132 / 385
15歳編
もう一つの研究塔(2)
しおりを挟む「鳴海紫蘭という名前も、本名ではない。大和の当時の首相に引き取られて、加賀鳴海という名だったこともある。あの女もまた一種の天才で、先見の明があった。予言じみたことを時々語り、それはすべて現実のものになった。特に人の死は……当たったな」
「え……」
人の死を、言い当てた?
めちゃくちゃ怖い……!
「ラウトが乗っているギア・フィーネは、元々ナルミの婚約者だった男の弟が発見したものだと聞いている。ナルミは婚約者の弟の死を予言してその通りになった。婚約者の男の死も予言して、その通りになった。俺はその婚約者の男と話したことがある。気さくないい男だったが、遺伝性の病を患っていて治療薬が間に合わなかったのだ」
「そんな繋がりがあったんですか……」
「厳密にはもっとややこしい」
「や、ややこしい」
千年前ややこしい多すぎない?
「ナルミは大和の要人の養子、娘ということになっており、ミシアの名士と婚約していた。ミシアの名士、エフォロン家の長男が婚約者。その弟は家から出て中立機関の代表を務めていた。だが、ミシアは弟が秘密裏に手に入れたギア・フィーネを手に入れようと、中立機関への不可侵を破り弟を殺したのだ。男はそれに腹を立てていよいよ祖国を見限った。アスメジスア基国に逃げ込んだところをラウトが登録者になってしまった——という経緯だと聞いている」
「なるほど、ややこしいですね」
「もっと言うとその男、ミシアのギア・フィーネ、二号機登録者の実兄でもあった。三人兄弟だと」
「…………」
お、おげろ……。
「二号機は——ラウトの父親を殺した仇と聞いている」
「っ!」
「ナルミの婚約者はいい男だった。優しくて気さくで、敵国のラウトにも俺にも気を使う。ラウトも憎からず懐いていたと思う。素直ではなかったから、ツンケンした態度だったが。……だから二号機が彼を殺した時、暴走状態になる程怒り狂った」
「え?」
殺して……?
待て、待て、本気でややこしくてこんがらがる。
この研究フロアの主、ナルミさんって人の婚約者がミシアの名士で? 三兄弟?
次男は中立機関の代表で、偉い人?
三男がギア・フィーネ二号機の登録者。
ああ、そこまで聞くと、大和の思惑が見える。
ギア・フィーネという圧倒的な武力と、繋がりが欲しかったのだ。
だと言うのに、ミシアは中立機関の次男を殺してギア・フィーネを奪おうとしたのか。
確かにサルヴェイションみたいなやつが二機あったら無双の俺TUEEEモノだろうな。
しかし強欲というか。
弟を殺されて祖国を見限った長男の気持ちが、少しわかる。
俺だってレオナルドを殺されたら、理屈はわかるけど納得はできない。
……殺したのか、国を裏切った兄を。
ギア・フィーネ二号機の、登録者は。
ラウトはそれを見て、怒ったのか。
偶然とはいえギア・フィーネとラウトの出会いをもたらしたのは、その人だから?
父親の仇というのもあるだろうけど。
「あの時の話を聞いたら、ナルミは『そうなると思っていた』と言っていたよ」
「…………」
言葉が出てこない。
婚約者なのに?
「な、仲悪かったんですか?」
「いや。愛し合っていたと言っていた。少なくともナルミは、イクフ・エフォロンが遺伝性の病で永くないのも知っていて婚約していたそうだ」
「……し、死んでしまう病気だったんですか……!?」
「ミシア——というかミシアを中心とした共和主義連合国軍という組織は、人の体に細胞活性化のナノマシンを入れて兵を強化していた。ノーティス、と呼ばれていたな。その弊害が急速な細胞劣化や人体奇形化、遺伝性の病の発症など未完成と言わざるを得ないものだ。あの男はブラッディ・ノーティスシリーズという、母胎の中にいる時から母親のナノマシンと強化特質を遺伝させるという研究の“サンプル”だったと聞いている」
「は? そ、それって」
強化人間ってやつ?
マジでそんなアニメみたいなことやってたのか!?
……え、なにそれ、ちょっとマジで吐きそう。
サルヴェイションの最初の登録者の幼女が毒を投与された話も胸糞だったけど、千年前クソのクソがクソすぎない?
おえぇ……!
「二号機の登録者が薬漬けと言ったのを覚えているか? 彼も兄と同じくブラッディ・ノーティスシリーズの被験者だ。治療薬がなければ永く生きられない」
「っ!」
「ここにある水槽の中身はノーティスナノマシン。人間を強化したノーティスになるための施設。……その副作用を抑える、治療薬の研究施設だ」
「!」
長男の人や、二号機の登録者の治療薬を作ってたってこと?
……ああ、それは……。
「俺は遺伝学を専攻していた医者だったから、ナルミの研究には協力していた。この研究塔を再稼働させた理由も、この研究を完成させたかったからだ。あとは、もう一つ」
己の首を指でなぞる。
あれ? そういえば……研究塔に来た日、ギギが研究塔を再稼働させた人の目的を言っていたような……?
「死ぬ方法を探していた。俺はこの時代の人間ではない。すでに千年前に死んでいる。なぜ今もこうして生きているのかわからないが、俺はこの時代に生きていていい人間ではないだろう。ヒューバート、レナ——俺がラウトを迎撃する。すべてが終わって俺がまだ生きているようなら、どうか『聖女の魔法』で俺の結晶病を治してくれないだろうか? それですべてが終わるはずだ」
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる