上 下
125 / 385
15歳編

一年後の世界(1)

しおりを挟む
 
「……もうすぐ一年かぁ」

 ミドレ公国に行って、ラウトと離別して間もなく一年が経つ。
 俺は15歳になり、ラウトが言っていた“約束の日”までわずかとなっていた。

 あの日、あれから数時間後、魔法で瓦礫をどかしてもらい俺とレナ、リセーラ殿が助け出されたあとは地獄みたいに忙しかった。
 俺とレナは怪我もしていたし、ランディも本調子ではなかったので、トニスのおっさんと護衛騎士たちに頼んで一度ルオートニスに帰国することにしたのだ。
 食糧支援の件もあるし、大公はハルオンの処分を約束して送り出してくれた。
 そこからが特に大変で、ジェラルドに地尖チセンで行ったり来たりしてもらい、ミドレ公国の石晶巨兵クォーツドール製作を手伝ってもらいながら食糧支援の物資を運んでもらう。
 輸送係というか、ミドレのことはほぼジェラルドに一任してしまった形になってしまった。マジごめん。
 けれど、俺は俺でやることがあったのだ。
 まず、怪我を治してもらってからデュラハンに会いに行った。
 ラウトのことを話したら、それはそれは残念そうにしていたけれど……ラウトが記憶を取り戻すきっかけが、デュラハンがラウトを庇った出来事だったことを話すとなんとも苦しそうな顔をされる。
 まあ、無理もないだろうけど。
 良かれと思って庇ったのではないだろう。
 体が勝手に動いて、庇ってしまったのだ。
 前世の有名探偵アニメで「人が人を助けるのに理由はいらない」とは、よく言ったものである。
 そう、仕方ない。
 助けたくて助けたのではない。
 気づいたら助けていたのだ。

 そんなデュラハンの作った村は、現在ルオートニスの南に移動し、そこに降り立った。
 すでに土の大地に戻し、彼らをルオートニスにで受け入れることにしたのだ。
 デュラハンは元々軍医——医者だったらしく、王都に招いて多くの人の治療を行ってもらえることになった。
 と、同時に、本格的に俺の師匠として剣や魔法だけでなく、勉強なども教えてくれる。
 なんでもできすぎて、すごすぎない?
 ただ、ラウトが呼んでいた名前——ディアス・ロスという名前は、もう名乗ることはないだろうと言っていた。
 それは千年前に、死んだ者の名だから。

 でも、もしも。
 もしもラウトがデュラハンを、助けるために“結晶病”という力を手に入れたのだとしたら……結晶病は、本来人を救うものだったのではないだろうか。
 戦争で世界中が疲弊し、たくさんの命が失われていた時代。
 ラウトはデュラハン——ディアス・ロスという人を、助けたかった。
 だから、首が取れても胴が取れてもまたくっつく、結晶病で繋ぎ目を作って、今もこうして生きているのではないだろうか。
 あの日、ラウトが結晶を発生させてランディの毒を取り除いてくれたのは……使だからなのではないか?
 ——騎士になりたいと言っていたのだ。
 本来のラウトはきっと、“守る側”の人間。
 デュラハンの言う通り、全部が全部ラウトが悪いわけではないはずだ。

 もうすぐ一年。
 あの日から一年。
 ……ラウトがルオートニス王国を滅ぼしにくる。
 ギア・フィーネと戦えるのは、ギア・フィーネだけ。



「完成したか」
「うん。長かったけど、ミドレで開発された魔力炉がだいぶ馴染んできたよ~。ジーニアスシステムも、ギギとメメのおかげで今のところ問題らしい問題はないし……光炎コウエン型はいよいよ量産化できそうだね~」

 ジェラルドに見せてもらった設計図。
 現在の光炎コウエンをややスリムに簡素化した姿のこれが、人型石晶巨兵クォーツドール光炎コウエンの量産型。
 名称は気焔キエン
 世界に希望の灯火を、強く激しく拡めてほしい、という願いを込めてこの名をつけた。
 ミドレもかなり土地を取り戻しているが、気焔キエンの製造が軌道に乗れば、より多くの土地が取り戻せる。
 ちなみにだが、聖殿は最近王家に従順。
 石晶巨兵クォーツドールの存在が止めになったらしく、なんとかなんとかなんとかっていう、すごい長い名前の一番偉い役職が『聖殿長』に戻り、父上の直属に下った。
 かつて聖殿派と呼ばれていた一部貴族は、反王家派と名を聖殿の力が高まる前に戻り、爪弾き者のような扱いに落ち着いている。
 メリリア妃も母上の出産により完全に立場を失い、北の屋敷に移り住み、平民出身のメイドに世話をされながら生活することになった。
 実家に戻すことも検討されたが、アダムス侯爵家が満場一致で「北の屋敷に軟禁で」と意見が合致し、彼女を庇う者はただの一人も現れぬまま現在に至る。
 拍子抜けではあるが、姉の婚約者を二十年近く奪い取ろうとしていることを考えても、異様なまでに執念深い性格だ。
 あまり警戒を緩めることはしない方がいいだろう。
 反王家派もいなくなったわけじゃないしな。

「お待たせしました~。ヒューバート殿下考案の聖撒水機、五十本できましたよー」
「さすがリーンズ先輩!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...