175 / 385
ハニュレオ編
長い一日
しおりを挟む「ふぃー、なんか昨日今日と色々ありすぎて疲れたな」
「お疲れさんでございます」
一等の客室に案内され、護衛のランディとジェラルドを隣の部屋に置いて寝室に入る。
ブーツを放り投げて礼服を脱ぐと、姿を隠していたトニスのおっさんが現れた。
いやぁ、相変わらずこの人の[隠密]魔法すごすぎぃ。
そして姿を表すなり、ブーツを二足並べて礼服をハンガーにかけてくれる。
おかんか。
「あ、そうだ。おっさんにお願いしたいことがあります」
「はい、なんでしょう。オズという男の正体とか、ですかい?」
「ううん。それはいい。今からルオートニスに帰ってくんない?」
「はい?」
かなり唐突に聞こえるだろうけど、おっさんには影鉄もあるし、晶魔獣使役の首輪もある。
着いたばっかで、ミドレの時みたいなことになるとも限らない。
護衛の任を外すとはどーゆー了見だ、って言いたい気持ちはとてもわかる。
俺としてもおっさんに外れられるのは不安しかないもん。
けど、タイミング的には今だと思う。
「一度ルオートニスに戻ってメリリア妃の動向を調べてほしい」
「? あの方にはもう、なんの力もありませんよ? まだ警戒しておいでなんですか?」
「うん。というか、いい加減そろそろ動き出しそうというか——ちょっと気になってたんだけど、なんで今になってセドルコ帝国から使者が来るの?」
「!」
「探っていた、ってのは隣国のことだし、わからんでもないんだけどさ……俺が出かける当日ってタイミング狙いすぎじゃない? っていうか、石晶巨兵のことを聞きたいのなら俺とジェラルドが出かけるタイミングは——どっちかっていうと、セドルコ帝国にとってはあんまりよくないよね? リーンズ先輩は研究塔から出てこないしさ」
「…………ですね?」
つまり、俺とジェラルドが出かけるタイミングで使者を寄越したのだ。
なんで?
情報をあまり渡したくないけど、そうしなければならない。
もしくは、俺とジェラルドがいない方が都合がいい。
セドルコの使者が来たら当然、父上は対応に出るだろう。
母上はまだ手のかかるライモンドにつきっきりだろうし。
レオナルドは学院だし。
「手薄になりますね?」
「でしょ? とはいえ、軟禁状態から抜け出すには時間がかかる。使者がどんだけごねてるか知らないけど、目を逸らすだけが目的ならもうなにかしらの用事は終えていると思う。用事が終わったら次は準備じゃない? ……タイミング的に今だと思うんだよね」
「っ、そうですね。なるほど、わかりました。一旦帰国させていただきます」
「お願い。何事もないならそれでいいし、一休みしたあとコルテレとソーフトレスに行ってほしい。戦争中だから情報収集には時間がかかるだろうし、ハニュレオ国内の様子もあんまりよくないからコルテレとソーフトレスに行けるのは来年以降になると思う。だからまあ、ゆっくりでいいけど」
「わかりました。ルオートニス国内の方がややこしいことになっていた場合は、陛下の指示に従うようにしますよ」
「うん。それで」
トニスのおっさんを父上が動かしたら、俺なんて太刀打ちできないぐらい即座に収拾つけそうだなぁ。
こういう時、王族としての自分の平凡さにほとほと嫌になる。
もっと才能があれば、と思ってしまう。
どこまで行っても、俺は平々凡々な一般人だ。
『救国聖女は浮気王子に捨てられる~私を拾ったのは呪われてデュラハンになっていた魔王様でした~』の悪役王子ヒューバートは、才能あふれるチート聖女レナの才能に嫉妬していた、とか、なんかそういう描写もあったしね。
だから平凡な聖女のマルティアが好ましかったのだろう。
その劣等感は、俺にもわかる。
破滅したくないし、今は純粋にレナが好きなので俺は絶対レナを裏切ったりはしないけど。
「あ、気をつけてな?」
「はーい」
「普通にドアから出て行ってもいいのよ?」
「いえいえ、お忍びですからねぇ」
と、窓から飛び降りて出ていくトニスのおっさん。
あれー?
ここ四階ではー?
いや、まあ、今更なんだけども。
「さてと……今日はもうさっさと寝よう。明日は技術者たちとの話し合いだし。……そういえばディアスとラウトが、この土地に千年前あったカネス・ヴィナティキ帝国には、独自の兵器があるって言ってたな。ナンダッケ? うすは……コー……だめだ、名前長くて思い出せん。寝よ」
寝よ。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる