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ハニュレオ編
蠢くもの(4)
しおりを挟むエドワードが指差して命令を下すと、ソードリオ王の前に騎士団長が出る。
手を出すまでもないかな、と思いつつも杖を出してエドワードの兵と騎士団長たちの間に結界を作った。
「[リフレクションダークネス]!」
「なんだと!?」
「ぐぁぁっ!」
振りかぶっていたエドワードの兵が、うっかり剣を俺の作った結界[リフレクションダークネス]に振り下ろして思い切りぶっ飛ぶ。
ダメよ、この結界。
受けたダメージを倍にして返すから、迂闊に攻撃しちゃ。
「これは……闇魔法の上級魔法ではないか……! ヒューバート王子は闇魔法師であったか」
「硬さだけなら土魔法師に負けませんよ」
ふふふ、俺だって魔法ならちゃんと鍛練も勉強もしているんですよ。
ギア・フィーネの操縦に比べれば、頑張れば頑張っただけ成果がわかる。
……ただし、俺とラウトやジェラルドを比較しないでくださいね。
こいつらは無尽蔵に魔法使い続けられるので。
「その歳でこの魔法を使えるとは……! ルオートニスの王子殿下は素晴らしいですね!」
「あ、ありがとうございます」
やだん、技術者の人たちに褒められるとちょっと嬉しい……。
「ハニュレオの技術者たちは見る目がありますね」
「うんうん」
「ヒューバート様の闇魔法は本当にすごいですものね!」
「うんうん!」
「お、俺をヨイショしてもなにも出ないからね!」
俺の幼馴染たちと婚約者が俺を甘やかしてくる!
やめろ、俺がうっかり調子に乗って『救国聖女は浮気王子に捨てられる~私を拾ったのは呪われてデュラハンになっていた魔王様でした~』のヒューバートばみたいになったらどうしてくれる!?
破滅エンドの年齢まであと二年もあるんだから、その可能性もなきにしもあらずなんだぞ!
気を、気を引き締めるんだ、俺!
ここで油断してはいけない!
調子に乗ってはいけないぞ!
せっかく順調に破滅エンドから遠ざかっているんだ、このままもっと遠ざかるんだ!
俺は絶対、『救国聖女~』のヒューバートみたいに破滅しねーぞ!
「こほん。ソードリオ王、このまま城中の騎士たちが集まって来るのを待ちましょう。向こうは少数精鋭のつもりで来たようですし」
「うむ、元よりそのつもりであったが、ヒューバート王子のおかげでなんとかなりそうだ。人質にされている者たちのことも、なんとか助けたいものだがそれはこちらでやろう」
「! 陛下、エドワード様が」
「む!」
やはりソードリオ王もそのつもりだったようだ。
だが、確かに人質は厄介。
いつも通り真面目に仕事をしていた人たちが、突然巻き込まれてんだもんよ。
だが、エドワードは俺たちの予想の斜め上をいった。
オズが叫んだ先にいたのは、スヴィア嬢に剣を突きつけるエドワード。
「おいおいおい、マジか!」
「この魔法を解け! さもなくばスヴィアに一生消えない傷を残してやる!」
「エ、エド……っ」
他の人質とスヴィア嬢ではある意味、国としての価値が格段に違う。
なぜならスヴィア嬢はハニュレオの聖女だからだ。
石晶巨兵で結晶化した大地を治療するにしても、聖女がいないと話にならない。
マロヌ姫も聖女候補——オズを助け出すほどの力は持っているようだが、王女として学ぶことも多かろう。
聖女としてのお役目を果たしながら、次期女王としての教養を身につけるのは大変だ。
スヴィア嬢の存在は国にとって重要。
それを人質にするとは。
っていうか!
「スヴィア嬢は幼馴染なんじゃないのか!? 友人を人質にするなんて!」
「黙れ! だったらその結界を解除しろ!」
「お前……ホンットに……!」
見下げ果てたとはこのことか。
なるほど。
ソードリオ王の言う通り、実にいい勉強になる。
俺の目指す世界で、こうも会話が通用しない人間相手にどうしたらいいのか。
自分のことしか考えていない人間を、どう裁けばいいのか。
でも考えるのはあとにしよう。
「上等だゴラァ! ぶん殴るからその場を動くなぁ!」
「ヒューバート様!?」
「ヒューバートが珍しくブチギレだ~」
「足止めしておくか?」
「あ、ラウトは動かないでください。マジで」
ラウトが動くと——結晶権能を使うと人が死ぬので。
[リフレクションダークネス]の外に出られるのは、使い手である俺だけなので、とりあえず出て行って一発殴ろう。
殴……。
「ぎゃぁ!」
「ぐあ」
「ごっふ」
「な!? な、何事だ!?」
城の文官やメイドを人質に取っていた兵たちが、突然倒れた。
しかも頭から血を流してる。
……死んでる?
「! 待て!」
「っ!」
まるで狙撃されたような状況に、思わずエドワードを庇うようにある方向を見て止めに入ってしまった。
そしてそれは正解だったと思う。
狙撃者は二号機の操縦席から、ライフルでエドワードの兵たちを狙撃していた——シズフさんだったので。
あれも二号機の操縦席に積んであったんだろうか。
どこにしまってあんの?
「ランディ、ジェラルド、人質を[リフレクションダークネス]の中へ!」
「はい!」
「了解~!」
「シズフさん、こいつはダメだ! こいつはこの国の王子だから! 責任を取らせなければいけない!」
そう叫ぶと、ライフルを下ろす。
安堵したいけど到底できそうにない。
ラウトもそうだけど、千年前の人類マジ容赦なさすぎる。
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