終末革命ギア・フィーネ〜転生先が婚約破棄した聖女を追放してザマァされる悪役王子なんだが、破滅したくないので彼女と幸せになります!〜

古森きり

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間章

美と芸術の魔性の邪神(2)

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「保護してほしいってこと?」
「ん、まあ、そういう感じ。……どこにいるのか見当もつかないけど……俺と同じだから……」

 死なない。
 死ねない。
 ……なるほど。

「うん、いいよ」
「ありがと。……できればあの子には……クレアには、普通の人間みたいに生活してほしいからさ……後ろ盾になってくれる、立場のある人間の味方は、ほしいんだよね」
「うん、いいよ。でも、デュレオが——『美と芸術の神』が後ろ盾になった方がいいんじゃないの」
「寿命がないってそういうことじゃないんだよ」
「……」

 色々複雑なのは伝わってくる表情。
 でも、デュレオにも家族の情がある。
 人間を捕食しなければいけない衝動のあるデュレオにとって、弟には人間の中で生活してほしいというのはどれだけ複雑なのだろう。

「クレアの記憶は、ある程度俺がリセットできるんだ」
「リセット?」
「俺みたいに擬態ではなくて、人間みたいに成長することもできるから、老人レベルまで人間たちと同じ時間を過ごせる。でも、知り合いがいなくなったら一度リセットして幼少期からやり直しができるんだよ。だからヒューバートの——ルオートニス王家の守護者みたいにしてあげてほしいなって」
「俺の息子とか娘の側近にして、ってこと?」
「まあ、そんな感じ? ロス家のお坊ちゃんも、五号機の坊も、シズフも、きっとまだわかってない。死なないってこと。どーゆーことなのか……絶対」

 櫛を置いて、シズフさんの顔を両手で包んで見下ろしているデュレオの言葉が——重い。
 神になった者が、これから生きていく世界。

「俺はあの大戦で、世界が本当に終わればいいと思っていたし……マロヌ姫に起こされて、世界が違う形で滅びそうになっているのを見て笑っちゃった。みんないなくなった世界で、俺もまたあの結晶化した大地クリステルエリアの中で眠るんだ。今度は永遠に起きないんだろうなって。みんなと一緒。等しい死。なんか素敵、って。でもお前はそう思わないんだろ?」
「……まあ……そうだね」

 等しい死。
 そう言われると、そうなんだろう。
 でも俺は死ぬのが怖い。
 死にたくない。
 死にたくないから、全力で足掻く。
 もっと生きていたいって思ってる。
 もっと生きていたかったから……。
 デュレオはそうじゃないの、わかってるけど。

「俺は別に生きたいって人間が思うのはいいと思う。俺がちょっと死ななすぎて、もうつらくなってるだけだから」
「……うん」
「ただこうして、生きたいやつが長く生きて死にたくなるところを見るのが、今からヤダなって思ってるだけ。シズフは別に生きるのにも死ぬのにも興味なさそうだけど、忘れることもできないのに生き続けるって簡単じゃないしねぇ」
「……うん」

 それは、わかる。
 前世の記憶があるから、忘れることもできずに生きるのはつらい。
 簡単じゃない。
 割り切れてない。
 まだ許せないし、前世への未練は残ってる。
 それでも生きるしかない。
 生きたいと思ってしまう。

「それでもギア・フィーネの登録者は比較的……」
「?」
「うん……比較的頭がおかしい」
「ん?」

 なんて?

「おかしいというか、精神が弱い者が選ばれやすい」
「……? そ、そう?」
「そう。悠久の時を生きられそうにない。特にお前」
「俺」

 っていうかなんの話。

「俺はお前が一番可哀想」
「っ」
「お前が狂ってしまうのは、きっと一番悲しむ者が多い。だからこの話をした。可能ならクレアの友達になってあげてほしい。それがお前のためにもなると思った。ギア・フィーネのギア5が登録者を神格化させるのなら、お前だって覚悟しておかなきゃいけない。でも、悠久の時を生きる覚悟なんて普通の人間はしないだろう?」
「…………」

 ぞわり、と足元が冷えた。
 デュレオの表情がさっきと違う。
 柔らかい。
 本気で俺を憐れんでいる。
 それがあまりにも怖い。

「…………ぁ……」
「お前、一度死んだことがあるんだろう? どういう経緯か知らないけど……だろう? それを繰り返すんだと思うと気分はどう? もしもその覚悟がないなら——四号機にはこれ以上乗らない方がいいんじゃないの……?」
「っ」
「俺は“生きたい”って思う、人間の心とか、本能とか、願いとか……そういうのは否定しないよ。ただ、とよくない」
「…………。うん……」

 言いたいことはわかる。
 それも、とてもよく、わかる。
 自分が今どんな顔で答えているのか、窓ガラスを見るのが怖いな。
 本当に、その通りだと思うけど。

「まあ、とりあえず今日は俺のライブ楽しみなよ。今日という日は今日しかないんだから。度肝抜いてあげるから腰抜かさないでね」
「……うん、わかった。そうだな。楽しみにしてる」

 いつも通りの俺で応えられた自信が正直、ない。
 ——でも、本当にさっきとは別人だ。
 “歌手”のデュレオと“素”のデュレオ。
 控え室から多分、シズフさんも観てるんだろうなぁ。
 たくさんの人間が、瞬く間に魅了されていく。
 いつかシズフさんが言っていた、「デュレオの歌を聞けばわかる」って多分こういうこと。

「……………………」

 今日という日は今日しかないんだから。

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