52 / 385
12歳編
お見舞い聖女と(1)
しおりを挟む「ヒューバート様、お加減はいかがですか?」
「ああ、怪我は治ってるから、だいぶいいよ」
お茶会から五日経った。
ビーに刺された背中の傷は、城の魔法騎士と医療魔法師により徹底的に解毒洗浄と治癒が繰り返されようやく痛みがなくなったばかり。
いやぁ、セドルコポイズンビー、舐めてたわ。
さすが暗殺特化毒蜂。
しかも刺されたのが背中——脊髄の側だったので、危うく下半身付随になるところだったらしい。
当然童貞の卒業も永遠にできなくなる。
それを聞いた時、心の底から安堵した。
今までで一番冷や汗かいたかもしれん。
幸い場所が脊髄からずれていたのと、リーンズ先輩が適切な応急処置の解毒薬を適量飲ませてくれたので、後遺症も残らない、とのことだ。
あとから聞いたのだが、リーンズ先輩が作った解毒薬はリーンズ先輩が五年前から研究していた『リリスの花』も入っていたらしい。
リリスの花は解毒薬として一般的に使われる材料。
リーンズ先輩の五年にも及ぶ研究で、解毒効果を二倍に高めたものが使用された。
お茶会をした庭にはリーンズ先輩が研究のために、品種改良したリリスの花やデュアナの花、ソランの花などが植えられており、研究塔の外の普通の土でも問題なく生育可能か、効果が出るかなどが試されていたそうだ。
この辺、学院からも裏が取れたのでマジ、俺強運。
なにより植物に詳しいリーンズ先輩が、あの場に来てくれていたのが幸いした。
「お茶会がある」と招待しておかなければ、先輩はあの日あの場所の側のサンプルを確認しに来よう、とは思わなかったと言う。
ジェラルドと俺、グッジョブすぎる。
しかし、それでも刺したモノがモノだけに一週間は絶対安静を言い渡されてしまった。
暇なのでめちゃくちゃ座学の勉強してたら、侍女たちに本全部没収されて暇していたところ。
レナがお見舞いに来てくれて色んな意味で嬉しいです!
「レナこそ大丈夫か? なんかめちゃくちゃ光ったって聞いたけど」
「うっ。お、恐れ入ります……」
俺もうろ覚えなのだが、レナが叫んで光ったような気はする。
そしてそれは気のせいではなかったらしい。
俺が倒れたせいで、レナはパニックに陥り、『聖女の魔法』を暴走させたそうなのだ。
ジェラルドの話だと「光の柱みたいなのができた」ってくらいには派手に光ったんだって。
なにそれちょっと俺、いろんなものを見逃している。
「でも、それがきっかけになったのか、広範囲治癒を覚えました。ヒューバート様がお休みの間、患者さんを一ヶ所に集めて一回で治癒できるようになったんですよ」
「え! 聖女ってそんなこともできるのか!? すごいね!」
「はい。歴代の聖女様にも類を見ない魔法と言われました。小さな村なら患者さんを移動させることなく、私が村の中心で祈れば治せるみたいです。……その分魔力が空っぽになるんですけど……結界の強化も同時にできるみたいなので、わたし、これからももっとたくさんの人を助けていきたいと思います」
「ワ、ワァ……」
き、聞きしに勝るチート聖女……!
『救国聖女は浮気王子に捨てられる~私を拾ったのは呪われてデュラハンになっていた魔王様でした~』でも、レナは国一番の聖女。
なにしろ主人公なので、チート聖女だった。
だが、それは18歳のレナの話。
今、12歳だぞ?
もう『救国聖女は~』のスタート時点のチートっぷりを持ってるんじゃないか?
それとも漫画の中のレナも、12歳の時点でチート聖女の能力に目覚めていたのだろうか?
村一つを覆うほどの治癒魔法。
それと同時に結界の補強まで行える、二つの効果を持つ。
「その魔法、名前はあるのか?」
「え? いえ、聖殿からは『そんな聖女の魔法はない』と……」
「ではレナだけの特別な魔法なんだな。だったら余計に、魔法名をつけた方がいい」
その方が必殺技っぽくてかっこいいし。
「魔法名、ですか?」
「そう。聖殿の聖女との差別化も図れる」
必殺技っぽくてかっこいいし。
「レナだけの特別な魔法って感じがするだろ?」
必殺技っぽくてかっこいいし!
「わたしだけの……。では、ヒューバート様が名前をつけてください」
「俺!?」
「はい。これから何度でも使いますし、その度にヒューバート様のことを思い出せるように。ヒューバート様が側にてくれるようで、わたしはきっとすごく頑張れると思うのです」
「うっ!」
心臓が!
破裂したか!?
今度こそキュン死したか、俺!?
も、悶絶する可愛さ。
手を組み、祈るようなまさに聖女の姿にうがががが、となる。
漫画の中のヒューバートは頭がおかしい。
こんなに可愛くて健気な女の子を、浮気して捨てるなんて。
いや、落ち着け、ドアの横で気配を消していたパティが半目になって呆れた顔してる。
その眼差し、俺を現実に引きずり戻すからやめてほしい。
俺はまだその眼差しをご褒美と思えるほど成熟していないので普通に傷つく。
「……そ、そうだな……それじゃあ……」
っていうか魔法名決めるの、よくよく考えてめちゃくちゃ難しいな。
治療と結界補強。
回復とバフって感じだよな。
うーん、それじゃあ——。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる