終末革命ギア・フィーネ〜転生先が婚約破棄した聖女を追放してザマァされる悪役王子なんだが、破滅したくないので彼女と幸せになります!〜

古森きり

文字の大きさ
上 下
20 / 385
8歳編

きょうだい(5)

しおりを挟む
 
「お茶会のしょーたいじょーの返事もないから、そんな気はしていた」
「!? ヒューバート様からお茶会の招待があったのですか!? ひ、ひどい……! どうしてそんな大切なものを……」
「まあ、今こうしてさいかいできたからよしとしよう。……レナにはどうしても頼みたいことがあるんだ」
「え?」

 近衛騎士に頼み、俺を後ろに、レナを前にして城へと帰城する。
 移動しながら俺の幼馴染で乳母兄弟のジェラルドが、結晶病を発症し半年持たないだろうという診断をもらったことを話した。
 レナには王妃教育の合間を見て、どうかジェラルドを治癒してほしい、と。

「……お、お力になりたいのですが……わたしは聖女として、才能がなくて……」
「大丈夫だ。レナは絶対にくにいちばんの聖女になる」
「……っ……ヒューバート様……」
「だから……だからおれの、だいじなきょうだいを、どうか、助けてほしい……!」

 幼い彼女にこんなことを頼むのはきっと酷だ。
 ずるいに決まっている。
 もしもダメだったらしこりが残るのは間違いない。
 でも、それでも他に方法がないのだ。
 聖女の魔法しか、結晶病を治せない。
 諦めないと決めた以上、聖殿がまだ『聖女』として認定していない——おそらくする予定もないレナに頼む他……縋る他ないんだ。

「……ヒューバート様は、わたしを一度も……」
「……? え?」
「いえ。……やります。やってみます。わたし、聖女になれるなんて思ってなかったけど……ヒューバート様がわたしを信じてくれるのなら、わたし、やります!」
「レナ……!」

 近衛騎士を見上げると、頷かれる。
 王城には向かわず、ジェラルドと乳母のいるミラー子爵家に向かってもらった。



 ミラー子爵家は元々東の国境付近に領地があったが、現在は結晶化した大地クリステルエリアに呑まれて王都に避難してきた。
 実際そういう貴族は多く、領地の民も一緒に連れてくることが多い。
 しかし、ミラー子爵家の領民は王都のはずれの大農場に全員引き取られた。
 そのためミラー子爵家は行き場がなくなり、お城での役割もなければ聖殿にも「人では間に合っている」と貴族としての役目を奪われかける。
 そこを救ったのが俺の母。
 ジェラルドが生まれた時に、俺も間を置かずに生まれて、ミラー子爵夫人アラザは王子の乳母として城に召し上げられた。
 その後もアラザは王妃付きの侍女の一人となり、夫である子爵は国王お抱えの文官として雇われ、ミラー子爵家は取り潰しを免れた。
 その後成長した長女パティも城のハウスメイドとなり、ジェラルドは俺の従者兼話友達としてかなり王家に近い立場となる。
 そうして王都の端にあった仮住まいから、貴族街に王が家を用意して引っ越してきた。
 ミラー子爵家は、現当主の孫の代まで王家に尽くせば伯爵家に陞爵しょうしゃくされることだろう。
 ……それまで王家にその権限や存在が残っていればの話だが……。
 うん、頑張ろう、俺が。

「こちらですか」
「そう!」

 貴族街の一画にあるこじんまりした屋敷がミラー子爵邸だ。
 使用人は三人ほどと少なく、出迎えてくれたのは実家に戻っていたパティだった。
 俺が本当に聖女候補の婚約者を連れてきて驚いた様子だが、その前に俺はパティに頼みたいことがある。

「パティ、すまないがレナのかっこうをなんとかできないだろうか? 薄着すぎて、目のやり場に困るんだ」
「あらやだ本当!? なにこのボロ布! 雑巾より薄いじゃない! あたしのお下がりの方がマシね! 殿下たちは応接間でお待ちを! 婚約者様、こちらへ! そんな格好じゃ風邪ひくわ!」
「は、はいっ」

 世界中が結晶化した大地クリステルエリアに侵食されていて、季節もなにもないけれど、夜は寒いしそろそろ日が暮れる。
 できれば早めに城に帰りたいけど、やはりジェラルドの体調が心配だ。
 結晶化するのは手足などの末端から。
 それから徐々に心臓や頭に向かう。
 ステージ2は膝や肘などに達しているということ。
 もうそこまでくると寝たきりとなり、起き上がることはできても歩くことは難しい。

「突然のことでおもてなしもできませんが……」

 そう言ってお茶と茶請けを出してきたのはこの家の主人、ミラー子爵本人だ。
 妻と息子が同時に結晶病を発症してしまったことで、一番ショックを受けているのはこの人だろう。
 今日の仕事を終えて早々に帰ってきているようだが、目に見えて憔悴している。

「気遣いはふよーだ。じぜんのれんらくもなく来てしまったのは我々だからな。それよりも、ジェラルドの体調はどうだろうか?」
「……深刻です。妻よりも結晶化の速度が速い。医師からは驚かれるほどです。明日の朝にはステージ3に到達するだろうと」
「そ、そんなに!?」

 ステージ3は腰や肩にまで結晶化が広がった状態のこと。
 いくらなんでも速すぎない!?

「医師が言うに、魔力量が多い者は侵食がはやいのではないか、と言われているそうです。まだ検証されておらず、あくまでその医師の経験によるものだそうですが……」
「っ、そ、そんな……」
「ヒューバート殿下、あの少女は……ジェラルドと妻を治癒できる聖女様なのでしょうか?」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

処理中です...