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ハニュレオ編
番外編 デュレオ・ビドロ(2)
しおりを挟む確か戦後はレネエルに帰り、為政者となって戦後処理に生涯を捧げた一人だ。
四号機の関係者——というよりはレネエル国民は善性な者が多くて、あまり食指が動かなかった。
美味そうなのだが、食いたいと思えない。
マクナッドは関係が近かったこともあり、あれは別腹、といった感じだが。
「あの、デュレオ様は“歌い手”なのだと聞きました! わたしも今から“歌い手”として王都を守るために歌おうと思います。ご一緒にいかがかと思いまして……!」
「は? 君、“歌い手”なの?」
「ディアスさんとラウトにはそうだと言っていただいています」
「ふーん?」
ジー、と“視て”みるとなるほど、確かに体内に結晶魔石がある。
しかもかなり大きく濃度も高い。
マロヌもなかなかの結晶魔石を持っているが、この娘は石の輝きが違う。
とても強い。
覚悟のある魂。
信じる想いの強さ。
かつてのリリファ・ユン・ルレーンを彷彿とさせる輝きだ。
ぱち、と一度目を閉じて、視界を通常のものに戻す。
「……いいよ、ヒューバート・ルオートニスには、さっきめちゃくちゃ笑わせてもらったから」
「む、むぅっ」
実際とても気分がよかった。
あんなに声を上げて大爆笑したのはいつぶりだろう。
それにレナが「デュレオ様」と様づけで呼んできたのもいい。
(現代の“歌い手”ってのにも興味あるしなぁ)
ニコニコ笑いながら、それでも一つ、気に食わないことがある。
ヒューバートが婚約者を一人残していったことだ。
まさか本気で、デュレオの近くに置いても大丈夫だと思っているのだろうか?
デュレオがもう、なんの抵抗もしないと?
さっき人間を食ったところを、まざまざ見せつけてやったはずなのに?
このレナという少女もそうだ。
平然と話しかけてくる。
「でも、俺のこと怖くないわけ? 俺は人を食うよ?」
「え、あ、は、はい。怖いのかと聞かれれば怖いですけど、千年前の“歌い手”であるデュレオ様の歌にとても興味があって……だからあの、はい! 好奇心が優っています!」
「わぉう……」
確かに目がキラキラしていた。
圧倒的な好奇の目。
他の感情が完全に忘れ去られ、純粋な好奇心とひとかけらの尊敬だけが残っている。
この目は苦手だ。
人間を食う生き物を“尊敬”する人間。
ただ慕うとかではない。
ファンです、という人間を食って絶望の表情にするのは楽しいが、これは『デュレオ・ビドロ』という人食いの怪物の“一部”を吸収しようとしている目だ。
餌を誘き寄せるための『歌手』『歌』という手段を、ただ好ましく寄ってきているのではなく学ぼうとしている。
人を食う自分よりも、よほど化け物じみているではないか。
「ソードリオ陛下にご相談したら、城の屋上を使っていいとお許しをいただきましたので、ご一緒にいかがかと!」
「あー、あそこねー。そうねー、ステージとしてはいいんじゃない? スヴィアは?」
「エドワードさんと一緒にいましたけど、お誘いしたらハニュレオの聖女としてご参加くださるそうです。スヴィアさんの歌も楽しみですね!」
「そ、そう……」
グイグイくる。
屈託ない笑顔を浮かべて「では参りましょう!」と屋上を指差す。
(そういえばレネエル人は社交的で人懐こいのが多かったっけなぁ……)
相手の行いよりも中身を優先する。
レネエルといえば四号機の登録者——アベルト・ザグレブの出身地でもあった。
あの国の民は厄介な国々に囲まれているのに、器がでかいのかなにも考えていないのか、おおらかな国民性でだいたいのことを受け止める。
千年経ってもその名残は強いらしい。
「レナ! お待たせ!」
「スヴィアさん! エドワードさんの様子はどうですか?」
「怪我もないくせに暴れるから医務室に置いてきたわ。転んで手のひらに血が滲んでるのを、『死んじゃう~』って泣き叫ぶんだもの! 本当にもう、子どもでもあんなに喚かないわよ。5歳児以下ね」
「あはは……」
「結晶化津波が来ていることも伝えたんだけど、国民や陛下やマロヌ姫のことも置いて逃げようって言うの。どうしてあんなに情けないのかしら……。今までなら、もう少し立ち向かう姿勢を見せていたのに。やっぱり側にワタシしかいなくなったから? ……いえ、今はそんなこと考えてる場合じゃなかったわね。行きましょう、屋上で王都に結界を張るのよね。……ところで、どうしてオズまで連れてきたの?」
じとり、とデュレオを見るスヴィア。
そう、これが普通の反応だろう。
じりじりと距離を取られ、なんならレナの手も掴んだまま離れていく。
その様子にによー、と笑顔になってしまう。
「レナ嬢に誘われたから来ただけだけどー?」
「はぁ!? レナ、本当なの? こんなの連れて行くの? せめて騎士を護衛にさせなさいよ! ヒューバート様はあなたに護衛の一人も残していかなかったの!?」
「パティとマリヤは同行していたのですが、先に屋上に行って結界を張る準備に勤しんでもらっています!」
「ばっ! 一人くらい残しておきなさいよ!」
「津波の時間がどれほどで終わるかわかりませんから、食事と飲み物は必須ですよ、スヴィアさん」
「ぇっ」
「そうだねぇ。……へえ? 結晶化津波のこと、ちゃんと勉強してあるんだ?」
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