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間章

美と芸術の魔性の邪神(1)

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 神無月も半ば。
 なんだかんだ国内でのやるべきことが山積みだったので、時間が経つのが早い早い。
 今日はデュレオのコンサート。
 平民の学生たちにスタッフ業務を行ってもらい、貴族学生を学院の広場に集め、コンサートの中身はデュレオのやりたいようにやってもらうことにした。
 まあ、ていのいい丸投げである。
 でもまあ、主催は金を出して口を出さない。
 それでいいと思うんですよ。
 なお、母上と父上も『美と芸術の神』のお披露目の名目の下、広場の見えるところに高台を作って俺とレナもそこで鑑賞することとなった。

「全生徒が集まったかのようだな」
「参加は任意でしたが、やはり信仰心が試されますからね……」

 父上も面白そうに生徒たちを見下ろしている。
 俺も予想だにしなかった数が集まったのだ、無理もない。
 信仰心、と言ったが、それ以外に“俺”を認めた“新しい神”というのが気になるのだろう。
 かつて聖殿派と呼ばれていた貴族たちも、今やその聖殿が完全に王家の下に戻った。
 王家——っていうか、まあ、俺が神々を聖殿に連れてきたことで、力関係が逆転したためだ。
 父上と母上の手腕で反王家は次々追放され、レオナルドがラウトとディアスに聖殿の新たな聖殿長として据えられたことで、反王家はすっかりなりを潜めた。
 そうならざるを得なくなったのだ。
 レオナルドの母親メリリア元妃が父から妃の座を降ろされたのもでかい。
 とはいえ実家のアダムス侯爵家は俺の側近、ランディを抱えておりプラマイゼロなノーダメージ。
 そういうのを見ているので、新たな神へのお披露目は色んな意味で目が離せないのだろう。
 反王家としては、新たな神を認めない選択肢を取りたいのかもしれないが、デュレオはそういうやつらを見つけ出して煽るのが大好きだ。
「見つけたら好きにしていい?」って舌舐めずりしながら言われたので「つまみ食いの前にナルミさんに教えてほしいな」って言っておいたので大丈夫だと思うんだけど、とりあえず反王家で生き残ってる人、頑張って生き延びてほしい。
 一応俺は「オーバーキルやめてあげてねぇ」ってデュレオとナルミさんにお願いはしておいたから……。

「ようこそ、雑魚人間ども!」

 そして姿を現す前に第一声。
 いや、第一声ひっでぇな。

「その雑魚の人間の中でもこの国の王子ヒューバート・ルオートニスは腹が立つ。この俺をこんな狭い場所で飼えると思っている。はっはっはー! 飼えるものなら飼ってごらん」

 いきなり悪口?って思ったが、次の瞬間空中で爆発が起こった。
 始まる前、「度肝抜いてあげるから腰抜かさないでね」って言われたけど、爆発は想像してなかったわ。
 しかし、透明バリアが張ってあったのか、生徒たちに爆発が降りかかることはない。
 それどころか、モニター画面のようなものが無数に学院中、いや——王都中に現れた!?

「まさか……!」

 そのまさからしい。
 漆黒のステージ衣装で現れた『美と芸術の神』は、王都の民全員に歌を聴かせるつもりのようだ。
 すう、と息を吸い込む。
 次の瞬間の、最初の一声できっと俺だけでなく王都中がその歌声に聴き惚れる。

 別人だ。

 実は俺、始まる前にデュレオに会った。
 学院の一室を控え室にしていて、会いに行ったのだがシズフさんがソファーで寝落ちていたので「あらぁ」と肩を揺すったのだ。
 聴きたいって言ってたの、シズフさんだし?

「仕方ないやつ」

 と言って、自分の櫛で寝たままのシズフさんの髪を梳かし始めたのだ。
 これにはびっくりしたよね。
 出会い頭に殺し合い始めた二人だよ?

「……もうこうやって世話するやつは、俺ぐらいしか残ってないんだからさぁ」

 声かけづらいこと言う。
 ソファーの背もたれに寄りかかりながら、そんな二人の姿を見てやっぱりなんだかんだ仲はいいのかなぁ、と思った。

「そういえば前も言ったけど俺、弟がいるんだよねぇ」
「弟? ああ、言ってたね……」

 人外の、デュレオの弟。
 なんかその時点でなにかの研究結果——人外なんだろうな、と思う。
 でもなんで急にその話を振ってきたのか。

「あと、ナルミには兄もどきがいる。同じ“胚”を使っているから、生物学的に兄なんだろうけど」
「え? う、うん? ……その兄が、ギア・フィーネを造った——王苑寺ギアン?」
「そう。クズ」

 お前も相当その部類だけどねぇ!
 そのデュレオにクズと呼ばれる天才機械科学者さん……。

「なんかさー……勘なんだけどー」
「うん」
「ギアンの思い通りにことが運んでるような気がするんだよねぇー。死んでなおって感じ?」
「ん、うん?」

 死んでなお、王苑寺ギアンの思い通りにことが運んでる?
 んんんんん?
 どういうこと?

「俺の弟、クレアっていうんだけど……多分性別以外はあのクッソババァの理想通りの成功体なんだよね」
「ん? うん? えーと、御菊名……」
「御菊名・イヴ・ルナージュ。コンピューターウイルス『クイーン』」
「ん、うん」
「俺が失敗作って呼ばれてたのは、食人衝動があるから。でもクレアにはない。だから女の名前が名づけられた。弟って言ってるけど、実質無性だしね」
「……」
「あー……まあ、なにが言いたいかっていうと……見つけたら教えてほしい。……クレアが生きてるのなら——生きてるだろうけど……。……俺はクレアだけは世界で一番……可愛い。人間でいうところの、愛してる。同じだし、でも、俺と違って完璧だから」

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