終末革命ギア・フィーネ〜転生先が婚約破棄した聖女を追放してザマァされる悪役王子なんだが、破滅したくないので彼女と幸せになります!〜

古森きり

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ミドレ公国編

ささやかな夢

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 客室に案内され、その日の夜は休むことになった。
 明日は今後の予定を組み直しつつ、レナの魔力回復を行いつつ周辺の結晶化した大地クリステルエリア治療を行ってもらって、俺は石晶巨兵クォーツドールと支援の話をもう少し詰めつつ地下の御神体とやらを見せてもらって……おううう、やることが多すぎる。

「ヒューバート殿下、もうお休みになられましたでしょうか?」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「え? いや、まだだよ。どうしたんだ?」

 客室は二部屋繋がっているタイプ。
 長期滞在になりそうだし、俺は一応王族なので。
 その隣の部屋は応接や食事を摂ったりする部屋。
 ランディが護衛として寝ずの番をしてくれるというのだが、そこはおっさんに任せろとソファーで休んでもらっていた。
 けれど、そこにラウトの声がしてベッドから体を起こす。
 扉を開けると、困ったようなラウトとランディ。

「どうしたんだ?」
「えっと……」
「トニスのやつが連れてきたんですが」
「ハルオン殿下が声かけてきたのよ。ちょっと部屋に来い的なこと言ってたから、おじさんが口出しして連れてきちゃった」
「は!?」

 ラウトを? ラウトに?
 変な聞き方をしてしまったが、こくりと頷かれて背筋がゾワワワっとした。
 見てたのは気づいてたけど、声かけてきたの!?
 キッショ!?

「ちょっと気持ち悪かったの。手が出そうになっちゃった」
「あ、ああ、それは、うん。双方何事もなくてよかったね」

 さすがに出会った初日に次期大公をフルボッコは、うん、やばいね。

「……ええ……でもハルオン殿下って結婚してたよな?」
「してますねぇ。してますけど、こちらにも興味がある人なんでしょう。それにしては我慢がまるで利いてないですが」
「お兄ちゃん、一緒に寝ていい? なんかこわい」
「そうだな。いいよ」
「まったく……。殿下をお守りするのを忘れるなよ」
「うん!」

 隣の部屋にはランディがいるし、レナの方にはパティとマリヤ、連れてきた護衛騎士三人。
 ラウトがレナの部屋に行かなかったことに、地味に安心した。
 ラウトを俺の寝室に招き入れ、ランディとおっさんには引き続き隣の部屋で護衛してもらう。
 ベッドに入ると嬉しそうに擦り寄ってくる。
 あー、可愛い。
 もう歳も変わらないくらいになったけど、ラウトの整った顔がうっすら闇に浮かんでニコニコしてるのがわかる。

「あったかいー」
「今まで寝てたからな。……怖い目に遭わせてごめん」
「お兄ちゃんのせいじゃないよ。大丈夫。腕掴まれただけだし——……なんか、初めてじゃないような、気がするし……?」
「初めてじゃない……?」
「わかんない。思い出したくない」
「……そうか」

 だめだ。
 どうしてもサルヴェイションとデュラハンに聞いた話を思い出す。
 最初の登録者——幼い女の子の登録者は、毒を投与された。
 毒の投与が原因で、後遺症を患い、数年後に死亡した……っていう話。
 ラウトは大丈夫だったのだろうか。
 記録上は二十歳まで軍人として戦っていたようだし。
 でも、サルヴェイションの最初の登録者と同じ町に所属していたんだよな。
 そう考えると、あまり無事だったように思えない。
 今は無邪気に笑ってるけど、思い出したくないって、結局はそういうことなんじゃないのか?
 ラウトは——

「ラウトは、今、生きてて幸せか? 楽しい?」
「へ? なぁに、急に」
「なんとなく。あんまり話す機会があるわけじゃないから、少し心配になったんだ。学院では、ジェラルドと一緒にいることが多いだろう?」
「あ、うん。魔法の話とか楽しいから。ジェラルドってなんか、知ってる気がするんだけど……やっぱり知らない人でね。でも魔法の話は一番合うの。僕の体質がジェラルドに近いからだと思うんだけどね、強化魔法のこととかたくさん話すんだよ」
「そうなのか」
「[空間転移]の魔法もジェラルドと話してたらできたんだ。ほんとは[瞬間移動]とかも作りたかったんだけど、空間認識の演算が難しくて」
「そ、そうなのかぁ」

 もうなに言っておられるんだかわからなくなってきたぞぅ。

「あとね、剣のお稽古も楽しいんだよ。他にもバスケット? 楽しかった。あと~、アグリットさんが薬草とかお花のこととかたくさん教えてくれるんだ。お料理にも使えるし、美味しいんだって」
「バスケットが好きなのか」
「ベースボールも好き。サッカーも楽しかった。バレーとテニスも!」
「スポーツ万能なんだな」

 ラウトさん、マジにジェラルド級のなんでもできる子なのでは?
 ジェラルドはやる気の起きないものは徹底的にやらないけど。

「勉強は? なにが楽しい?」
「歴史以外はだいたいたのしーい」
「そうかぁ。じゃあ、ラウトは——将来なにになりたい?」

 これを聞くのは少し、どうなのだろうと思った。
 けど、このまま、登録者ではなくラウトとして生きていくのなら、大事な質問だ。

「騎士になりたーい」
「騎士? 王国騎士?」
「うん。ランディみたいなお兄ちゃんの騎士」
「! ……ふふふ、そっかぁ」

 ランディに憧れてくれるのかぁ。
 騎士。
 そうだな、確かにランディは騎士っぽい。
 俺の側近ってことだから、騎士というか執事的な立ち位置のはずなんだけど。
 よかったな、ランディ。

「ふぁぁ……」
「そろそろ寝ようか。おやすみ、ラウト」
「おやすみなさぁい」
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