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13歳編
城下町視察(2)
しおりを挟むこれは……なんというか、俺が知らなかっただけで、本当に民の生活は困窮しているんだな。
身投げ同然の口減らしが各地で横行しているという話も、これを聞いてしまうと現実味を帯びる。
肉も魚も手に入りづらいというのは問題だ。
どうにかしなければいけないけど、理由が結晶化した大地の侵食だと、今の時点でどうしようもない。
野菜だけじゃ栄養も偏るし、杖を持たない平民が魔法で水を出すのも限界があるし。
漫画やラノベだと、魔物肉が食べられたりする作品もあるが、この世界の魔物は半透明な石だ。
それも放置すると鉄塊やコンクリの塊になる。結晶魔石も食えないし、平民には価値のないものだろう。
え? これ、平民の生活……詰んでる?
「だから坊主、肉や調味料が手に入るなら回してくれよ」
「ああ、親父さんはどんな商品を取り扱ってるんだ?」
「え! あ、えーと、野菜……」
「「「野菜かぁ~~~~」」」
あからさまにがっかりされた!
「お嬢ちゃんは?」
「あ、ええと、い、妹です」
「そうかぁ、お兄ちゃんしっかりしてるなあ」
「は、はい!」
レナ!?
確かに商人の息子が婚約者を連れ歩いてるイメージはないけどまさかの妹!?
「あ」
「あ?」
さっき最後に入ってきたおっさんの店の商品が目に入る。
さつまいもだ。
「これ、どうやって食べてるんですか?」
「これか? 皮を剥いてぶつ切りにしてスープに入れるんだよ。甘味が出ちまうから他の野菜とあんまり合わせられないんだが」
「じゃあこっちのカボチャは?」
「そりゃスープだろ。皮が固くて人気がねぇんだよなあ」
スープしか選択肢がないのか!?
……とはいえ、俺も前世で半ばお小遣いほしさに手伝ってただけで料理の腕に自信はない。
でも……。
「レナ、少しこの野菜の調理法を教えてもいいかな?」
「え? ヒューバート様がお料理されるんですか?」
「あ」
「…………。あっ」
名前を 呼んで しまった。
そろり、と店主たちの方を見るとあんぐり顔が四つ。
「ヒュ——」
「しーーーーっ! お忍びで視察なんだ!」
「おおおお、そ、そうなんですか!」
ソッコーでバレてしまった。
はい、最初にレナの名前を呼んだ俺が悪いです!
「ごめん、レナ。俺が迂闊で」
「いいえ、わたしこそ!」
「なにか偽名かなにか考えておけばよかったね」
「でしたら、わたしのことはレアと」
「じゃあ、俺はヒューで。…………なんか母さんの名前みたいだな」
俺の母、ヒュリー。
マザコンっぽくない?
「だ、大丈夫です! ヒュリー様は素晴らしい王妃様ですし!」
レナの言ってることがよくわからないけど可愛いから優勝。
「次回からそう呼ぶね」
「はい。わたしもヒュー様ってお呼びしますね」
「さ、様だと偉そうに聞こえるから呼び捨てでいいよ」
「ええっ、ヒューバート様を呼び捨てだなんて」
「お二人とも! こちらのお店の方々の野菜を購入して、なにかなさるんじゃなかったんですか」
「「ふぁ!」」
そうでした。
カボチャとさつまいもの食べ方を、工夫してもらおうと思ったんだ。
パティが見かねて止めてくれなかったら、店先でいつまでもレナと偽名について揉めていた。
お店のおっさんたちに聞いて、うち一人の家の調理場を貸してもらう。
まずカボチャから。
できるだけ小さくカットしてから鍋で蒸す。
柔らかくなったら卵を割って入れ、水を足し、とオリーブオイルを少々。
さらにふわりとなるまでかき混ぜて、型に入れたあとまた蒸す!
蒸している鍋の合間に、さつまいもも入れて蒸すよ。
でも次は蒸さないさつまいも。
縦長にカットしたさつまいもを、オリーブオイルで素揚げ。
さつまいもスナックのできあがり。
次に蒸していたさつまいもを取り出して裏漉しするよ。
卵と牛乳を入れてかき混ぜ、型に入れてから石窯で焼けばさつまいもケーキの完成。
蒸してあったカボチャの蒸しケーキも完成。
とりあえず三品できました!
「味見してみて。熱いから気をつけて」
「はい。はあ……、え、あ、甘い!」
「本当だなんだこりゃ、甘い!」
「甘みが強い野菜だが、こんなに甘くなるのか!?」
「蒸すと甘みが強くなるんだ。丸めたりして石窯で焼くのもいいよ。リーンズ先輩に相談して品種改良してもらえば、砂糖の代わりにならないかな?」
確かとうもろこしでも砂糖が作れたはずだから、とうもろこしを買って帰ろう。
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「え」
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そ、そんな、泣くほど……!?
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「え? お医者さんがいいって言ったらいいんじゃない? 買取りはしたけど、上手く作れる自信なかったし、美味しかったならよかったよ」
「ありがとうございます!」
「このレシピを町の人にも教えてやってくれ。好きに改良してみてもいいから。パンの中に入れて焼いても美味しいと思うよ」
「おお! そんな発想が!」
「ありがとうございます、殿下! ありがとうございます!」
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