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14歳編
耐久性実験
しおりを挟むさて、腹も満たされたので俺たちはここへ来た最大の目的を果たそうと思う。
そう! 結晶化耐性の有無!
生徒たちが結晶魔石を回収し、馬車に乗せている最中にやるぜ!
「少し狭いけど頼むな、レナ」
「はい! お任せください!」
待ってましたとばかりに鼻息荒く俺の隣に座るレナ。
俺たちが乗り込んだのは光炎。
俺の肩にはギギ。
「測定も頼むよ、ギギ」
『お任せあれー!』
今の俺でも手足が届くように調整された、光炎の操縦席。
けど、操縦法は相変わらずなかなかに難しい。
操縦補佐のAIを新しく組み込むにしても、昔のAIを載せられるだけの演算機がないので、ギギが代わりになるものを作ってくれるそうだ。
で、今はそのためのデータ収集中。
「行くぞ」
立ち上がった光炎を、前進させる。
理論上は、問題ないはずなんだ。
一歩、また一歩——あと一歩。
「っ…………」
結界から出る。
結晶化した大地に、光炎の足が、着く。
「……………………なにも起きない?」
「は、はい。なにも起きません」
「ギギ」
『結晶化は確認できませんね』
「……それって、つまり……!」
「ヒューバート様!」
レナが花開くように微笑んで手を叩く。
まだ油断できないが、今のところ結晶化の兆しはない。
「も、もう少し作業してみよう」
それも試験のうちだ。
結界内がざわざわしているのを横目に、倒された中型晶魔獣たちを持ち上げて回収していく。
それを結界の中へ放り込み、何度かその作業を繰り返した。
五分、十分……未だに結晶化は確認されない。
「……よし、このまま一晩放置する」
「は、はい」
結晶化した大地は人だけでなく、鉄でも木でも布でもなんでも、あらゆるものが結晶化してしまう呪いの大地。
合図すると、ジェラルドが地尖で迎えにきてくれる。
地尖も結晶化することなく、結界外にいる俺たちのところまで来てくれた。
ジェラルドも怖かっただろうに、わざわざ来てくれてありがとうな。
光炎から降りて、地尖の頭に乗る。
俺の闇魔法、[影縫い]で固定して、結界の中へと戻った。
「このまま結晶化しなければ、少なくとも数日単位で結晶化した大地内での作業が可能——と証明できるな」
「はい! これはすごい発明ですね!」
「喜ぶのはまだ早いぞ、ランディ。明日来て結晶化してたら、せっかく完成した光炎を失うことになるんだからな」
「あ、そ、そうですね」
できればそれは避けたいけれど、結晶化耐久性の実験はやらねばならない。
俺とジェラルドとギギの予想だと、レナと同じぐらいの耐性がある、はず。
振り返ってもう一度光炎を見上げる。
この実験が成功すれば、結晶化した大地を調べられるようになるのだ。
結晶化……結晶病……晶魔獣。
この世界を終焉に追い詰めるこれらを、真っ向から調べて調べて調べ尽くして、そして跳ね返してやる……!
俺は絶対、結晶化した大地で死なないぞ。
死にたくないからな!
「どうしてせっかく作った機体を置いていくの?」
と、首を傾げるのはラウト。
帰ったら説明してあげようね。
「石晶巨兵の結晶化耐性を調べるためだよ~。ギギの作った測定器も置いていくから、結晶化が始まったらそのまま記録されるんだ。安全に使うためには、耐久性もきちんと知っておかないと~」
「そうなんだ……なんか大変だね」
「うん。でも、結晶化した大地を打開して、大地を取り戻さないと人類に未来はないからな」
ジェラルドがわかりやすくラウトに説明してくれたので、俺も頷いてもう一度結晶化した大地を見た。
ここから大地を取り戻したい。
そうしたら、きっと家畜も増やせて肉も食べられるようになるし、魚だって。
「————」
「え?」
「お兄ちゃんどうしたの?」
「ヒューバート?」
「え、あ……いや」
二人には聞こえなかったのか?
結晶化した大地から、人の声が聞こえた気がしたのだ。
——人類に未来? そんなのいらないだろう。
そんな声が。
……ものすごい悪意に満ちた、いや、憎悪に満ちた、声?
気のせいにしては醜悪すぎる。
でも、できることなら気のせいであってほしい。
世界を覆うほどの憎悪だなんて、とてもじゃないけどまともじゃない。
サルヴェイションやギギの話からも、結晶化した大地や結晶病は千年前の戦争とは無関係っぽいし……うう、やだなぁ、ホラーっぽい。
「ヒューバート殿下! 結晶魔石の積み込みは終わったそうです!」
「わかった。帰還しよう!」
「はい!」
「やっと帰れる~」
「お兄ちゃんの実験、上手くいくといいね!」
「ああ」
やるべきことはまだまだ山のようにある。
ただの空耳よりも、身内の声に耳を傾けた方が建設的だ。
忘れよ!
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