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ハニュレオ編
運命の強制力?(1)
しおりを挟むかっこよかろう?
最高スピードは時速三百キロ。
そこそこ重いものも運べる、優秀な子なのだ!
「南西方向の様子を見てきてくれ」
『ギチェーーー!』
心配しすぎかもしれないが、シズフさんが寝てないのは気になるのだ。
この人、自分で「戦闘時以外は寝る」と言ってる人なので。
そしてラウトがご機嫌なのも気になる。
普段こんな、穏やかな笑顔を浮かべるタイプではないので。
15歳の少年時代姿の時でさえ、こんな穏やかな笑顔は見たことがない。
気味悪すぎでしょ。
「お?」
デティーが早馬の乗り手に追いついた。
[使い魔]の魔法は一般的だし、乗り手の騎士もデティーに気づいて口を開く。
もう少し、精密に視界と聴覚を共有設定にして——。
『ジ…………ジジ……、ジ——けて……王都へ、頼む、伝えてくれ! ……化、波……結晶化津波だ! 国境の兵はもう、俺だけ……ジジ……みんな、呑まれ……』
「!?」
早馬に乗る騎士が、馬に回復魔法を連続でかけながらデティーに叫ぶ。
その報告に目を見開いた。
結晶化津波だと!?
「まずい! 技術会議は中止だ! すぐにソードリオ王に報告を! 南西方向から結晶化津波が襲ってきている! 国境警備隊は早馬の主以外壊滅している!」
「ええ!?」
「そんな! た、確かなのですか!?」
「残念だがな!」
技術者の一人が声を上げる。
確かに信じ難いことだが、[使い魔]と視覚・聴覚を共有して得た情報だ。
信じられないなら自分の[使い魔]でも飛ばして確認しに行けばいい。
そう言ってソファーから立ちあがろうとして、失敗する。
うぁぁぁぁあ! もううう!
こんな時にこんなことになるなんてぇー!
「結晶化津波とは?」
「シズフ殿はご存じないか。結晶化した大地に闊歩する晶魔獣が、結界を破って津波の如く押し寄せるのです。聖女の魔法があっても、土地と多くの民の命が大量に奪われる災厄。それが結晶化津波です」
「……晶魔獣とは?」
「ぐっ……! そ、そこからですか……!」
そういえば晶魔獣も説明してなかった気がする。
よし、シズフさんへの説明は、引き続きランディに丸投げしよう。
「ひ、う、ヒュ、ヒューバート王子……王都まで来るのでしょうか?」
「待て、規模を確認する。だが津波に関しては確定情報だろう。早馬はこの国の民だ。ジェラルド、陛下に報告を」
「りょうか~い!
本当は休ませてやりたいところだが、まさか立て続けにこんな自然災害まで襲ってくるとは!
今日はハニュレオ建国以来、一番不幸な日なのでは?
もう一度聴覚と視覚の共有を強くする。
そして、デティーを早馬が走ってきた方向へと飛ばす。
津波の規模を、確認せねば……。
「っ!」
でも、すぐに見なきゃよかったと思った。
陸竜がパッと見ただけでも十体以上いた……。
さらに陸竜よりも大きな陸帝竜。
陸竜が膝の辺りってやばすぎるだろ……!
さらに上空には大型の空竜、雷竜、風竜。
群集になると危険度が跳ね上がる皇帝飛蝗の群れも。
やばい、やばすぎる。
怪獣大戦争でも始めるつもりか馬鹿野郎。
陸帝竜と皇帝飛蝗の群れはヤバすぎる……!
「ヒューバート様……」
「……見えて、わかってる分だけ伝える」
「は、はい」
「陸竜がおよそ十八体、その奥におそらく群れのボス、陸帝竜 。そして一番ヤバいのは皇帝飛蝗。群れだ」
「っー!」
「ヒイイィ!」
「陸帝竜と皇帝飛蝗!? む、無理だ! そんものと戦う戦力は、王都にはないぞ!」
レナに言うついでに技術者たちにも聞いてもらう。
陸帝竜は陸竜の上位種。
それでなくともクソでかい陸竜の数十倍デカい、城どころか、町が一つ動いてるような怪物。
結晶化津波の時にしか現れないと言われている、伝説級の化け物だ。
そしてもう一つクソ厄介なのが皇帝飛蝗。
人の腕ぐらいあるでかい飛蝗が、群集で襲ってくる。
小型で、一匹二匹ならなんの問題のない晶魔獣だが、これが数百万匹単位で襲ってくるのが皇帝飛蝗である。
一匹倒している間に三匹とか五匹とかに襲われて、結晶化して死んでしまう。
数という暴力の権化。
生身の騎士団では止められない。
「…………石晶巨兵とギア・フィーネで対応しよう」
「ヒューバート様……」
「生身で対抗するのは皇帝飛蝗は無理すぎる。五号機の高火力なら陸竜も目じゃないはずだ。ジェラルドは地尖で前線を掻き回してほしい。ランディの光炎と俺で後方へ抜けてきた晶魔獣をできるだけ倒して、王都前に騎士団を配置して俺たちの取りこぼしを担当してもらう。レナはスヴィア嬢と協力して王都に強い結界を張ってくれ。時間を稼げばディアスも来てくれる。王都にいる俺たちだって当事者だ。呑まれてせっかくの交流を台無しにはしたくない」
「っ、は、はい!」
そう、本当に冗談抜きで困る。
俺の人生の目標……結晶化した大地に呑まれて死ぬ——破滅エンドを回避したい。
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