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ハニュレオ編

ハニュレオの第一王子(2)

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 よかった、スヴィア嬢はまともだ、比較的。
 彼女に通訳になってもらおう。

「それならせめて王子として! もう少しまともに話し合いができると助かるんですが」
「そうね!」

 力強い同意をいただいたんだぜ、エドワード。

「エド、ヒューバートの話を聞いて! あなたさっきから本当に彼の話を聞いてない! そんなのダメよ!」
「うるさい! お前は黙っていろ、スヴィア!」
「っ!」

 手は出さなかったが、スヴィア嬢を強い眼差しで睨みつける。
 それに、エドワードの周りにいた者たちがスヴィア嬢をエドワードから引き離した。
 あー、なるほどねー、そういう状況なのね。

「!? ヒューバート様っ」
「殿下!?」
「いい、みんな動くな」

 非常に……それはもう、俺はその光景に腹が立った。
 なんだろう、今までで一番ムカついた。
 こんなに腹が立ってるのは、前世で俺が死ぬきっかけになった電動キックボードの運転手ぐらいかも。
 一歩、二歩と前へ歩いて、エドワードたちへと近づいていく。
 さすがに俺がこんなに無遠慮に近づいてくるとは思わなかったのか、エドワードを含めた一味全員が困惑気味。

「他国の王子が目の前にいても、名乗りもしないとはどういうことだ? 呆れて物も言えない」
「っな……なんだと」
「……本当言うと先触れの者に俺と同い年の、俺と同じ第一王子がいると聞いた時は少しだけ楽しみだった。国の未来のことなど、話し合えたら楽しかろうと。けれど目の前の人間と目も合わせず、話もできない。お前みたいな者が王族にいるなんて、この国の民は可哀想だな。俺がこの国の民なら、お前のような王子に王にはなってほしくない。他国の者である俺にここまで言わせたのだから、反省して出直せ! エドワード・ハニュレオ」
「————っ!」

 まあ、本当に。
 正直に言えばだ。
 最初に俺と同じ歳、同じ第一王子がいると聞いた時は、本当に、少し、話をしてみたかった。
 けれど妹に手をあげ、城から追放されたらいじけて反乱分子を集め、その旗印になっている。
 世界がこんな状況に陥っているのに。
 結晶化した大地クリステルエリアの拡大こそ、ラウトの覚醒で停止したとはいえ国土が改善されたわけでも、結晶化した大地クリステルエリアの結晶化がなくなったわけでも、晶魔獣がいなくなったわけでもない現状で、国民をさらに苦しめるような戦争なんて選択肢を視野に入れているやつと話し合いなんてできそうにないなと——思うわけですよ。
 それは正しかった。
 周りの甘言ばかり聞き、スヴィア嬢の諫言には耳を貸さない。
 まるで『救国聖女は浮気王子に捨てられる~私を拾ったのは呪われてデュラハンになっていた魔王様でした~』のヒューバート・ルオートニスみたいではないか。
 俺が全力で避けて通ったその道を、迷わず突き進んでるみたいで腹が立つ。
 ああ、むかっ腹が立っていたのはきっとそういう同類嫌悪というやつか。

「こ、殺せ——!」
「エド!?」
「発動せよ。[ブラックルーム]」

 袖からスルッと杖を出し、地面に向ける。
 すでに詠唱を終えていた魔法を発動すれば、地面に大きな黒い穴が開く。
 それは瞬く間にキャンプ地を覆い、半円形の“部屋”になる。

「な、なんだこれは! 闇魔法!?」
「み、みんなどこだ!? 姿が見えなく……うわぁぁあぁ!」
「なんだ、どうした!?」
「ぐわあぁっ!」
「どうしたんだ!? なにが起きているんだぁ!?」

 …………賑やかだなぁ。
 はい、ではここで俺の新魔法[ブラックルーム]について解説します。
 半円形の真っ暗な部屋。以上。
 ちなみに俺の部下と守護神様は、ただ真っ暗な空間ってだけなのを知ってるので無言で動かないでいてくれています。
 そしてそんなことを知らないハニュレオの皆さんは、騒いで動いて転けて悲鳴を上げて、その悲鳴を真横で聞いてさらにパニクってすっ転んで悲鳴を上げているのである。
 そうしてパニックが感染して、俺はなにもしてないのに勝手に恐慌状態。
 ちなみに、[灯]などの明かりを点ける系魔法も無効化する。
 とはいえ真っ暗闇たいうのは、人間の精神にあまり良いものではない。
 長時間使えば拷問にも使える魔法なのでそろそろ切りますよっと。

「ぎゃぁぁぁあああぁぁぁ!」

 魔法を消しただけなのにこの悲鳴。
 腕を組んで見下ろしてみると、エドワードとスヴィア嬢を含めた全員が半泣きで地面で右往左往していた。
 間抜けな光景である。
 まあ、急に暗くなったらびっくりするもんね。
 仕方ない仕方ない。
 ……全員が腰を抜かしてる光景はかなり面白いけどな。

「……少しはこちらの話を聞く気になったか?」
「ひっ!」

 エドワードに至っては腰抜かしただけでなく泣いてるしなぁ。
 頭が痛い。
 旗印っていうだけで、指揮官でないにしても王子がこのザマとは。
 頭を抱えてしまう。

「同じ王子のよしみで教えるけどな、お前がたとえば、俺を男惚れさせるぐらい国のために戦う覚悟のある王子だったら、俺はお前と交渉してもよかったんだよ。結晶化した大地クリステルエリアを横断する方法を、俺は手土産にしてこの国と交渉しに来たんだから」
「っ……?」
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