレオに微笑んだ。
ドン引きである。
「もーーー、無理なんですけどーーーー……」
「こんな調子でソーフトレスとコルテレに行けるのかい? 予定だと月末には発つ予定だったけど」
「一日でいいから休みたい」
「16歳の子どもが言うセリフとしてはちょっとブラックだねぇ。延期するかい?」
「んーーーー……いや、行く」
トニスのおっさんからの連絡で、ソーフトレスとコルテレで奪い合いになっている“聖女”と接触したとあった。
かなりの強さを持つ護衛が同行しており、両国の休戦、および停戦が叶うのならば聖女たちは協力を惜しまない——と約束してくれたらしい。
ならば待たせるわけにはいくまいて。
俺の破滅エンドまであと二年しかない。
物語の修正力があったら、俺はマルティアに突然惚れてレナを追放してしまうのだろうか?
でも漫画の中でレナを保護したディアスは、ルオートニスの守護神になってしまった。
結晶化した大地を彷徨っても、レナは保護してもらえないのでは?
え?
俺のせいで逆にレナを危険に晒してる!?
いや、そうならないためにも、結晶化した大地をもっと治癒して、レナが逃げ込めるところを用意しておかなければ!
あ、それはいいな。
なにかあった時のための避難先。
災害などではなく、なんらかの予想もつかない危険が起こった時とか用。
「ナルミさん、研究塔みたいな場所って他にもある?」
「ん? 多分あっても、稼働してないと思うよ。なぜ?」
「いや、ハニュレオの時みたいなことがあったら、避難先が必要かなって、思って……」
「ふむ……なるほど。君は本当に危機管理能力が高いね。いいと思うよ。ディアスの村の地下にでも作っておこうか」
「あ、よろしくお願いします!」
助かる!
俺も了解させてもらえそう!
「あ、あと……不要だとは思うんですが……」
「うん?」
「俺やジェラルドやランディも知らない場所に……えーとそうですね、レナしか知らないような避難先も作っておいてもらえませんか? 女性限定っていうか。うん、なんかこう、レナが個人的に助けたい誰かを助けられるスペース的な……? 王妃になる以上、俺に知られたくないこととかも、増えるかもしれないし?」
あああ、だんだんしどろもどろに!
なんで説明したらいいんだぁ!
「…………。いいよ」
「で、できます?」
「うん。いいと思うよ。女は多少秘密があった方がいいもんね」
「え」
そ、そう? そういうもん?
そ、そういうもんなのか?
「じゃあ、そちらは君たちがお出かけ中にサクラに作っておいてもらうとして……これを君に渡しておこうかな」
「?」
「今の時代、魔法で連絡を取り合えるけど、やっぱりこういうやつも便利だからね」
「こ、これは……!」
スマホ!
ナルミさんが差し出してきたのは、十六年ぶりに見たスマートフォンではないではないかー!
「え、すげー! あれ? ど、どうやって使うんですか?」
「画面をタップ、もしくは音声で起動するよ。ギア・フィーネと連結すれば、連絡は取りやすくなるはず。同じものをジェラルドやアグリット、ランディやレナにも渡しておくから存分にお使い」
「わあー、ありがとうございます! 充電ってどうやるんですか?」
「魔力で自然充電できるように改良した」
「わ………………わぁ」
さらっと魔導具にしやがったのかぁ。
やっぱすげぇやぁ……。
「お前情報系と生物学系だと思ったけど、こういうのも作れたんだ?」
「簡単なものなら作れるさ。さすがに疑似歩兵前身兵器とか、大きいものは無理だけど」
「十分すごすぎですよ」
つまり、俺たち四人だけの連絡網ってことか。
他にも色々できそうな感じだけど、行く前に教わっておこうかな。
デュレオはナルミさんのこと嫌いっていう割に、割と仲良いよね。
「少しは元気は出たかな?」
「あ、はい。だいぶ」
「そう? 足りてないなら一発で元気になるハーブティーとかあるよ」
「え」
と、ナルミさんがなにか出してきた。
緑と紫の入り混じった液体?が入った小瓶。
手のひらサイズなのがまた生々しい。
まさかこれ、飲み物とか言わないよね? は?
「飲むかい」
「絶対いらない」
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