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ミドレ公国編

ミドレ公国(4)

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 通されたのは会議室。
 すぐに一番偉そうなおっさん——大公閣下が妻と大臣二人を伴い現れた。
 使用人は二人、騎士が騎士団長含めた三人。
 俺もランディしか連れていないから、かなり少人数。
 しかし、このスピード感。
 破格の待遇と考えて間違いない。
 なにしろ、アポなしである。

「そなたがルオートニス王国よりの使者か」
「いえ、閣下、第一王子殿下と——」

 ロイド騎士団長が訂正を入れようとして、大公に睨みつけられる。
 それに意図を理解して、押し黙る騎士団長。
 まあ、それはそうなるわ。
 座っていた足を組み替える。
 立ち上がって出迎えることはしないことにした。

「我が名はアレンジドラ・ミドレ五世。こちらは我が妻オルガである」
「俺はルオートニス王国第一王子、ヒューバート・ルオートニス。大公閣下が自ら真っ先にお出ましとは、身に余る高待遇感謝する」
「ぐっ」

 事態が事態だけに大慌てで出てきちゃったんだろうな。
 奥さんも後ろの騎士たちも、なにより大公が一番焦った顔をしている。
 これは早めに交渉を進めて、早めに帰れるかもしれない。
 母上の腹の中に子がいると聞いた以上、出産には間に合いたいしね。
 とはいえ、相手は国で一番偉い人。
 座ったままの俺がこんな偉そうな態度を取っていいのかな。
 い、いや、落ち着け庶民思想の俺。
 俺はルオートニス王国の第一王子ヒューバート!
 なんなら王太子のヒューバート!
 ガキごときがと舐められたら、不可侵条約と和平条約締結を渋られるかもしれない!
 強気だ! 強気で行くんだ!
 相手だって石晶巨兵クォーツドールの技術は間違いなくほしいはずだろう!

「……お、表のアレは……いったいなんだ? 貴殿は我が国になんの用向きで現れた!?」
「先程そちらの騎士団長ロイドにも伝えたが、我が国では石晶巨兵クォーツドールという魔道具を開発した」
石晶巨兵クォーツドール?」
「そうだ。聖女のように結晶化耐性を持たせるのを目的に、当初は結晶化した大地クリステルエリア結晶魔石クリステルストーンの採集を目的に作っていた。そして実験は成功。結晶化した大地クリステルエリアへ一日置いても結晶化しなかった。だが、実験を続けた結果、それだけでなくの大地への治療が可能だとわかったのだ」

 嘘は言ってないよ。
 あんまり情報を出すとつけ上がらせるからな。
 慎重に、慎重に。
 トニスのおっさんが言ってた範囲で小出しにしていく、と。

「信じられん、が……」
「はい、多くの兵、そして私も……この目で」
「む、むうううん。……で? その対価は?」
「まず我が国、ルオートニスとの不可侵、和平条約の締結。そして石晶巨兵クォーツドールの非武装、共同開発が条件だ」
「……、……そんなことで良いのか?」
「そんなこと? はっ!」

 思わず笑っちゃったよ。
 すぐに大公がムッとした顔をするけど、平和ボケは俺だけではないらしい。

「いや、笑って申し訳ない。あまりにも簡単に言ってくれるので、ずいぶんな自信をお持ちだと思ってな」

 トニスのおっさんに「うちの旦那を真似るといいですよ」と言われたのを思い出したので、切り替えてみることにした。
 しかし、俺がやってみると別人じゃん~。
 別のキャラだよこれ、口調を真似ただけじゃやっぱりあの上品かつ尊大な態度がまったく偉そうじゃない感じにはならない!
 もはや、あの人の個性では?
 むしろ俺の心が恥辱で泣いちゃう。

「なんだと?」
「少なくとも俺は石晶巨兵クォーツドールの非武装に関しては、なんだかんだと抜け道を探して武装しようとする者が現れると思っている」
「む……、むう?」

 え、マジわかんない感じ?
 すげぇなミドレ公国。
 平和だったんだろうなあ。

「たとえば隣国への防衛のためや、王侯貴族の護衛のため、など」
「それは……。それすらも行うな、ということか?」
「それ以外でも、あらゆる理由での非武装を望む」

 でもおっさんも父上も、多分デュラハンも守らないやつは守らないと思っている。
 口約束だけじゃなく、書面で国同士で交わした約束だとしても、一度武装して攻め込み、支配してしまえばルールなどあとからいくらでも変えられるからだ。
 特にデュラハンは、そういうのをたくさん見てきたのだろう。
 だから俺にダイナマイトの話をしたんだろうし。

「俺はこの国とハニュレオ、コルテレ、ソーフトレス、セドルコ帝国にも同様の条件で石晶巨兵クォーツドールを提供するつもりだ」
「む、せ、セドルコにも、だと」
「そうだ。あの国の皇族はどうでもいいが、あの国の無辜の民の犠牲を望まない。俺は——」

 俺が見たい世界は——

「この世界を甦らせ、戦争のない平和な世界になってほしいと思っている。それがどれほど難しいことかは、国を治めるあなたにはわかってもらえると思うのだが?」

 大公と大公妃の顔つきが変わった。
 それはもう、険しいものに。

「子どもの理想論……ではなく、それがルオートニス王国の理念だというのか?」
「少なくとも俺の代ではそれを理念として掲げる。賛同できないというのなら、断ってくれて構わない」

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