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15歳編
ハニュレオとカネス・ヴィナティキ帝国
しおりを挟む「四号機を持っていくなら大丈夫ではないか? ザードが作ったクイーンへのワクチンは、イノセント・ゼロにも搭載済みのはずだ」
「そのワクチンを石晶巨兵に組み込めないのか?」
「! そういうことができるのか?」
「くっ、本当に貴様医療分野以外にはポンコツだな。ナルミに任せればプログラムに組み込むのは容易だろう。お前から話しておけばいい」
「ラウトは本当にナルミが苦手だな」
「人をおちょくったあの態度が得意なやつなんかいないだろう!」
「ああ、それとナルミはイクフの婚約者だったしな」
「…………」
「すまない。今のは失言だったな」
イクフは二号機の登録者の実兄、だっけ?
なんかあったのかな?
「……二号機は……どうなった?」
「すまないがよく知らない。カネス・ヴィナティキ帝国でクイーンの除去を行う予定だったとは聞いているが、成功したのかどうかまでは」
「現代にクイーンが広まっている様子はないから、成功したんじゃないのか?」
「いや、クイーンが現代に広まっていないのは機械科学が衰退しているのと、結晶化した大地が拡大していたためだ。お前は世界を終末に追い詰めたが、同時にクイーンの脅威から世界を守っていたと言える」
「……皮肉なものだな」
「そうだな。だが不幸中の幸いだろう」
二人の会話から、俺が思っているよりクイーンってウイルスはヤバそうなんだけど。
石晶巨兵にも感染する?
そうなると——どうなるんだろう?
「あのー」
「なんだ?」
「そのクイーンってウイルスに感染すると、どんなふうにまずいの?」
怖いことは聞いておこう。
ハニュレオがそのウイルスと縁深い土地なら、情報は少しでもいいからほしい。
国交断絶して久しいしね。
「基本的に感染するのは機械類。ギア・フィーネは除く」
「う、うん」
ギア・フィーネいろんな耐性高すぎて凄すぎぃ。
「千年前は今より機械科学が進歩していて、知っての通りAIが人々の生活を支えていた。クイーンはカネス・ヴィナティキ帝国の研究者たちが生み出した、レッドデータプロジェクト総括、通称名称。レッドデータとはつまり“絶滅危惧種”のこと。カネス・ヴィナティキ帝国は、種の保存を計画していたんだ」
「種の保存……? それって、絶滅危惧種を保護しましょう、的な?」
「概ねその通りだが、何者かに手が加えられてクイーンは危険な方向に成長し、カネス・ヴィナティキ帝国に取り込まれてなお自治権を主張していたレジスタンスどもの手によって、世界に拡散してしまったんだ。あとは瞬く間……」
ディアスが頭を抱えて心底「余計な真似をしてくれたものだ」と呟く。
大戦の少し前に起きたというその事件がきっかけで、AIが普及し、人々の生活に寄り添っていたドローンやロボットは軒並み感染し、暴走。
戦争とは無縁だった人々の生活は、瞬く間に、世界規模で脅かされることになった。
ネットワークから切り離した“安全なAI”を求める人々は、カネス・ヴィナティキ帝国に責任を求める。
アスメジスア基国はその声に便乗して、戦争を正当化。
共和主義連合国軍も「正義は我にあり」とばかりに、カネス・ヴィナティキへの攻勢を強めていったという。
しかし、比較的安全と思われていたセキュリティの高い各軍の中にも確実にクイーンは侵食していった。
特にその侵食が如実だったのはミシア。
共和主義連合国軍の代表的な国であったミシアは、それにより内部から瓦解。
共和主義連合国軍はレネエルと大和に分かれ、レネエルはカネス・ヴィナティキに吸収。
大和はアスメジスア基国アトバテントスの庇護下に入った。
大和は元々カネス・ヴィナティキとも友好国だったため、アスメジスア基国アトバテントスの庇護に入ったことに激怒。
アスメジスア基国は当時、王家派と反王家派に分かれて内戦状態だったため、外からの攻撃にも対応しなければならないため大混乱だったらしい。
ちなみに反王家派に加担していたのは、ラウトである。
「ひ、控えめに言って地獄では……?」
「地獄だったとも。各所にクイーンが入り込み、偽の情報を流したり戦闘計画を敵に流したりして、世界の混乱は止まるところを知らなかった」
「しかもあの当時カネス・ヴィナティキ帝国内でも皇帝が崩御し、皇子二人と皇女で跡取り問題が勃発していたしな。皇帝の遺言では皇女を次期皇帝に、となっていたが、第二皇子が第一皇子を殺して皇女も手にかけようとしたとかなんとか」
「ああ、それを助けたのが二号機の登録者だったな」
え、なにそれカッコいい……。
思わずキュンとしてしまうが、ちょっと待て。
「え? あれ? カネス・ヴィナティキの皇女様って歌い手では?」
「そうだ。カネス・ヴィナティキ帝国第一皇女、ラミレス・イオ・カネス・ヴィナティキ。歌い手だ。第八十三皇帝の愛娘の孫娘ということで、当時の皇帝は溺愛していた。ただ父親が平民出身の成り上がりだったため、継承権は低かったらしい」
「だがアレの父親は『残影の万人殺し』スヴィーリオ・イオだろう? 第二次基帝大戦、帝国の英雄ではないか。実際戦った感想だが、ギア・フィーネに乗っていても生きた心地がしなかったぞ」
「そ、それほどだったのか」
「俺の機体とは最高に相性が悪かった。二号機のように姿がまったく捉えられない。二足歩行兵器であっても万人殺しには通じない、という話は本当だろうな。直接操縦席に刃を入れられては、パイロットでも防ぎようがない。むしろ一番安全だと思っているから、死んだことにさえ気づかなかった者もいただろう」
なにそれ、どういう人なのヤバくない?
ラウト……というかギア・フィーネに乗っててもそんなこと言うとか、カネス・ヴィナティキってそこまでヤバい国?
いや、大国だし、アスメジスア基国とライバル関係って言われるとまあ、その時点でかなりヤバい国なのはお察しですけども。
「……さすがに薄葉甲兵装は残っていないと思うが、クイーンの危険性も考えると慎重になった方がいいんじゃないのか?」
「そうだな。俺とラウトはアスメジスア基国の人間。カネス・ヴィナティキにはどうしても警戒心が先にくるな」
「ちょ、ちょっと、あの……怖い!」
「そのぐらいの警戒感で挑め」
「俺もその方がいいと思うよ」
撫で撫で。
ディアスが俺の額を撫でながらラウトに同意する。
えぇ~……ええ~。
「…………ウン……」
行くの怖くなったぁ。
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