170 / 385
ハニュレオ編
ハニュレオの王
しおりを挟むしかし正体不明の新参者がそれほどまでに王と次期女王に重用されることを快く思わない貴族たちから反発は強い。
エドワードの周りに集まっていたのも、そういうやっかみを持つ貴族たち。
ある意味、今のハニュレオの分断はこの男が原因とも言える。
その元凶に、まさか真っ先に会えるとは。
「————」
「?」
しかし、男の視線がふと、俺を通り過ぎる。
扉が閉まる直前まで、オズは外の機体たちを見ていた、ような?
「ギア・フィーネがなにか?」
「ギア、フィーネ」
「ああ」
これは少し鎌をかけた。
表情全体はわからないが、一瞬笑みは消える。
しかし、すぐに最初と同じ、どことなく胡散臭い笑みを浮かべた。
「いえ、申し訳ありません。聞き覚えがあるような、見たことがあるような……奇妙な感覚を覚えまして」
「ん? どういうことだ?」
「実は、マロヌ姫に拾われる前の記憶が曖昧なのです。私はマロヌ姫に助けられるまで、結晶化した大地にいたらしいので」
「……!」
ラウトや、シズフさんと同じ、ということか?
まさか?
「……そ、うなのか……早く記憶が戻ると、いいな?」
「ふふ。戻らずとも、私はマロヌ姫に仕えることができて今が十分幸せでございます。さて、どうぞこちらへ。まずは応接室の方へご案内いたしますよ」
背丈は180センチくらい。
もう少し高いかもしれない。
黒を基調とした燕尾服。
しかし、バトラーのものとは少しデザインが異なる。
その曖昧さが、彼の立場を表しているようだ。
「ヒューバート様?」
「……いや、行こう」
レナが心配そうに見上げてくる。
安心させるように微笑みかけてから、少し、斜め後ろのジェラルドを見た。
青い髪。青……空のような、天色。
「……まさかな」
空のような天色の髪。
ギア・フィーネの名を聞き覚えがあり、ギア・フィーネの姿に見覚えがある。
結晶化した大地から助け出され、あらゆることに優秀。
そして、この地には最初から『エアーフリート』という、『ジークフリート』の母艦があるとされていた。
エアーフリートにはギア・フィーネ三号機が隠されている。
ジェラルドの先祖は三号機の登録者の姉。
ジェラルドは、三号機の登録者によく似ているらしい。
それこそ、髪の色も目の色も。
ただ、研究塔の地下の映像で聞いた声とは少し違うような気がする。
オズと名乗ったこの男も、非常に、それはもうタイプの違う腰抜けそうになるような非常にイイ声だが……三号機の登録者はもっとこう、男でも容赦なく耳を孕ませてくるような——そんなヤヴァ~~~イ声だった。
やはり考えすぎだろうか……?
けどなぁ?
「こちらです」
「ああ、ありがとう」
まあ、ひとまず考えるのはあとにしよう。
彼の後ろについて入っただだっ広い応接室に通された。
俺たちを案内し終えたオズは、そのまま上座の方へと移動し、王と王女の横にと待機する。
それたけでこの男の地位の高さが窺えた。
護衛の意味もあるだろうが、あまりにも近い。
生まれも育ちもわからない、結晶化した大地から救い出された謎の男。
しかも顔の上部を隠す仮面。
それを横に置くほど、信頼を置いている。
もしかしてヤバい王なのかな、と少し心配したのだが——なるほど、ヤバい。
父上よりも、圧倒してくるオーラ。
エドワードのお付きが王気がどうのと言っていたが、これこそが王気ってやつかぁ。
ラウトやディアスと知り合いじゃなかったら、圧倒されてそう。
「よく来たものだ。まさか儂が生きている間に、他国より人が来るとは思わなんだ」
「お初にお目にかります、ソードリオ王。ルオートニス王国第一王子、ヒューバート・ルオートニスと申します。こちらは我が国の『王家の聖女』、レナ・ヘムズリー」
「初めまして、ソードリオ陛下。レナ・ヘムズリーと申します」
レナが丁寧に挨拶をして、ソードリオ王が椅子にかけるよう促す。
席に着くと、ソードリオ王は一口水を飲む。
「書簡の方、読ませてもらった。にわかには信じ難いが、貴殿らが儂の目の前にいることこそがその証明だろう」
「信じていたたけるのでしたら話は早くて助かりますが……ご希望になられるのでしたら、石晶巨兵の性能をご覧に入れることも吝かではございません」
「いや、よい。この歳になると出歩くのも大変でな……。その代わり、滞在中ぜひ石晶巨兵とやらの性能を娘に見せてやってほしい」
と、ソードリオ王が隣に座る幼女の背中に手を添える。
緊張で固まっていた幼女は、触れられてハッとしたのかその場に立ち上がり「ごあいさつがおくれました」と頭を下げた。
「マ、マロヌ・ハニュレオともうします」
「儂には子が二人おるが、この子を次期王とするよう話が進んでおる。儂になにかあった時は、このマロヌと話を進めてほしい」
「……。……その言い方ですと——」
俺の手紙の内容を、受け入れる。
そう言っているように聞こえるんだが。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
絶世のディプロマット
一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。
レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。
レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。
※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生無双の金属支配者《メタルマスター》
芍薬甘草湯
ファンタジー
異世界【エウロパ】の少年アウルムは辺境の村の少年だったが、とある事件をきっかけに前世の記憶が蘇る。蘇った記憶とは現代日本の記憶。それと共に新しいスキル【金属支配】に目覚める。
成長したアウルムは冒険の旅へ。
そこで巻き起こる田舎者特有の非常識な勘違いと現代日本の記憶とスキルで多方面に無双するテンプレファンタジーです。
(ハーレム展開はありません、と以前は記載しましたがご指摘があり様々なご意見を伺ったところ当作品はハーレムに該当するようです。申し訳ありませんでした)
お時間ありましたら読んでやってください。
感想や誤字報告なんかも気軽に送っていただけるとありがたいです。
同作者の完結作品「転生の水神様〜使える魔法は水属性のみだが最強です〜」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/743079207/901553269
も良かったら読んでみてくださいませ。
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる