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12歳編

護衛騎士

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 そんな感じで行動パターンを変えることになった俺。
 本日は一人で——と言っても護衛騎士がいますけど——サロンの個室で昼食を摂っている。
 寂し……。
 まあね! 暗殺者に狙われてるのがわかってて、愚かにも同じ行動を取り続けるのは為政者の子どもで次期国王内定の王太子のやることじゃないもんね!
 それでなくとも俺、固定の護衛騎士いないからって割と勝手な行動してますしね!
 父上や母上にも「王太子となったのだから、いい加減護衛騎士を十人くらい決めてくれない?」って、溜息混じりに言われてしまったしね!
 でもさぁ、護衛騎士って当たり前なんだけど男ばっかなんだよ……。
 でもこのままだと母上が勝手に決めてしまうしなぁ。

「あのー」
「はい、なんでしょうか?」

 振り返って、今俺の護衛騎士を務めてくれている騎士を見上げる。
 あれ、こいつなんか見覚えがあるな?

「……俺の護衛騎士、初めてではない?」
「はい、殿下の護衛は何度か」

 あー、やっぱりかぁ。
 男の顔とかあんまり覚えてないけど、この人は四年前から何度も護衛してくれていたのか~。
 この人なら聞いても大丈夫かな。

「俺の護衛騎士をできそうな人は、今の騎士団にいる、のか?」

 あぶねー、歳上相手だから敬語使いそうになった。
 偉そうな喋り方を心がけなければいけない。
 一応、一番偉い人の息子で、直に一番偉くなるので。
 聖殿にも平民にも舐められまくる王家だが、近衛騎士にまで馬鹿にされたら終わりだもんな。
 頑張れ、俺。

「そうですね……僭越ながら自分はぜひ、殿下の護衛騎士を務めたく思っております!」
「へ?」
「四年前に聖女レナ様を、ミラー子爵令息のご自宅にまで連れて行き、治癒を施されましたでしょう? 自分はあの時から殿下の護衛を幾度か務めさせていただきましたが、殿下は正しく王の器——次期国王たる、新時代の王に相応しいと、心より尊敬しております」
「……え」

 思わずもう一人の護衛騎士を見る。
 すると、あちらも「うんうん!」と力強く頷いていた。
 え、お、お、え?
 なんか騎士さんたちの俺への評価ハードルがめちゃくちゃ高くて、ガタガタ震えるんですが。

「自分もそう思います。もしも専属の護衛騎士をお探しでしたら、ぜひ、自分たちをご指名ください! 命に代えましてもお守り申し上げます」
「え、あ……」

 二人の騎士が俺に頭を下げる。
 でも、喉が引き攣った。
 あ、嫌だ——。

「い、いらない」
「! 差し出がましいことを申し……」
「ち、ちがう! ……命に代えてほしくない。自分の命も守れる人じゃないと、側にいてほしくない……」

 なぜなら命は大切だから。
 脳裏に十二年前の記憶が蘇る。
 雨の日。
 電動キックボード。
 点滅する黄色い信号。
 スピードを上げる車。
 水飛沫。
 悲鳴。
 そして、迫るタイヤ。
 俺は、死を知っている。

「「…………」」

 騎士たちが押し黙る。
 ちらりと見上げると、神妙な顔をしていた。
 そのあと急に、真顔になる。
 え、こわい。なに。

「殿下のお心を察することができず、軽率な発言をいたしました。申し訳ありません」
「殿下のご意向、確かに我らが胸に刻ませていただきました」
「え、あ」

 そう言って、二人が膝を降り、頭を下げてくる。
 なにこれ、どういう状況?

「我ら、ヒューバート殿下への忠誠を誓います」
「っ!?」

 なんでそんな話になったんですかねぇ!?
 い、いや、しかし、王族として騎士が忠誠を捧げると発言した時、きちんとそれを受け止めなければならなくて~、えっと……。
 落ち着け、大丈夫。
 席を立ち、騎士二人の前に来る。
 左手を出して……。

「……それならば、許す」
「「ありがたき幸せ」」

 二人がそれぞれ俺の左手の甲へと唇を落とすふりをする。
 正式な場でもないし、これで十分。
 これでこの二人は俺の専属護衛騎士だな。
 あとで名前確認しておこう。
 まあ、近衛騎士は全員身元のハッキリしている王家派で構成されているし、引き抜いても大丈夫だと思うけれども。

「殿下、お食事を中断させてしまい、申し訳ありません」
「あ、いや、こちらこそ? 違うか。……いやうん、どうぞこれからよろしくお願いします」
「はい」

 あ、やべ、敬語でちゃった。
 ごほん、とわざと咳払いして「よろしく頼む」と言い直す。
 なんか生暖かい目で微笑まれたんですけど。

「あ、だけど研究塔での護衛は不要だ。あそこのセキュリティーはこの時代のものではないから、賊も易々立ち入れない。俺が研究塔に行く時は、出入り口で待っていてほしい」
「「かしこまりました」」

 護衛騎士ができたし、今日は研究塔に行ってもいいだろうか?
 いいよな?
 あとでジェラルドに聞いてみよう。
 あーあ、そろそろレナと……みんなとご飯食べたいな~。
 一人は寂しいぜ……。

「はっ!」
「「?」」

 賊の予想できない行動を取ればいいなら、明日俺がお弁当作れば良くね?
 王太子自らお弁当を作る……誰が予想できるだろうか!
 お弁当作って、みんなであの公園の小丘で食べたらいいんだ!
 護衛騎士もいるし、久しぶりに行く分には許されるはず!
 ヤッタァ、いいこと思いついたじゃん俺ー!

 ——ちなみに、翌朝厨房を訪ねたら全力で「困ります、困ります」と拒まれたし護衛騎士のお二人にも「頼めば作ってもらえますから!」って叱られた。
 シェフに作ってもらった弁当は美味しかった。
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