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12歳編
国境の出会い(3)
しおりを挟む「でへへ、でへへ」
「じゃあレナ、ぼくの[浮遊]でワイバーンを浮かすね」
「はい、浮かせたワイバーンをわたしが持ってきます。結晶魔石を取ったら、しばらく放置して素体になったら取りに戻る、ですね?」
「うん、数日かかると思うけど……へへへ~、よかった~! こんな大きな素体、もったいないもん~」
そう言ってレナがスタスタと結界の外へと出て行く。
弱まっているとはいえ、あんなデカいワイバーンが王都の方に来なくてよかったなぁ。
それに、本当になんの迷いもなく結晶化した大地に進むレナの勇敢さよ……。
普通、いくら耐性があるって言われても絶対怖いだろ?
すごすぎない? 俺の聖女。
…………でへへ……俺の聖女。
「——え」
浮かぶワイバーンの尻尾を掴み、レナがこちらに戻る。
戻ろうとした。
しかし、レナは地面を見下ろして驚いた顔をしている。
「レナ? どうかしたのか?」
「これ、地面に大きな穴が……その下になにかあるんです!」
「ちょ……レナ!?」
ほーい、とジェラルドの魔法で軽くなっていたワイバーンをこちらに放り投げ、レナはワイバーンの死体が隠していた、抉れた大地に開く穴へと飛び降りた。
嘘でしょあの子!
たまに大胆だなー、と思ってたけどそんな行動力あるぅ!?
危なくない!? 危なくない!?
「レナ! 危ない! 戻ってくるんだ!」
「大丈夫でーす! ……あ、わあ、嘘! ……大変です、ヒューバート様! 穴の中に大きな結晶があって……その中に人がいます!」
「え!」
そう言われても、こちらにはなにもわからない。
穴の中になにがあるのか、レナの言葉通りなら結晶があり、その中に人が……人?
「いや、おかしいだろ……レナ、結晶化した人間じゃなくて、結晶の中に人間がいるのか!?」
「はい!」
はい!?
「生きてるの~?」
「わかりませーん!」
ジェラルドが叫ぶ。
レナも叫び返す。
生きているか、わからない。
でもなんかもうこれ、フラグじゃないか?
セカンドヒロインのフラグ!
まあ、俺はレナが一番でハーレム要員は必要ないけどな。
そろそろ追加の女の子がいてもいいとは思う。
それになんかこう、いかにもイベントって感じじゃないか。
えー、どーーーするぅ~~~?
助けるぅ~~~?
……でもどうやって?
「レナ~、助けられそうなのかー?」
「わかりませんが……やってみてもいいでしょうか!?」
さすが、人助けには積極的な聖女様……。
でも本当に大丈夫か?
結晶から取り出すって、結晶化治癒の魔法を使うつもり、なんだよな?
結晶化した大地内で助けたら、瞬く間に結晶病に侵食されてしまわない?
助けるのなら、万全を期した方がいい。
助けたあとどうする?
俺たちが乗ってきた乗り合い馬車に乗せるか?
そのあとは?
いきなり連れて帰ってきて、誰が面倒を見る?
生きているのかもわからないし、意識のないままならレナがあの穴の中から連れてこれる?
無理だな。
「レナ、落ち着け! 目標をつけて、今日は帰ろう!」
「え! で、でも!」
「生きているのか死んでいるのかわからないんだろう!? もし生きていたとしても、レナ一人でそこからこっちまで運んでこれるのかー?」
「あ」
はい、後先考えてないですね。
「見えないとぼくも[浮遊]でサポートできないよ~」
「今日は俺たちだけじゃないし、助けたあとのことも考えないとー! 位置的にミドレの国の人かもしれないしー!」
「そうです、聖女様! 万全の準備をしても救出は失敗することがあります! お気持ちはわかりますが! ここはお戻りください! もしまたワイバーン級の晶魔獣が襲ってきては、対処できません!」
と、俺とジェラルドに賛成して叫んだのは護衛騎士の一人だ。
騎士団の人が言うと説得力が違うな……。
「レナ! 今日は結界補強と目標をつけて、帰ってから救助の話し合いをしよう!」
「そ、そうですね……勝手なことを言ってすみません……」
レナが人を助けたいと思う気持ちは尊いものだ。
誰も否定しない。
けれど、ここは国境。
晶魔獣がうろついていて、危険なのだ。
穴から出てきたレナは、一度こちらに戻ってきてから長めの木の棒を拾って結晶化した大地に戻る。
穴の側に木の棒を突き立てると、木の棒は瞬く間に結晶化した。
あれを見ると、やはり聖女の結晶化耐性すげぇ、となるな……。
「では、結界を強化します」
「ああ、頼む」
「~~~♪」
歌声が響くと、結界が波打つように白く光る。
その波紋のような波が、幾度も幾度も発生しては広がり消えていく。
これが結界強化……まあ、結界の補修作業だ。
何人もの歴代聖女が、国境を回って結界を補強し続けてきて結晶化津波を防いでいる。
それでも結晶化した大地の侵食は、止まることはない。
抜本的な解決方法がないのだ。
やはり石晶巨兵は、必要だろうな。
「……必ず、近いうちに助けにきます。待っていてくださいね……」
レナの呟きは、なんとなく、俺にとっても救いのような気がした。
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