61 / 385
12歳編
サルヴェイション
しおりを挟む「機体借用……登録者っていうのは、この機体の持ち主のこと、かな?」
『その通りだ』
なんで若干偉そうなの?
いや、正式なパイロットじゃないから、態度でかいのはまあいいか。
「貸してもらっていいのか? 俺たちとしては、近くに結晶に閉じ込められた人のことも、助けられたらと思うんだけど……」
『人命救助は素晴らしいことだろう。“歌い手”保護を最優先命令としている。人命を優先するのであれば好きに使ってよい、と登録者から通信を得ている。問題はないだろう』
「…………」
少し、口が空いたまま固まった。
通信? 登録者って、ロボットの持ち主から?
「貸出許可は出てるってことか? 俺が『貸してほしい』って頼む前に?」
『当機は“歌い手”保護を最優先命令として受け取っている』
「それって、このロボットのパイロットが生きてるってこと? おかしくない? このロボット、俺の予想だと千年前のものなんだけど? 今、許可をもらってるの?」
『その通りだ。当機の登録者は生きている。そして、当機の状況を伝えて了承を得ている』
「は、は……ははは……」
もう笑うしかなくね?
意味わからなすぎて、笑うしかない。
そんな状況、本当にあるもんなんだなぁ。
「ヒュ、ヒューバート様……あの……」
「もしかして、あの結晶の中にいる人かな?」
「っ!」
それだと割と繋がるんだけど。
だって、千年前の人間かも、って、うっすら思ってたじゃん?
で、このロボットが千年前のもので、そのパイロットって言ったらあの人しか思い浮かばない。
なによりパイロットスーツ着てたし、ヘルメット持ってたし、ロボットの近くにいる。
「よし、やっぱりあの人を助けよう。ええと、ロボットさん、近くに人がいるんだけど、助けられるだろうか?」
『問題ない』
「……ではもう一つ。君は『クイーン』っていうウイルスに、感染しているだろうか?」
「あ……」
レナも思い出してくれたらしい。
ギギが言っていたやつだ。
もし感染しているなら、研究塔には持ち込めない。
……そもそも持ち込めないか?
『当機は独立AIを搭載しており、“クイーン”は捕食対象である。“クイーン”本体の居場所を知っているのであれば、アクセスして除去に務める』
「……君、ワクチンなのか?」
『正確には“クイーン”の暴走を見かねて当機の同型機登録者がワクチンを開発した。それを当機も所持している。“クイーン”が当機に入り込んでもワクチンで除去が可能。“クイーン”本体にアクセスできれば、根絶も可能である』
「……マジか……!」
「あ、あのう、ヒューバート様? どういうことなのでしょうか?」
あ、ああ、レナにはよくわからないよな。
うーん、詳しく説明してもいいけど。
「揺れが激しくなってる」
「っ、は、はい」
「死んだことになって、お通夜空気になってそうだから早く出よう。ええと、君をなんて呼べばいい?」
機体の名前とかある?
あったらカッコいいよなー。
『ギア・フィーネ 一号機 サルヴェイション』
「……ギア・フィーネ? あ、機体のシリーズ名か?」
ガ○ン○ム的な。
で、シリーズの一号機?
えー、エ○ァみたいでかっこいー!
「機体の名前がサルヴェイションなんだな?」
『そうだ』
そしてやはり偉そうだな。
いや、いいけど。
「わかった、サルヴェイション。君の力を貸してほしい」
『貸出許可はすでに出している。人を救うためならば、好きに使え』
「——」
その言葉だけ、なぜかこのロボットの持ち主の言葉のように聴こえた。
姿は見えないのに、なんとなく。
あの金髪の中性的な子。
俺よりいくつか年上に見えたけれど、あんな状態でも人を助けようとしているんだ。
だったら——その気持ちに応えて助けなければ。
俺なんか、ただ死ぬのが怖いだけの臆病者だけど。
「レナ、掴まってて。絶対上手く操縦できないから」
「……大丈夫です。わたしはヒューバート様を、いつでも信じています」
「っ……サルヴェイション、壁の向こうにいる人を助けるぞ」
『了解』
ゆっくり、開いていた操縦席の扉が閉まる。
ボタンからなにから全部が光を宿し、座っていた椅子が重力に逆らうように垂直になった。
360度すべてが外の景色を映し出し、足下にまだ、あの馬の晶魔獣がうろうろしているのが見える。
執念深すぎない?
『あの生き物は不明』
「え? 晶魔獣だ。知らないのか?」
『該当データなし。当機が休眠状態の間に出現した新種生物と暫定』
「へ、へー……」
千年前にはいなかった、のか。
というか、休眠状態ってことはもしかしなくてもサルヴェイションもギギみたいな浦島太郎状態?
千年前と千年間になにがあったのか気になる。
余計! 気になる!
『地質情報も不可解。——登録者へのデータ共有を申請。機体チェックを開始。——異常なし』
千年眠ってて全部異常なし?
やべぇな?
エネルギーとかどうなってんの?
『サーチ開始。正体不明の物体を確認——ヒューバートが救助対象にしたのは前方八メートル弱の場所にいる正体不明の物体のことだろうか』
「? え? ええと、人間がいたはずだ」
『人類の反応ではない』
「えー?」
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
バグった俺と、依存的な引きこもり少女。 ~幼馴染は俺以外のセカイを知りたがらない~
山須ぶじん
SF
異性に関心はありながらも初恋がまだという高校二年生の少年、赤土正人(あかつちまさと)。
彼は毎日放課後に、一つ年下の引きこもりな幼馴染、伊武翠華(いぶすいか)という名の少女の家に通っていた。毎日訪れた正人のニオイを、密着し顔を埋めてくんくん嗅ぐという変わったクセのある女の子である。
そんな彼女は中学時代イジメを受けて引きこもりになり、さらには両親にも見捨てられて、今や正人だけが世界のすべて。彼に見捨てられないためなら、「なんでもする」と言ってしまうほどだった。
ある日、正人は来栖(くるす)という名のクラスメイトの女子に、愛の告白をされる。しかし告白するだけして彼女は逃げるように去ってしまい、正人は仕方なく返事を明日にしようと思うのだった。
だが翌日――。来栖は姿を消してしまう。しかも誰も彼女のことを覚えていないのだ。
それはまるで、最初から存在しなかったかのように――。
※第18回講談社ラノベ文庫新人賞の第2次選考通過、最終選考落選作品。
※『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しています。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる