終末革命ギア・フィーネ〜転生先が婚約破棄した聖女を追放してザマァされる悪役王子なんだが、破滅したくないので彼女と幸せになります!〜

古森きり

文字の大きさ
上 下
91 / 385
14歳編

番外編 死者の村

しおりを挟む
 
 ヒューバートに依頼をされ、羊の返り血ことトニスはのろのろと『死者の村』へと帰ってきた。

(あの少年、なかなかにイイ目してたね。こりゃマジで帝国は負けるかも。件の遺物もあることだし)

 実際、帝国の中は内戦間近。
 第一皇女セラフィ、第一皇子ステゴリー、第三皇子エドリッグ、第四皇女ステファリー、第五皇子クリードが次の皇帝の座のために鎬を削っていた。
 現皇帝は非常に女好きで、見目が好みであれば身分関係なくお手つきにする。
 特に若く幼さの残る娘を好み、総勢三十八人の妻を後宮に抱えた。
 子はもっと多く、なんと八十八人。
 嫌な意味でも当たりがいい皇帝だ。
 そんな皇帝も五十を過ぎ、次の皇帝を指名する時期となっている。
 それでもまだ、お盛んな皇帝は、未だに女に手を出し続ける始末。
 そんな中、三十八番目の一番若い妻ニルケが産んだコニーナという娘を、現皇帝は非常に可愛がっている。
 他の女に手を出しつつも、コニーナを溺愛し、「次の皇帝はコニーナにしようかのぅ」とことあるごとに口にしていた。
 まだ四つか五つの娘にそんなことを言う皇帝を、上の皇子皇女はすごい目で見ている。
 そんな中でもし、隣国ルオートニスが石晶巨兵クォーツドールを帝国に提供したりしたら、瞬く間に武装させられて石晶巨兵クォーツドール戦争が巻き起こるのは必至。
 あの王子は終末を止めるために活用してほしいと言うだろうが、自分のことしか考えていない人間にそんな綺麗事は通用しないだろう。
 トニスはあの国の皇族が、身内であっても邪魔ならば殺すのを知っている。

「ただいま帰りました~。旦那、ちょい収穫ありですぜ」
「お帰り。どんな面白い話を持ってきたんだ?」
「なんと、ヒューバート・ルオートニス殿下が旦那との面談をご所望です」
「ほう?」

 村の長たるデュラハンに、ことの経緯を説明する。
 あの時、トニスがあの王子を助けたのは、村の子どもたちと変わらない人質を取ったあの貴族が気に食わなかったからだ。
 口減らしに捨てられたトニスにとって、子どもの身が危険に晒されるのはかつての自分を見ているようで、本当に気分が悪い。
 それを見捨てようとしなかった王子に、肩入れしたのは当然のこと。
 ただ、そのあとが驚いた。
 トニスが自身を暗殺者であったとバラして、命を狙ったことすらあると話した上でも協力したいと言ってきたのだ。
 そしてなにより、トニスだけでなく、この村の誰もが大好きで尊敬してやまないこの人と、同じ目をして同じことを言う。

結晶化した大地クリステルエリアを元の土の大地に戻すと?」
「はい。そのために石晶巨兵クォーツドールという結晶化耐性を持つ人型魔道具を、ほぼ完成させていました。旦那が興味あったのは石晶巨兵クォーツドールでしょう? ほぼ完成してるのを、くれるって言ってましたよ。実に欲のない王子殿下でビックリしましたよ。しかも、オレは一度ならず二度までも殿下のお命を狙っているってのに……」
「ほう」

 屈託なく「ありがとう!」とお礼まで言ってくる。
 柄にもなく、こういう人間なら守りたいと思ってしまった。

(オレが仕えるのはこの人だけだってのにねぇ)

 頭を下げ、くっくっと笑ってしまう。
 彼ならば、中身がガタガタの帝国とも十分渡り合える——なんなら、勝ってしまうかもしれない。
 あの石晶巨兵クォーツドールを、武装して使う気概があればの話だが。

「お前がそれほど気にいるとは、ヒューバートはよい方向に成長したのだな」
「え? ああ、はい。そうですね?」

 まるで親戚のような口調。
 首を傾げると、微笑まれる。

「歳は——14になったのだったか。14か。うーむ」
「王太子になってから二年ばかりですが、帝国より遥かにマシですね。あの様子ならミドレやハニュレオも救いたいと手を差し伸べるでしょう。歳若い少年がコルテレとソーフトレスの戦争に巻き込まれそうなのは、いただけませんけど」
「そのあたりの話はしていないのだろう?」
「ルオートニスはミドレとハニュレオ並みに国内のことでいっぱいいっぱいでしたからね。あの王子の改革は彼が思っている以上に、国内を安定させています。婚約者の聖女の力が強いのも大きい。石晶巨兵クォーツドールは武装させれば兵器としても魅力的です。帝国は間違いなく手を出してきますよ。介入するのなら今が機かと思いますね」
「気に入らんな。戦争もまた人の営みとはいえ、同じ志の若者が踏み躙られるのは不愉快だ」

 ごくり、と生唾を飲む。
 なんでこともなく言っているが、この人がその気になれば帝国は容易く滅びるだろう。
 晶魔獣使役の首輪は、それだけの力がある。
 デュラハンは少し思案した表情から、ふわりと微笑む。

「わかった。いいだろう。連れてこい」
「殿下だけで? それとも例の聖女や、護衛の者も許しますか?」
「構わん。好きなだけ連れてこい。あまり多くの人間は受け入れられないが、十数人程度なら問題はなかろう。村の者たちには俺から言っておく。——ただ、ひとつ」
「はい」

 デュラハンは座っていた椅子から立ち上がる。
 口許は変わらずに楽しげだ。

石晶巨兵クォーツドールとやらはもちろんだが、サルヴェイションも持ってこいと伝えろ」
「サルヴェイション? なんですか、それ」
「伝えればわかる」
「は、はあ……」

 相変わらず、よくわからないことを言う人だ。
 しかし、まさかこの村に“生者”を受け入れるとは。

(けどまあ、あの坊やなら大丈夫な気はするね)

 横目で見たデュラハンの楽しそうな表情。
 あの人がこんなにも楽しそうにしているのは久しぶりに見る。
 そして、だからこそ一つ、確信した。

(歴史が変わる。死を待つばかりの世界が甦る……かもな)
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

転生無双の金属支配者《メタルマスター》

芍薬甘草湯
ファンタジー
 異世界【エウロパ】の少年アウルムは辺境の村の少年だったが、とある事件をきっかけに前世の記憶が蘇る。蘇った記憶とは現代日本の記憶。それと共に新しいスキル【金属支配】に目覚める。  成長したアウルムは冒険の旅へ。  そこで巻き起こる田舎者特有の非常識な勘違いと現代日本の記憶とスキルで多方面に無双するテンプレファンタジーです。 (ハーレム展開はありません、と以前は記載しましたがご指摘があり様々なご意見を伺ったところ当作品はハーレムに該当するようです。申し訳ありませんでした)  お時間ありましたら読んでやってください。  感想や誤字報告なんかも気軽に送っていただけるとありがたいです。 同作者の完結作品「転生の水神様〜使える魔法は水属性のみだが最強です〜」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/743079207/901553269 も良かったら読んでみてくださいませ。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

処理中です...