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12歳編
研究塔(2)
しおりを挟む塔への扉の前にある階段に足をかけた、その瞬間だ。
バキッ、と派手な音がしてランディが剣を振り下ろし、飛んできた矢を落とす。
と、同時にジェラルドが魔法で矢を撃った者のいた場所を狙撃。
ぎゃ、と小さな声が聞こえたので、狙撃者は狙撃され返されたようだ。
「ランディの情報通りだねぇ~」
ジェラルドが右手を下ろし、ランディが剣を持ったまま声のした方へと駆ける。
レナの方を見るとパティが前に出て守る体制。さすがだ。
「どうだ?」
「パラライズを撃ち込んだから痺れてると思うよ」
「はい。痺れてますね」
「おぅ……」
近づいてみると十メートルほど奥の木の影に男が倒れていた。
ピク、ビクッとしててなんか可哀想。
「ふんふーん、[鑑定]!」
ジェラルドが男の顔に触れて、魔法を発動する。
[鑑定]魔法といえば前世のラノベでありがちなチート魔法。
俺も使えるが、ジェラルドの[鑑定]魔法はレベル10。
この世界の魔法には熟練度レベルというものがある。
まあ、[鑑定]は熟練度というより知識量に関わってくるけど。
「なにか分かったか?」
「メリリア妃の関係者と同一の魔力が検出できたよ。記録は取ったから用済み!」
「わかった。地下牢に飛ばせ」
「はーい」
ランディの指示でジェラルドが[転送]の魔法で男を城の地下牢に飛ばす。
可哀想に。
俺の命を狙ったばかりに、あの男は一生地下牢で臭い飯を食わなければならないのだ。
まあ、結晶化した大地に飛ばされるよりはマシだろう。
「またメリリア様の関係者なのですね……」
と、眉尻を下げるレナ。
争いごとの嫌いな優しいレナには、メリリア妃のやってることは理屈はわかっても心底理解し難いのだろう。
「学院ともなると聖殿関係者も増えるだろう。ジェラルドの[分析]と[記録]の魔法のおかげで証拠が集めやすくて助かる」
「任せて~。ヒューバートを害そうとする人たちはみーんな地下牢に送っちゃうよ~」
「それにしても叔母上もまるで懲りませんね。ジェラルドの[分析]と[記録]の魔法のことを、まだ知らないのでしょうか」
「いい加減気づいてもよさそうなもんだけどなぁ」
ここ四年、こういう暗殺未遂は二桁に上る。
が、ランディの二重スパイのおかげで事前に情報がこちらにも流れるため、対策を取ってこのように難を逃れてきた。
ランディがメリリア妃に俺たちの情報を流すことはなく、いわゆる最初の使命である“ヒューバートを懐柔する”に徹している。
それがメリリア妃ではなく、ランディの実家、アダムス侯爵家からの指示でもあるのだ。
メリリア妃はランディを実家のアダムス侯爵家から借りている立場なので、実家の指示には逆らえない。
ランディが主席入学、学年主席のまま二年生になったこともあり、メリリア妃は自分の命令をランディに無理強いできなくなっている。
さらにアダムス侯爵家は、ランディがメリリア妃の横暴ぶりを告げ口したので聖殿派から少し距離を置き始めているそうだ。
俺の思っていた通りというか、ランディの家の事情が複雑で、簡単に言うとランディの母親とメリリア妃——姉妹仲がめちゃくちゃ悪い。
アダムス侯爵は婿入りで、ランディのお母さんと婚約していたのに、メリリア妃が横恋慕して奪い取ろうとしたらしい。
ブチギレたランディのお母さんが、両親に頼んでメリリア妃を後宮にぶち込んだ。
父上は当時、俺の母ヒュリーのみと婚約しており、メリリア妃を押しつけられた状態。
断れなかったのか、というと、アダムス侯爵家が聖殿派の中でも強い支持層だったためゴリ押しされたのだとか。
俺もレナだけでいいんだけど、第二妃を娶る覚悟はしておかなければならないのかもしれない。
その辺はレナとちゃんと相談したいと思う。
なんにしてもそんな感じで四年間のランディの環境の変化は大きい。
おかげで俺の暗殺計画は今のところすべて失敗に終わっているのだから。
まあ、成功されるとここにいないしな。
っていうか、成功させるつもりがあるのか、メリリア妃。
罪ばかり重ねて立場が悪くなるとか、考えないんだろうか。
もっと俺のこと調べて慎重に計画を練ればいいのに、雑なんだよなあ。
「おかげで命拾いしているから、いいけどさ」
「そうですね!」
「引き続き頼むよ、ランディ」
「はい! お任せください!」
頼りになるなぁ~、うちの従者たち~。
「じゃいよいよ行くか」
「はい!」
「わくわくだねー」
俺たちにあてがわれたフロアは九階。
一階と十階は管理系だから、研究室として使われているのは二階から九階なので、俺たちの研究室は最上階となる。
受付のある一階は無人ではあるものの、今までのファンタジーぶりが嘘のようなSF感満載な近未来風の構造にびっくりした。
「なにこれすげー!」
「ど、どうなっているんでしょうか!?」
「話には聞いていましたが、本当にすごい施設ですね……!」
「ほわー」
初めて入る俺たちとは正反対に、ランディがドヤ顔で「そうでしょうそうでしょう!」と腕を組んで頷く。
まぁな、ここの存在を調べて教えてくれたのも、俺たちが入学したらすぐに使えるように色々走り回ってくれたのも全部ランディなので、この顔は許されて然るべきだろうけどな。
それでも若干このヤロ、と思うのは仕方ない。
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