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ハニュレオ編
蠢くもの(3)
しおりを挟む「エド! もうやめましょう! こんなことをして王になっても、国民も家臣もあなたを王として認めないわ!」
「うるさい! 下がっていろスヴィア!」
「きゃあ!」
「!」
あいつ……。
スヴィア嬢を裏拳で殴りやがった。
女性に手を挙げるとは、紳士のやることじゃない。
クズめ……!
「救いようがなさそうだな」
「貴様は……! ルオートニスの王子! やはりその兵器を父上に売りつけるつもりだったのだな!」
「兵器じゃねーよ。石晶巨兵は対結晶化した大地魔道具だ」
「そんなでかい魔道具があってたまるか!」
「あるんでーす。現にここに。視野が狭いな」
「っ! 黙れ! その兵器もおれのものにしてやる! そこに居直り待つがいい!」
うーん、どうしよう。
石晶巨兵を兵器だと思われているっぽい。
もしくは、ギア・フィーネと石晶巨兵の違いがわかってない?
石晶巨兵はこんなに可愛いのに……?
というか、どうしような?
俺は石晶巨兵を兵器化しようとする輩を、許すつもりはない。
石晶巨兵を兵器として使おうとする者には、ギア・フィーネと我が国の守護神の力で持って対抗する。
早くもその時が来てしまうのだろうか?
「ええい、なぜお前はそうなのだ! ヒューバート王子はその技術を他国に提供し、共に手を取り合って歩んで行こうと言ってくるほどだというのに!」
ソードリオ王、一呼吸でそこまで叫べるのすごいな……!
ご年齢の割にやはり元気でいらっしゃる。
「おれは当然の権利を主張しているだけです! 侯爵令嬢の母から産まれた私が、なぜ平民上がりのマロヌに劣るのですか!」
「人の話を聞かないからじゃないか?」
「ヒューバート様っ」
「あ、しまった。つい」
レナに袖を引かれてからハッとする。
やばい、声に出ていたか。
いや、だってさー、マロヌ姫は俺の話もちゃんと聞いて返事してくれたしさー。
「血筋からいって、おれが王太子になるのが道理でしょう!」
よかった。
話を聞いていないから、俺の呟きも聞こえていなかったっぽい。
良し悪しだなぁ。
「……そのようにすぐ激情に流される者が王太子だと? 笑わせるでない。何度も言っているであろう。自分自身で考えられぬ者が、国王になどなるべきではないのだ。お前は自分のことを客観的に見られぬ。周りの者の都合のよい言葉ばかり聞き、自分の言葉のように語る。まったく持って情けない」
「おれはおれの意志で話しています!」
「いいや。お前は自分自身で考えぬ。考えておればこんな軽率なことはせん」
それなー。
ソードリオ王がとても正論。
しかし、こうしてエドワードとソードリオ王が口論している間にエドワードサイドの貴族の私兵たちが、周りを囲んでいく。
当然武器も持っており、騎士たちが俺たちを守るように陣形を展開してくれているがあまりいい状況ではない。
「ヒューバート様、ど、どうしましょう……っ」
「軽率だなぁ」
「え?」
取り囲まれている状況は確かにいい状況ではないのだが、ここは騎士団の施設だ。
人質が数名いるのをなんとかすれば、俺たちを囲む私兵たちを、施設内にいる騎士たちが取り囲むことになるだろう。
つまりまあ、エドワードたちに許されている道は短期決戦のみ。
それなのにソードリオ王の思惑に——時間稼ぎに乗り、ベラベラと長々口論している。
……本当に愚かな……。
思わず「ふぅ」と溜息が出ちゃう。
俺もあんな息子だったらどうしよう?
いやいや、俺とレナの子どもがあんなアホになるはずがない。
甘やかさずに、しっかり育てないと……って、なにを考えてるんだ!
「いやいや、レナとの子どもだなんて、こんな状況で考えるとことじゃないよ。へへ……でも俺もレナも16歳だし、結婚できる年齢なんだよな」
「ヒューバート様!? ほ、本当になにを考えてるんですか、こんな時に!」
あ、ルオートニスは結晶化した大地の侵食や、晶魔獣の襲撃などもあり成人年齢が18歳。
そして、結婚可能年齢が男女共に16歳となっているのだ!
正直生きるのキツい世界なので、父上の代では「もう少し成人年齢と結婚年齢引き下げる?」という話にもなっていた。
結晶病で子どもが死ぬこともあるしね。
世知辛い世の中ですよ、異世界も……。
「ヒューバート、あまりふざけていい状況ではないぞ。戦場では真面目にやれ」
「すみません」
うちの戦神様に叱られたので真面目にやります。
「父上! いい加減におれに王位を譲ると言ってください! でなければ今この場で父上を殺さなくてはならなくなりますよ!」
「いい加減にするのはお前の方だ、馬鹿者め! 儂を殺して得た王位を、民や家臣が認めると思うのか!」
スヴィア嬢と同じことをソードリオ王が言うと、エドワードがわかりやすく表情を歪めた。
さて、エドワードもそろそろ限界そうだな。
癇癪がくるぞ。
「こ、殺せ!」
「……本当に愚かな……!」
「エド、やめて!」
「おとうさま!」
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