22 / 385
8歳編
きょうだい(7)
しおりを挟む友よ。
きょうだいよ。
どうしたらいい?
死んでほしくない。
別れなければいけないのだろうか?
俺の初めての友。
初めての味方。
信じると言ってもらったのに。俺ならできると言われたのに。
いやだ……いやだ……。
「いやだ……」
「~~~♪ ~~~♪」
「いやだ、レナ……ごめん、がんばって……お願いだよ……ジェラルドに死んでほしくない。死なないでほしい、いやだ、いやだ! ジェラルド!」
ジェラルドの手を握る、レナの手に縋りつく。
うっすらと新緑色の瞳を開けたジェラルドと目が合った。
「————……ぼくの、魔力を、つかって」
「え……?」
「いちかばちか、レナさま、僕の体内魔力を、ぜんぶ、渡します……! 使って……胸に、ヒューバート……!」
「「!」」
俺はレナの手を無理矢理ジェラルドの胸に——まだ肉の肌が残る場所に動かした。
その瞬間、レナの手を通してものすごい魔力を感じて目を見開く。
レナの体が白く光り輝き出すほどの、魔力。
「あ、っ、~~~♪ ~~~♪」
一瞬驚いたようだが、すぐに歌い始めるレナ。
今までの歌声ではない。
白い魔力がジェラルドの体に還元され、結晶化していたところが瞬く間に元の肉の肌に戻っていく。
首も、顎も、耳も、手も足も……指先まで!
「あ……っ」
「……お、おお、おおおおおおっ! ジェラルド、ジェラルドぉ!」
「ジェラルドー!」
ミラー子爵とパティがベットの上から起き上がったジェラルドに抱き着く。
俺とレナは押し出されて床に尻餅をついた。
けれど、でも、嬉し泣き——っていうかもう子爵は雄叫びだけど——する家族の間から顔を覗かせたジェラルドが微笑むのを見て、俺も安心して涙が出てきた。
……生きてる。
生き延びた。
ジェラルドが。
「う、ぁうっ、うああぁ、うあああぁっ、ジェラルド、よ、よかっあっあぁううああぁ……」
「殿下、よかった、よかったですね!」
「ヒューバート様……」
「レナ、れなぁ! ありがとう、ありがとうー!」
「ひゃっ! ……は、はい……わたしも……ありがとうございます!」
いつしかまるで関係のない近衛騎士の二人までもらい泣きし、しばらく部屋の中は嗚咽と泣き声が続いた。
落ち着いてくると、ジェラルドが父親を引っ剥がして俺のところに来ると俺を抱き締める。
それでまた、俺がブワッときたのは仕方ないことだ。
「ジェラルド」
「ありがとう、ヒューバート。ヒューバートが『死なないで』って言ってくれなかったら、ぼくはあきらめていた」
「うっ!」
泣くだろ。
ブワッとまた、クるだろ。
「……聖女様、母の結晶病も治していただけませんか? ぼくの魔力を使ってくださって構いません」
「! は、はい! わかりました! その、ジェラルド様にお力添えいただければ、できます!」
「ほ、本当ですか!? 妻も助けていただけるのですか!?」
「っ!」
俺から離れたジェラルドの提案に、レナが笑顔で答える。
子爵とパティがまたぶわりと泣き出すが、安心するのはまだ早い。
レナ、ジェラルドと頷き合い、夫人の部屋へ移動する。
ベッドに横たわった夫人は、すっかり元通りになったジェラルドに悲鳴をあげかけたが、ジェラルドがレナの手を握って聖女の魔法を発動させるとさらに困惑して「え、あ、え、あ」と変な声しか出なくなった。
わかる~~~。
もう現実が受け止めきれないよなぁ。
「あ、ああああぁぁぁ……か、体が……!」
「あああああああぁぁ! アザラァァァッ!」
「お母様ぁぁァァァッ!」
先程の再現を見せつけられているようだ。
子爵とパティがアザラに抱き着いて、びゃあびゃあと泣き始める。
俺もまたなんかこう、じわ、と涙が浮かんできた。
「レナ、本当にありがとう……」
「いえ、わたし一人の力では……! ジェラルド様のおかげです。ものすごい魔力で、わたしの魔石の力を引き出してくださいました」
「ヒューバートの婚約者の手を握るのは、じゃっかん命がけだったけど」
そうだな。
普通そうだろう。
でも許す。だってジェラルドだもの。
「ヒューバートが魔法のべんきょーをする時間をたくさんくれたから、気づくことが多かった。聖女様の魔法に魔力がひつようなのも、わかったんだ。ぜんぶヒューバートのおかげだよ」
「ジェラルド……」
「あ、あの、お力になれて、よかったです! わたしも、ヒューバート様が信じてくださったから……わたしなんかを……ずっと、一度も否定せずに……ずっと信じてくださったから……! ヒューバート様、ありがとうございました!」
「レナ……っ」
左手を握られる。
か、かわいい。
それにジェラルドにも右手を握られた。
え、こんなの——泣くしかないじゃん?
「ダバーーーーーーッ」
「わあー」
「ヒューバート様!?」
夜、帰るのは遅くなってしまったけれど、俺が帰るのを待っていてくれた両親には最高の報告ができた。
レナのことも紹介できたし、今夜からレナは城暮らしとなる。
なので、四人で夕飯を食べて、夜の勉強をせずにベッドに入った。
ジェラルドが助かった。
その事実に、嬉しくてまた泣いたのは俺だけの秘密だ。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる