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13歳編

城下町視察(4)

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「あの、殿下……」
「しー」
「あ、も、申し訳ありません」
「まあ、上手くいくかは本当にわからないぞ」
「は、はい」

 椅子を借りて、女性の手を掴む。
 持ってきていた闇属性の杖で魔法陣を描き、彼女の手の甲に押しつけて発動する。

「[精神安寧]」

 闇魔法、[精神安寧]。
 他者の心を落ち着けるバフ魔法。
 多分この女性はつらいことがありすぎて、心を停止させているのだと思う。
 だから、効果は薄い気がする。
 でも、反応があった。
 ゆっくり顔を旦那さんの方に向けて、見上げたのだ。
 俺が手を離すと、ふわりと微笑んだ。

「コ、コリーナ、俺がわかるのか?」
「ええ……? どうしたの?」
「コリーナ、コリーナ!」

 意外にもかなり良好な状態になっている。
 停止していた感情を落ち着いた状態で動かせた、からだろうか。
 実はこの魔法は例の晶魔獣を操った魔導具を調べようとして——まあ結晶化したから無理だったんだけど——作ったものだ。
 晶魔獣を落ち着かせることができたら、俺たちも晶魔獣を乗り物にして結晶化した大地クリステルエリアを調べられるんじゃないかなー、って。
 そう、とんでもない発想をしたやつがいたものだと思う。
 晶魔獣を操って、結晶化した大地クリステルエリアを移動する、なんて。
 確かに晶魔獣は結晶化した大地クリステルエリアを歩いても結晶化しない。
 もうすでに体が結晶化しているからな。
 でも怪我を負わされれば、そこから結晶病に罹る。
 それを操る。
 手懐けた?
 あの首輪が魔道具なのだと思うが、どうやったら晶魔獣を操れるんだ?
 そもそもどうやって捕まえて魔道具を装着したのか。
 考えれば考えるほどわからん。
 なので、とりあえず『落ち着かせる』魔法を開発してみたのだ。
 襲ってくる晶魔獣を落ち着かせれば、生きてる状態の晶魔獣を調べることもできるじゃん?
 まさか人間の、こうも傷ついていた人にも効果が出るとは。

「なにかとてもつらいことがあったのに、今はとても心が穏やかなの……不思議ね」
「コリーナ……」
「旦那さん、奥様にお菓子を」
「あ、ああ! そうだ、コリーナ、うちで売ってるカボチャをお菓子にしてもらったんだ。甘いもの、好きだっただろう? 食べてみてくれ」
「まあ……!」

 おっさんが奥さんにカボチャの蒸しケーキを手渡す。
 奥さんは嬉しそうにケーキを食べて、幸せそうに笑う。
 それだけでここにきた甲斐があるけど……根本的な解決になってないんだよな。
 うん。

「奥さん、今は俺の魔法で落ち着いているけれど、効果が切れたら元の気持ちに戻ると思います」
「は、はい……」
「でも、あなたの旦那さんはずっとあなたの帰りを待ってる。それをどうか忘れないでください。元の幸せな生活に帰れるよう、新しく幸せになれるように、どうか勇気を出してください。あなたが元の幸せな生活に戻れるよう、王家としても援助していきたいと思います」
「王家……」

 もちろん特別待遇はできない、とおっさんには伝えておくけれど。
 聖殿騎士が絡んでくるようなら、王国騎士団を呼んでくれと言っておく。
 今の王国騎士団の士気は高い。
 俺がサルヴェイションを騎士団の訓練場の近くに置いたせいか、訓練に身が入るんだってさ。
 どういうことなの、って思ったけど、確かに見るからに強そうな巨大兵器見てたら、テンション上がっちゃうもんだよなぁ。
 視覚的効果ってやつ?
 やる気に満ち溢れてるんだよ、最近。
 あと、サルヴェイション的にも魔法騎士団は実に興味深い存在らしくて、ずーっと魔法訓練をデータ収集してる。
 いくら分析しても『不可解』って言ってたけど。
 魔法は化学兵器とわかり合えないのだろうか。

「コリーナ、俺もお前を支えるよ。どうか戻ってきてくれ……」
「あなた……」

 そろそろ魔法の効果が切れる。
 それでも彼女は旦那のおっさんと抱き締めあったまま、再び横になることはなかった。
 あとは二人で頑張ってくれ。

「行こう」
「はい」

 食糧の問題と、病院の衛生概念の問題か……城下町でこれということは、他の村や町も相当ひどいんだろうな。
 できることからコツコツ頑張らなければ。

「……殿下、せっかくのデートなんですから、仕事じゃなくてレナ様を楽しませる方にシフトしていただけません?」
「え?」
「パ、パティ!?」

 病院から出ると、パティが呆れたように言う。
 デート?
 待って? 俺本日の予定を『レナと一緒に城下町への視察』って報告してますけど?
 は? デート? 視察ってデートだったの?

「パティ、いけません! ヒューバート様は視察のおつもりなのですっ」
「はあ? 確かにお目付役のあたしがいますけど、視察だろうとなんだろうと婚約者の女の子が横にいるんだから仕事なんて一旦忘れるべきなんですよ! ヒューバート殿下、レナ様は今日をすっごく楽しみにしてたんですから、もうお仕事はここまででデートモードになってください! ほら、貴族街のカフェテリアに行きましょう!」
「パ、パティ~~~!」

 やや強引だが、パティに連れられ貴族街へと移動する。
 デート。
 俺の頭の中はその単語でいっぱいになる。
 レナはずっとそのつもりだったの?
 それなのに、俺ときたら?

「っ! ケーキ食べよう、レナ!」
「は、は、はいっ!」

 なお、時間的なアレで本当にケーキ食べて終わった。
 いつか絶対リベンジするからなぁああああぁぁぁ!
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