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12歳編
お茶会(2)
しおりを挟む会場は学院の庭の一画。
庭がやたらと広いなー、とは思っていたけど、複数のお茶会ができるようにってことかぁ。
女性向けだから、というよりは、金持ちの社交のため、ってのが理由だろうなぁ。
白のクロスを被ったテーブルが並べられ、軽食スペースと、座席スペースに分かれている。
で、見事に座席スペースには聖殿派が陣取り、王家派と中立派は立食用スペースに集まっている状態。
まあ、それでも聖殿派の方が数が多いので、あぶれているやつも多いが。
そして、もう一つのメインというか、初等部の一から三年の平民たちが、ずらりと使用人の制服を着て並んでいる。
数が多いのもさることながら、ランディに二年と三年の平民に声がけしてもらったところ瞬く間に希望者が殺到。
学年一人ずつの三人一組で“チーム”になってもらい、配膳などの仕事をしてもらうことになった。
今日一日のお賃金が五千ルク。
だいたい七千円。
杖を買うのに十分だし、学院の食堂で少しだけ贅沢できる。
杖を買った帰り道に、カフェでお茶でもしろよリア充。
まあ、二、三年の中にはお金がなくていまだに杖を買えない者もいるというから、参加者が殺到するのも致し方あるまい。
存分に生活の役に立ててくれたまえ。
「……なんか、どことなく平民のみんなのやる気に満ちた瞳が俺に向いているような気がしないでもないんだが気のせいだよね?」
「気のせいではありませんよ! 平民たちは今回のお茶会に賃金を出して働かせてくれることを、それはもう喜んでおりました。殿下の采配に感涙した者もおり、殿下の株は爆上がりです! 次回開催の時は大人気臨時バイトとして奪い合いになること間違いなしですね!」
「わ、わあ……」
母上には「レナのドレス同様、お茶会はできるだけ毎月開催するようにしなさいよ。情報収集は王族の義務です」って微笑まれてるし……やらねばならぬのか。
金がかかるんだよなぁ……。
いや、しかしこうして行儀見習いも兼ねた職の提供は、金のない学生にはありがたいものなのか。
まあ、この人数も今回だけだしな。
とはいえ毎回ランディに頼むのは負担がでかいし、今度からプロを雇おう。
母上の知り合いなら暗殺の危険も少ない。
「では、レナ」
「はい」
「くっ」
「が、頑張ってくださいませ、ヒューバート様っ」
「わ、わかっているよ」
レナに左腕を差し出す。
入場はパートナーと共に、なので腕を組んで親密さアピールをしつつレナのエスコートも俺の役目だ。
会場入りしたら主催として挨拶して、席に着く。
さすがに俺の席には誰も座ってないしな。
だが、一つ問題がある。
レナが美しすぎて眩しいのだ。
洒落じゃなくガチで困ってるんだよなぁ、俺。
「行こう」
レナをエスコートしつつ、ジェラルドとランディが左右後ろからついてきてくれる。
この心強さよ。
俺の入場にワァ、とわざとらしく立ち上がる聖殿派貴族。
今にその面泣きそうにしてやるから待ってろよ。
「本日は招待に応じてくれてありがとう。天気もよく、実に美味しいお茶を楽しめそうだ」
王子スマイル!
できてる? できてる?
俺、王子らしく笑えてる?
何回やっても不安だけど、今日は一段と不安!
だって主催が俺なんだもん! 不安!
「さて、お茶会を始める前に俺から一つ皆に報告がある。後日父——というよりも王家から正式に通達があると思うが……この度、我が婚約者、レナ・ヘムズリーは、ルオートニス王家認定聖女と相成った。先日聖殿からも新たな聖女が誕生したと聞き及んでいるが、彼女とともにこの国を守り、支えてくれればと思う」
まー、よーするに聖殿の聖女とは別に王家で擁立した聖女です、って話をしてるわけです。
なので聖殿派の貴族が笑みを消したり、笑顔が引き攣ってたり、もはや貴族としての教養そっちのけで驚愕の表情丸出しにしたりと大忙しになっている。
ははは、ざまぁ。
あとで思い出して笑おう。
「レナ」
「はい、ヒューバート様。……ご紹介に預かりました、レナ・ヘムズリーです。聖殿の聖女様には遠く及びませんが、今後もルオートニス王国と王家、そして国民の皆様のため、粉骨砕身の思いでお勤めを果たします。何卒、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
完璧な挨拶。
俺は若干関係ないのに感動で涙が……体が打ち震えるぜ……!
王妃教育が行き届いていらっしゃる!
このレナの姿を見たら、母上もさぞ涙を禁じ得ないことだろう!
「すごい……! 聖女様が二人になったということか!」
「王家の聖女様か。……聖殿に肩入れする必要性がいよいよなくなるな」
「レナ様が聖殿に聖女として認められなかった時は、どうされたのかと思ったけれど……そういうことでしたのね」
「聖殿が発表した聖女の名は聞いたことがなかったから、驚いたんだよ」
「わたくしもよ。やはり実績が違うものね」
「レナ様が聖女として今後も活動されるなら安心だな」
「お茶会が終わったらすぐにお父様たちにお手紙を出さないと」
王家派と中立派からは、それはもう心からの祝福の声が聞こえてくる。
そうだろうそうだろう。
うちのレナさんは実績も実力も違うからな!
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