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ハニュレオ編
人外バトル(1)
しおりを挟む「ラウトっ」
「し、知らん! 死んだ人間が生き返るなんて……!」
ラウトも知らない、あれはなんだ?
振り返って見れば——くっ、なんという美丈夫!
体躯そのものはほとんど変化はなく、黒い燕尾服と黒い外ハネの長髪が気品の中に大胆さを醸し出している。
そろそろ慣れてきたと思っていた千年前の人間の造形の美しさ。
彼もまた例に漏れず、大変に美しい。
あと、声ヤベェ……!
ディアスの声も、シズフさんの声もヤベェけど、二人とはまた違った、妖艶な声。
引き込まれて、つい耳が聴こうとしてしまうような、そんな声。
「というか、あの男は——」
「知ってるのか?」
「知ってるもなにも……千年前の世界であの男の名を知らぬ者はいないぞ! 本当にどういうことなんだ!?」
「え、えっ」
「誰なの~?」
もったいつけないで教えてほしい!
と、思っていたが、轟音がして視線をシズフさんとオズの方に戻す。
目にも止まらぬ速さでシズフさんがオズの目の前に移動して、腹パンかましたのだ。
お待ちを。
腹パンで聞こえていい音じゃありませんよ。
「ごっふ……!」
か、貫通?
腹からシズフさんの腕が貫通しておる?
ひ、ひぃぃぃー!
本日何度目かのグロ映像すぎるー!
「こっの!」
「俺を返り討ちにするんじゃなかったのか?」
「っ」
腹パン貫通で動けなくなったオズの髪を掴み、そのまま顔面に向かって膝蹴り。
容赦がなさすぎて悲鳴上げちゃった。
しかも膝蹴りを五回も繰り返し、ここから見えないのがありがたいほど地面に血と髪とあとなんか肉っぽいのが散らばったあと、腹から腕を抜いて両手で頭を掴むとそのまま地面に叩きつける。
よ、容赦が! なさすぎる!
そこからの踏み抜き!
また地面が広範囲にひび割れた!
「……、……な、なあ、誰かシズフさんに身体強化魔法教えた?」
振り返ってジェラルドとランディ、ラウトに聞いてみる。
あまりにもシズフさんから魔力の気配がしない。
でもそんなことあり得る?
身体強化魔法を使わないと、あんなことにならないでしょ。
石畳が半径六メートルは砕けてんだぞ?
「ぼくは教えてないよ~」
「じ、自分も」
「そもそもあいつ、ずっと寝てただろ。身体強化魔法を使う機会もなかったから、見て覚えることもしていないはずだ」
「……。……じゃ、あ……あれ……素?」
ラウトがシズフさんに魔法をコピーされたのは見ていた。
機体同士の戦闘中だったし、神回避の方が印象強すぎて忘れてたけど、そう、あの人魔法を見ただけで完コピしやがるんだよ。
だから身体強化魔法を、見て覚えたんじゃないかとも思ったけど……そうでもない。
だとするならば、あの身体強化魔法ばりの破壊力が元々の身体能力ということになる。
そんなことあるぅ?
目の前の現実が、受け入れられないんですけど!?
「「「「………………」」」」
思わず押し黙ってしまう。
俺だけでなく、ジェラルドとランディとラウトも。
ラウトも驚いてるのは、多分生身の戦闘を初めて見たからだ。
千年前からの因縁はあるだろうが、それは“ギア・フィーネの登録者同士”のもの。
機体同士の戦闘が主流で、白兵戦はしたことなかったんだと思う。
二度目の死亡をしたはずのオズが、また立ち上がって頭を再生させる。
どちらも、異常だ。
あまりにも異様な光景。
本当に、あそこだけ異質すぎる!
「オズ……」
「どうなっておるのだ」
騎士たちに囲まれ、守られているソードリオ王とマロヌ姫。
俺たちよりも関係が深いマロヌ姫たちには、オズがあんなトンデモ生物だとは到底思わなかっただろう分ショックもでかいだろうな。
視線を戻すととても入り込めない超次元肉弾戦バトル。
シズフさんが蹴りで左腕を肋骨ごと折ると、着地した途端左腕がぐにゃんと垂れ下がる。
しかしそれを笑みすら浮かべて再生させるオズ。
体が自由自在すぎるだろ。
攻撃力でゴリ押しするシズフさんの労力が、徒労に終わるのを数回繰り返し見た時いい加減苛立ってきたオズが上級魔法を展開した。
[ファイヤランス]。火の槍だ。
あれだけの数を一気に展開するなんて……。
「いい加減ウザいんだよ! 死ね! シズフ! 赤き炎よ、我が敵を穿ち火葬せよ! [ファイヤランス]!」
そう言って発動させた炎の槍が、シズフさんに向かって飛んでいく。
俺たちとしては「やっちまったなぁ」という感情しか浮かばない。
「は?」
目を見開くオズ。
シズフさんの背後から湧き出る炎の槍。
オズとまったく同数。
「あの男、本物の化け物か……!」
神格化して人間辞めてるラウトでさえ、シズフさんの初見コピー魔法をそう評する。
無理もない。
ラウトが五号機に乗ってる時使った魔法も、オズが今使った[ファイヤランス]も、上級魔法だ。
それを初見で、魔法陣を見ただけでコピーする。
魔法の基礎すら学んでない、杖すら持たない人間が。
どれほどの使い手でも、ジェラルドやラウトでさえも、呪文は必要不可欠だというのに無詠唱で。
規格外だ。
なんなんだ、あの人は。人か?
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