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12歳編

お茶会(3)

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「レナ様が王家の聖女に! 俺のばあちゃん、レナ様に結晶病を治癒していただいたんだよ!」
「うちの兄さんももうダメだって時にレナ様が街に来てくださって、本当に危なかったところを助けてもらったんだ!」
「私の村にも来てくださったのよ! 町にも満たない小さな田舎の村なのに! その上結界まで補修していってくださったの!」
「ヒューバート殿下の婚約者だし、俺たちはいい時代に生まれたかもしれないな」

 平民たちの方からも喜びの声が続々!
 中には涙ながらに拍手し続ける平民生徒もちらほら。
 レナがこれまで頑張ってきた結果だ。
 隣を見るとみんなの声が聞こえるのか照れていた。
 可愛い。俺の目が爆ぜた。俺の目は犠牲になったのだ。

「ではみんな、各々楽しんでくれ」

 まあ、正直さ……お茶会ってこれ以上やることがないんだよな。
 本当にあとは各々、交流を深めたい相手と相席したりしてひたすら話をする。
 俺は主催なので、できるだけ多くの客と話はしなきゃいけないけれど。
 “挨拶”していない相手とは言葉を交わさなくていい、貴族ルールがあるからだいぶマシ。
 “挨拶”とは、下の者から上の者に挨拶して、許可をもらったら以降会話ができるようになるというもの。
 なので俺ってば本当は平民とは口を聞いてはいけない。
 まあ、初日に俺から話しかけてしまったので、そのへんは多めに見てもらえるとして。
 少なくとも聖殿派の二、三年は俺に挨拶をしてからじゃないと会話ができない。
 ちなみに、レナは今日から『王家の聖女』になったので上とか下とかとりあえず関係なくなった。
 聖殿認定の新しい聖女も、平民出身というが聖女に認定された瞬間から俺に対してもタメ口を利けるようになっている。
 それほど聖女とは位が高く、そして平等を求められてきたのだ。
 って言っても聖殿の言ってることはだいたい無茶苦茶で、トップがぽこぽこ変わるのでその時のトップ様が「こうだ!」って言ってることに従えばいい。
 そうすればどうとでもなる。
 王家としてはレナの意向を最大限汲むという形で落ち着いた。
 もう好きにしてって感じだ。
 丸投げである。

「ヒューバート殿下、お飲み物はいかがですか?」
「ありがとう、もらうよ」

 側にいるジェラルドに、俺が口にするものを全部[解毒]してもらうのは心苦しいけれどなにかあった時の責任を取るのはランディなので仕方ない。
 お茶うめぇ。
 早くケーキが食べたいから頑張ってサンドイッチ食おう。
 サンドイッチもうめぇ……。

「そうだ、ヒューバート様」
「なに? レナ」
「明日……その、わたし、お弁当を作って行ってもいいでしょうか……? サンドイッチ……」
「え?」

 レ、レナの? 手作り? まさか?
 ざわ……ざわ……。

「最近ヒューバート様とお昼をご一緒できないので、その、ご迷惑で、なければ……」
「も、もちろんっ」

 食い気味でお願いしますですよ。
 むしろ俺もお弁当作って行こうと思ってたぐらいですよ。
 え? まじ? マジで?
 レナの……こ、恋人の手作り弁当?
 はあー? 男のロマンがここにも……!

「た、楽しみにしてる!」
「は、はい! よかった……頑張りますね」
「が、頑張りすぎなくていいよ? その、俺はレナが作ってくれたら嬉しいけど、レナに無理してほしくないから、だから」

 これはマジ。
 レナはすぐに過労になるほど頑張ってしまう主人公。
 それでなくとも『王家の聖女』になんてしてしまって、王家の命運はレナの双肩にかかっているようなもの。
 その上で過労で倒れられたら申し訳ない。

「無理なんて! わたしがヒューバート様とご飯をご一緒したいんです」
「お、俺もだよぅ……! 一人飯寂しいし」
「ヒューバート様も……同じ気持ちで……?」
「当たり前じゃんっ」
「っ」

 なんで嬉しそうなの。

「? あれ、ヒューバート殿下」
「なんだジェラルド」

 うお、なんだ変な違和感。
 と思ったが、ジェラルドの“外向きの呼び方”か。
 公的な場なので呼び捨てはね。

「香水かなにかつけた?」
「え?」

 で、思いもよらんことを聞かれた。
 俺が香水なんてつけるガラですかね?
 いや、紳士としての嗜みで、そのうち勧められたりはするかもしれないけど、香水は超贅沢品。
 なぜなら花そのものが、今や希少だから。
 だって土地の面積が限られているからね。
 花を植えるくらいなら野菜の苗を植えます。
 貴族にも贅沢品を諦めなければならない程度に、終末というのは惨めなのである。
 なので、当然香水などつけていない。
 なにを言ってるんだと顔が笑いかけた時。

「っ!?」

 ジェラルドの顔が歪む。
 おかしい、なんだこれ。
 どたん、と椅子から転げ落ち、周囲の悲鳴が聞こえた。
 え? なに? 俺倒れた?
 十二年前、電動キックボードに突撃された状況と似ている。
 違うのは車に轢かれなかったこと。
 そこで意識が途切れたわけではないこと。
 息苦しさが迫り上がってくるように、胸から喉を、焼けるような痛みが侵食する。

「ヒューバート!」
「ヒューバート様!?」
「殿下!?」
「くそ! なんだこれ! [解毒]魔法が効かない!?」

 なんだこれ、なんだ?
 全身が痙攣して、うまく動かない。
 喉から、泡?

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