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ミドレ公国編
庇われるということ
しおりを挟む神々しいと言われれば確かに神々しい。
見るからに重装備の近距離タイプ。
ん? 胸のところ、穴? 砲口?
いやいや、あんなでかい砲口、ヤバすぎだろ。
でもギア・フィーネならありえる、のか?
ありえそう。
サルヴェイションを見たあとだと、なんでもありな気がする。
「この国の守り神であると言い伝えられておる。貴殿が乗ってきたものと、大きさなどが似ている気がするのだが」
「そうですね……」
「なにかの参考になりそうか?」
「もう少し近くでご覧になった方がいいのでは?」
「え? あ、は、い?」
大公閣下ではなく、ハルオン殿下が俺を促す。
え? 待って?
[索敵]魔法にめちゃくちゃ引っかかってるよ? ハルオン殿下。
俺にだけ向けられる悪意、敵意、殺意。
顔は笑っているけど、俺には通じないんだよなぁ!
どうしよう? 仕掛けてくるかな?
ミドレ公国にとって俺とことを構える利点は、一つもないんだが。
ランディの方を振り返ると、ランディの方の[索敵]にも感知されているっぽい。
「ヒューバート王子?」
「あ、いえ。そうですね……確かに我が国の“遺物”に、とてもよく似ていますね」
「石晶巨兵は“遺物”を参考にしているのではないのか?」
「いえ、確かに構造は手本にしております。我が国に残っていた設計図をもとに、内部は特に手を加えていますね。今後も操作性などは“遺物”を参考にしていくつもりです。ですので、こちらの“遺物”を見せていただいたのは非常にありがたい」
「おお、それはよかった!」
大公閣下からは『悪意』『敵意』『殺意』は一切感知できない。
むしろ、その逆——『好意』のようなモノが感じ取れた。
この人とは仲良くやっていけそうなのだが……。
騎士団長の周り——岩陰にも十人ほどの『殺意』が感知できてる。
やばい、囲まれてるな。
『悪意』や『敵意』ならそれほどでもないけど、『殺意』ともなれば実行力が伴う。
散々暗殺未遂されてきたから知ってるんだ。
仕方ないからこっそりバフ盛って体を硬く、防御力高めにしておく。
けれど、もしもこれが俺だけでなく大公閣下や大公妃を巻き添えにしても、構わないという類だとしたら厄介だ。
トニスのおっさんも姿は消してついてきてもらってるけど、伝える術がない。
俺はレナを最優先するが、大公たちはどうやって守るべきか。
[ブラックシールド]は二つしか出せないから、背後に回すか。
「ところで——大公閣下」
「ん? なんだ」
「俺は比較的、狙われることが多いので、この程度で死ぬことはないのですが、大公閣下はいつもどうされているんですか?」
「……なに? どういう——」
「殺せ!」
大公と大公妃は本気でわからないという顔。
つまり、この二人は本当に白。
真横でハルオン殿下が先ほどとは別人のような顔で叫ぶ。
悪意——いや、殺意たっぷりの合図。
向けられた杖からは氷属性の魔力。
宙に氷柱がいくつも浮かび、俺と大公、大公妃のところへと飛んでくる。
驚いたな、自分の父親ごと殺そうっていうのか。
「[ブラックシールド]!」
特大サイズ!
全部防いだが、背後からハルオンの部下が飛び出してきて魔法で攻撃してきた。
それらはランディとラウトが防ぐ。
いつもやっていることと、たいして変わらない。悲しいけれど。
「ランディ、ラウト! 無効化だ!」
「了解いたしまし——殿下!」
「え」
上か!
階段の、天井ギリギリのところから“殺意”。
見上げた時、弓矢を放つ男の姿が見えた。
[ブラックシールド]は二つともハルオンに向けているから、俺が大公たちを守らなければ!
「ヒューバート王子!」
叫んだのは大公妃だろうか。
俺は防御力を爆上げしてるから、ちょっとやそっとのことでは傷つかない。
怪我もしない。
しかし、迫り来る矢は魔力を帯びていた。
多分、貫通魔法が付与されている。
その上、色がえげつない紫。
毒付与!
殺意高すぎだろ。
でも、毒耐性の高い俺なら——!
「っ——」
まあね?
レナの死にそうな表情で、「あー、また無茶してごめんなさい」とは思いましたけども。
目の前には赤い髪。
俺の側近の制服。
大公と大公妃を庇いに前へ出た俺を、ランディがさらに庇ったのだ。
階段の上の方にいた狙撃者は、ミドレ公国の騎士たちに取り押さえられた。
すべては一瞬。
時間にして十秒もないだろう。
逃げようとしたハルオンも騎士に頭と腕を掴まれ、地面に押し倒される。
レナが駆け寄り、前屈みに倒れたランディに[解毒]魔法を施すが、[索敵]魔法で見たランディの毒状態は癒えない。
「そんな、どうして……いつもなら……!」
「俺の時と同じ……? ランディ! しっかりしろ! 大丈夫か! トニスのおっさん! 解毒薬かなにかないか!」
「なんの毒かわからんのに、解毒薬は飲ませられませんよ。逆に悪化したらどうするんです? ちょっとお見せなさい。……[解毒]魔法が通用しないということは、かなり珍しい毒が使われているはず。狙撃者を吐かせた方が早い」
「っ!」
見上げると、騎士たちが頷いて捕らえた狙撃者を連れて降りてくる。
その時間さえも惜しい。
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