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15歳編
レナと再会
しおりを挟むうんうん、本来こうあるべきだよな。
父上もこうして息子の俺が気軽に会いに行けるお立場ではなくなった。
名実ともに、この国のトップだ。
……いや、最初からトップなんだけど。
聖殿に権威のほとんどを奪われ、その皺寄せに奔走していたことを思うと本当に出世したもんだよな。
……いや、出世どころかトップなんだけど。
いつでも好きな時に会いに行けたことを思うと、少し寂しいけど……これでよかったと思う。
ちなみにその日は城で父上と母上に助言をもらいつつ、仕事を任せられそうな者をピックアップして面会の約束を取り付けるだけで一日終わってしまった。
で、翌日。
レナの到着が昼頃と連絡が来て、王都郊外まで迎えに行こうとしたらランディが会いに来た。
馬に乗って、颯爽と現れる姿は俺より王子様然としている。笑う。
俺の王子様としての風格のなさよ。
いや、俺だって馬には乗れますよ?
乗馬、学びましたよ?
でもさ、なんか馬鹿にされるんですよ、馬に。
言うことを聞いてくれないんですよ、馬に。
乗馬の先生には「ヒューバート殿下が優しすぎると、馬にバレているんですね」と笑顔でフォローされたけど、要は「馬鹿にされて舐められてる」である。
俺が強く出られないと、馬に見透かされているのだ。
だって!
馬に鞭って可哀想じゃん!?
それに比べてランディよ、なんてかっこよく乗りこなしているんだ。
16歳って、16歳って……こんなに大人びて足も長くてかっこいいものでしたっけぇ!!
だがしかし、ランディは俺がレナの護衛を任せた時、泣いて喜んでいたのは記憶に新しいはずなのだが、俺の姿を見た途端またびゃわっと泣き始める。
俺より年上のはずなんだけどなぁ。
「殿下~! お元気でしたか!? お側にいられないとこんなにも、こんなにも不安で不安で仕方ないとは!」
「それもまた人生の勉強だ、ランディ。お帰り。何事もなかったか?」
「はい!」
報告でも「何事もなし」と受けてはいるけれど、実際見るまではやはり不安。
ランディのあとから来た馬車が停車し、パティが手を差し出して中から降りてくる人物をエスコートする。
かっこよすぎか。
「ヒューバート様!」
「レナ、おかえり!」
「ただいま帰りました!」
ぁ。消し飛んだ。
なんでって、そりゃあレナの嬉しそうな笑顔が眩しすぎて、俺など消し炭になる他ないだろう。
あまりにも、太陽の如き眩しさ。
レナの眩い笑顔が尊すぎて、久しぶり——と言っても三ヶ月ほど……いや、長いよ三ヶ月——の俺は耐性が弱っていたのだろう。
粉微塵だよ。
「ヒューバート様!? え!? ど、どうなさったんですか!?」
「たかが三ヶ月、されど三ヶ月。幼さの残る顔立ちがまるで別人のように大人びていて、しかし彼女の面影はしっかりと残っている。だが間違いなく最後に会った時よりも美しさが増しており、その輝きに消し炭になるのはもはや必然に等しい。可愛か美しい婚約者が笑いかけてくれるというのは、この貴族社会で奇跡に等しい。本当にこの神々しい少女が俺の婚約者なのかと未だに信じられないことがある。特に今」
「ヒュ、ヒューバート様……! も、もうぅっ!」
おい、誰だ今後ろで「なんだいつものヒューバート様の発作か」って言ったやつ。
その通りですが?
「ハヴェル、レナに午後の予定を……」
「かしこまりました。レナ様、ヒューバート様は現在起き上がれる状態ではなさそうですので、私からこのあとの予定を伝えさせていただきます。一時から三時までデュラハン様がいらっしゃるそうですので、研究塔でヒューバート様がご相談をされるとのこと。レナ様はいかがなさいますか? 旅の疲れは早々に癒していただいた方が、明日の責務に響かないと思いますが」
「デュラハンさんが来るのでしたら、わたしもご相談したいことがございます。同席してもよろしいでしょうか?」
「——とのことでございます、ヒューバート様」
「も、もちろんいいけど」
いかん、まだ腰が抜けて起き上がれない。
倒れたまま了承したけど、レナがデュラハンに相談事?
な、なんだろう?
俺には言えないようなこと……?
え? ふ、不安。
『救国聖女は浮気王子に捨てられる~私を拾ったのは呪われてデュラハンになっていた魔王様でした~』では、デュラハンこそがレナの運命の相手。
そんなデュラハンに、レナが直々に相談したいこと……?
「レナ様、その相談というのは、ヒューバート殿下には解決できない類のものなのですか?」
俺を気遣ってか、ランディがどストレートに聞いちゃった。
そして俺が今まさに思っていたことをクリティカルで言い当てるとか、ランディすげー。
でもそんな、シンプルには「はい」とか言われたら俺は泣くよ?
「あ、“歌い手”について詳しく教えていただこうと思って」
「歌い手?」
「ギア・フィーネに関係することのようなのですが、サルヴェイションには詳しく教えてもらえなかったんです。今聞いたらちゃんと教えてもらえるのではと思って、……ラウトが本当にルオートニスを滅ぼそうと襲ってくるのなら、わたしもわたしにできることで応援したいのです」
「レナ……」
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