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15歳編
約束の日(2)
しおりを挟むそこからは一方的な暴行。
手に持つランスで何度も何度もボロ雑巾みたいにサルヴェイションが殴られ、貫かれる。
「嘘だ!」
「っ、……見上げながら あなたを想う あなたのところへ 飛んでいけたら 手のひらを 天井に掲げてみても 蝶になれるわけでは ないけれど ヒラヒラと 舞い上がる 声を聴いただけで 心が 踊る 蒼い空に 包まれて どこまでも 広く高く 羽ばたいて 雲も超えて 届け あなたのもとへ 私の心」
レナが歌うけれど、ナルミさんがオールドミラーをここから連結操作していても、本体が容赦なく殴られているのでまるで効果が見えない。
「デュラハン!」
魔法陣がサルヴェイションの周りに現れる。
デュラハンが魔法を使った。
風魔法で、五号機を引き離す。
でも、これは俺が悪かったというのだろうか。
ラウトも魔法陣を展開して、炎の盾で風魔法を相殺した。
「え、待って、あいつらが使ってるのなに!?」
「ま、魔法ですね?」
「魔法!? 僕が寝てる間にそんなファンタスティックなことになってるのこの世界!? はあ!?」
ナルミさんは魔法があるの知らなかったんですか……?
結構日常的に使われているけどな?
「デュラハンの魔法でもダメなのか」
相性の問題はあったと思う。
デュラハンが使った風魔法は、火魔法に弱い。
ラウトは全属性の魔法が使える。
デュラハンも全属性が使える化け物だが、後出しで優位属性を出されたら、そりゃあどうしても後からの方が強くなる。
ならば、とデュラハンがオールドミラーを五基使い、剣を作り出す。
それで突進してランスと競り合いに持ち込んだ。
でもなぜだろう、俺はその時、ラウトが笑った気がしたのだ。
「——デュラハン!」
その予感は的中する。
サルヴェイションが結晶化したのだ。
結晶化と言っても、鉱石が生えたような形だが。
普通の結晶病ではない。
だが、結晶化だ。
瞬く間にサルヴェイションの全体が白い鉱石に埋め尽くされて、落下してくる。
「レナ!」
「ヒューバート様、デュラハンさんがっ、あぁっ!」
「ぅっ、うううっ!」
……絶望的だと言われていたけれど、それでもサルヴェイションとデュラハンが負けるなんて——俺には、俺たちには、想像もつかないことだったんだ。
俺たちがいる騎士団の訓練場のすぐ側に落下してきたサルヴェイション。
左腕が肩から崩れ落ち、騎士団の詰所の一つを巻き込んで倒れていた。
一番強いと言われている、一号機。
「デュラハンさん!」
「デュラハン!」
傾いた瓦礫を伝って、操縦席に登る。
砕けた一部から、操縦席の中で顔半分が結晶化しているデュラハンが見えた。
「今、治療を——」
「ダメだレナ。レナが歌ったら……」
「っ!」
デュラハンの首を始め、彼の全身を繋ぎ止めているのもまた、結晶病なのだ。
レナが歌えばそれらまで治療されてしまう。
そうなったら……そうなったら……!
「…………そんな……なにもできないなんて……わたし……」
「そんなの、俺だって……デュラハン……!」
諦めるなって言われてたけど、でも、あんな……こんな……どうしたらいいんだ?
俺は本当に、あんたが負けるところなんて考えたこともなかったんだよ。
涙が溢れてきた。
レナと一緒に、なにもできずに。
きっと町では準備していた魔法騎士たちの防壁魔法が展開している。
俺も、指揮に行かなければいけない。
ジェラルドの魔力量がどんなに凄まじくてもきっとあれは抑えられない。
だから、俺が。
でも、どうしても体がここから動かない。
ラウト、やっぱりお前が、世界を——結晶病は、お前が世界に……。
「っ!」
なのに、見上げた黄金の光の塊が美しく、ラウトのささやかなあの夢を聞いた俺はラウトを憎むことがどうしてもできない。
ラウト、本当にお前はこれが望みなのか?
五号機の胸部に光が集まる。
アレだ。
ミドレの城を半壊にした、あの光線。
多分今度のはあの時の比ではない。
ルオートニスの王都を壊滅させるのに、一時間もかからないだろう。
目の前に迫る明確な“死”。
理不尽で、物語の時よりも、前世よりも、圧倒的で絶対的な。
「繋がった」
そう呟いたのはナルミさんだろうか。
放たれた極太の光線がルオートニスの王都に降り注ぐ直前に、北から同等の巨大な光線が五号機の光線を呑み込んで遮った。
「うあああっ!」
「っーーー!」
それだけなのに、暑い!
レナを庇うように覆いかぶさる。
交差した光の線が消えると、ラウト——五号機が明らかに動揺していた。
北の方向を見ようとして、その瞬間。
「え、あ……」
深緑と白を基調とした機体が、突然颯爽と現れて五号機を殴り飛ばした!?
光線を巻き添えにされていた五号機はバランスを完全に崩して、殴られた先に落下していく。
アレは完全に、綺麗に入った。
「……ナルミか」
「! デュラハン!」
操縦席から聞こえてきた、力のない声。
見下ろすと、血を流した状態で俺たちを見上げる。
「デュラハン! 大丈夫か! 今助けるから!」
「いや……もう、俺は……」
「っ!」
「デュラハンさんっ」
持ち上げたデュラハンの手が、透けている。
涙が堪えきれない。
普通の結晶病ではない。
どうしたら、いいんだ?
どうしたら助けられる?
どうしたら、どうしたら——。
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