26 / 385
12歳編
学院入学式(3)
しおりを挟む「起立! ただいまより、ルオートニス貴族学院入学式を始めます! まずは聖殿より新教皇閣下がお祝いの挨拶をくださいます」
この学院の教師だろうか。
女教師がステージ上から退けると、恰幅のいいおっさんが代わりに登壇する。
ああ、あれが“今”の聖殿最高権力者か。
「初めまして皆さん、聖殿新教皇、ディロック・レバーです」
豚の肝臓かな。
「えー、本日はお日柄もよく~」
から始まった長ったらしい、しかも中身がない話。
これいつまで続くの?
俺ら立たされてるんだけど?
苦痛の時間が十分ばかり続いたように思う。
「であるからして~皆さんには輝かしい未来が待っています。どうかこの学院で学び、聖殿のために尽くしてください! ではでは!」
……スピーチがゴミのようだ……。
思わず隣のジェラルドを見ると、にこりと微笑まれた。
どういう意味の笑顔? それ。
「次に、国王陛下より新入生の皆さんへお祝いの挨拶をくださいます」
豚の次に父上が登壇してきた。
去り際、父上を鼻で笑う豚。
そーね、聖殿が国王より先に挨拶してる時点でクソ舐め腐ってるよね。
わかるわかる。
ああ、そういう意味のアレか、ジェラルド。
そうだな、豚が粋がってんなぁ。
「こほん。えぇ、国王ディルレッド・ルオートニスだ。新入生の諸君、入学おめでとう! 難しいことは言わない。やりたいことを見つけてたくさん学びなさい。青春は一度しかない。大いに謳歌するように! 以上! 着席!」
最後に俺をチラリと見て微笑むのを忘れない。
豚に比べて印象が全然違う。
平民の子どももいるから、難しい言葉を使わず、長時間立たされていたのを気遣って短く簡単な挨拶にしてくれたのだろうな。
最後に座るよう言ってくれるしブラボー!
父上サイコー!
「はあ」
「国王陛下の挨拶短かったね」
「やっと座れた、よかった」
後ろからチラホラそんな声が聞こえる。
みんな考えてたことは同じか。
「起立!」
え。
先程の女教師の声に、新入生一同がざわついた。
い、今父上が座らせてくれたばかりなのに……!?
「次は新入生代表、入学試験で満点を取られました、ヒューバート・ルオートニスくん!」
「! はい!」
あれ?
聞いていた順番と違うな。
父上と聖殿の偉い人のあと、校長の挨拶だったように思うのだが……。
「…………。失礼ながら、校長先生からのお話はないのでしょうか!」
罠か?
女教師にそう、声をかけてみると——案の定というべきか、ギロリ、とものすごい顔で睨まれた。
俺の後ろの生徒が「ひっ」と声を上げるほどの形相だ。
「……失礼。校長先生よりご挨拶があります」
そう言い、校長が登壇する。
ふらふらよれよれの爺さんが、「入学、おめでとう」と簡素な一言を告げて降りていく。
いや、短っ! 早!
「ヒューバート・ルオートニスくん!」
「はい」
今度こそ新入生挨拶。
ちらりと壁際に座る教師たちを見ると、皆一様に目を背ける。
ふーん、校長の挨拶をわざと飛ばして、俺に挨拶をさせてあとから「ヒューバート・ルオートニス王子は順番も守れない目立ちたがり屋」とでも捏造するつもりだったのかな。
教師陣はほとんどが中立派の貴族と聞いているが、あの進行役の女教師はわかりやすく聖殿派だろう。
こりゃ面倒だなあ。
「皆さん! おはようございます! これから一緒に頑張って学んでいきましょう! それでは着席してください! はい、よろしくお願いします!」
登壇してからすぐ、簡素な挨拶だけ告げて頭を下げ、降壇する。
考えていた挨拶をほぼすべて端折って、生徒たちを座らせた。
階段を降りながら講堂全体を見ると、俺が座れと言ったことでほとんどの生徒が頬を緩めたのがわかる。
一番後ろの方は平民、その前は男爵家、子爵家の者たち。
身分により前が位の高い者、後ろが位の低い者になっているのか。
ジェラルド? ジェラルドは俺の従者なので身分は関係なく俺の近くにいるものである。
「ちっ」
席に戻る俺に、豚だか女教師だかが舌打ちをかます。
聖殿は、ここ二年ほど俺の婚約者であるレナの献身的な治療行為で中立派が増えているのが面白くないのだろう。
元々聖殿派だった貴族の中には、聖殿への寄付が足りないと結晶病の治療を拒否された家も多い。
俺はレナとジェラルドに頼んで、そういう家の者を治癒してもらってきた。
勢力図に大きな変化はないものの、新しく聖殿につく貴族は出ていない。
舌打ちの後ろに「必ず殺してやる」という副音声が聞こえた気がするが、やれるもんならやってみろと思う。
「では、続きまして入学パーティーを行います。新入生の皆さんはダンスホールへ」
「わあ……」
行動の横にあるダンスホールへの扉が開く。
そこには在学生と有力貴族が集まっていた。
俺は父と共にダンスホールの上座へ。
生徒が全員ダンスホールに入ったのを確認して、父上が手を上げて注目を集める。
「さて、入学パーティーの前に我がルオートニス王国の王位を継ぐ者を、ここに正式に定めることを宣言する! ルオートニス王国次期国王は第一王子、ヒューバート! 皆、どうか支えてやってほしい!」
「おおお!」
「ヒューバート殿下!」
「おめでとうございます!」
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
祈りの力でレベルカンストした件!〜無能判定されたアーチャーは無双する〜
KeyBow
ファンタジー
主人公は高校の3年生。深蛇 武瑠(ふかだ たける)。以降タケル 男子21人、女子19人の進学校ではない普通科。大半は短大か地方の私立大学に進む。部活はアーチェリー部でキャプテン。平凡などこにでもいて、十把一絡げにされるような外観的に目立たない存在。それでも部活ではキャプテンをしていて、この土日に開催された県総体では見事に個人優勝した。また、2年生の後輩の坂倉 悠里菜も優勝している。
タケルに彼女はいない。想い人はいるが、彼氏がいると思い、その想いを伝えられない。(兄とのショッピングで仲良くしているのを彼氏と勘違い)
そんな中でも、変化があった。教育実習生の女性がスタイル抜群で美人。愛嬌も良く、男子が浮き足立つのとは裏腹に女子からの人気も高かった。タケルも歳上じゃなかったら恋をしたかもと思う。6限目が終わり、ホームルームが少しなが引いた。終わると担任のおっさん(40歳らしい)が顧問をしている部の生徒から質問を受け、教育実習生のミヤちゃん(竹下実弥子)は女子と雑談。タケルは荷物をまとめ、部活にと思っていた、後輩の二年生の坂倉 悠里菜(ゆっちゃん、リナ)が言伝で来た。担任が会議で遅れるからストレッチと走り込みをと言っていたと。この子はタケルに気があるが、タケルは気が付いていない。ゆっちゃんのクラスの担任がアーチェリー部の担任だ。ゆっちゃんと弓を持って(普段は学校においているが大会明けで家に持って帰っていた)。弓を背中に回して教室を出ようとしたら…扉がスライドしない。反対側は開いていたのでそっちに行くが見えない何かに阻まれて進めない。反発から尻餅をつく。ゆっちゃんは波紋のようなのが見え唖然とし、タケルの手を取る。その音からみっちゃんも扉を見て驚く。すると急に光に包まれ、気絶した。目を覚ますと多くの人がいる広間にいた。皆すぐに目覚めたが、丁度三人帰ったので40人がそこにいた。誰かが何だここと叫び、ゆっちゃんは震えながらタケルにしがみつく。王女と国王が出てきてありきたりな異世界召喚をしたむね話し出す。強大な魔物に立ち向かうべく勇者の(いせかいから40人しか呼べない)力をと。口々に避難が飛ぶが帰ることは出来ないと。能力測定をする。タケルは平凡な数値。もちろんチート級のもおり、一喜一憂。ゆっちゃんは弓の上級スキル持ちで、ステータスも上位。タケルは屑スキル持ちとされクラスのものからバカにされる。ウイッシュ!一日一回限定で運が良ければ願いを聞き入られる。意味不明だった。ステータス測定後、能力別に(伝えられず)面談をするからと扉の先に案内されたが、タケルが好きな女子(天川)シズクと他男子二人だけ別の扉を入ると、閉められ扉が消え失せた。四人がいないので担任が質問すると、能力が低いので召喚を取り消したと。しかし、帰る事が出来ないと言っただろ?となるが、ため息混じりに40人しか召喚出
スキル『モデラー』で異世界プラモ無双!? プラモデル愛好家の高校生が異世界転移したら、持っていたスキルは戦闘と無関係なものたったひとつでした
大豆茶
ファンタジー
大学受験を乗り越えた高校三年生の青年『相模 型太(さがみ けいた)』。
無事進路が決まったので受験勉強のため封印していた幼少からの趣味、プラモデル作りを再開した。
しかし長い間押さえていた衝動が爆発し、型太は三日三晩、不眠不休で作業に没頭してしまう。
三日経っていることに気付いた時には既に遅く、型太は椅子から立ち上がると同時に気を失ってしまう。
型太が目を覚さますと、そこは見知らぬ土地だった。
アニメやマンガ関連の造形が深い型太は、自分は異世界転生したのだと悟る。
もうプラモデルを作ることができなくなるという喪失感はあるものの、それよりもこの異世界でどんな冒険が待ちわびているのだろうと、型太は胸を躍らせる。
しかし自分のステータスを確認すると、どの能力値も最低ランクで、スキルはたったのひとつだけ。
それも、『モデラー』という謎のスキルだった。
竜が空を飛んでいるような剣と魔法の世界で、どう考えても生き延びることが出来なさそうな能力に型太は絶望する。
しかし、意外なところで型太の持つ謎スキルと、プラモデルの製作技術が役に立つとは、この時はまだ知るよしもなかった。
これは、異世界で趣味を満喫しながら無双してしまう男の物語である。
※主人公がプラモデル作り始めるのは10話あたりからです。全体的にゆったりと話が進行しますのでご了承ください。
【完結済み】VRゲームで遊んでいたら、謎の微笑み冒険者に捕獲されましたがイロイロおかしいです。<長編>
BBやっこ
SF
会社に、VRゲーム休があってゲームをしていた私。
自身の店でエンチャント付き魔道具の売れ行きもなかなか好調で。なかなか充実しているゲームライフ。
招待イベで魔術士として、冒険者の仕事を受けていた。『ミッションは王族を守れ』
同僚も招待され、大規模なイベントとなっていた。ランダムで配置された場所で敵を倒すお仕事だったのだが?
電脳神、カプセル。精神を異世界へ送るって映画の話ですか?!
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる