上 下
7 / 385
8歳編

身分と味方(2)

しおりを挟む
 
「ヒューバートの立場が、王家の立場があやういのは知ってる。だからこそヒューバートががんばらなきゃいけないのも知ってる。僕もお母さんもお姉ちゃんも王家の味方。お妃様には“きんせんてき”に“しえん”していただいてる、恩がある。ぼくはヒューバートのきょうだいみたいなものだし」
「ジェラルド……」
「ぼくにはぼくにしかできないことがあると思う。ヒューバートは、ぼくよりできることが多いけど、まだ味方が少ない。でもだいじょうぶ。ぼくはヒューバートを信じてる」

 顔を少し上げて、ジェラルドを見上げた。
 くそ、いいヤツ。
 無条件で味方してくれる、俺の“きょうだい”。
 ヤバい、泣きそう。

「がんばって」
「うん、わかった」

 ……漫画のヒューバートは、どうして道を誤ってしまったのだろう。
 こんなに優しい“きょうだい”がいたのに。
 やっぱり側近がランディだったからなのかな。
 それでも、ジェラルドがいたら道を踏み外すことなんてなかったんじゃないかな、って思うんだが。

「ジェラルド」
「うん」
「おれ、王家の立場を立て直したい」

 それが無理なら潔く、俺が『最後の王』となって国を穏やかに終わらせたいと思う——は、言わないけど。
 王家の立場を立て直し、レナと婚約破棄せず結婚して国を守れたら最高。
 それが理想だ。
 でも正直、どうすれば王家の立場を立て直せるのかよくわからない。

「味方を増やさなければ、というのはわかるんだけど……他になにしたらいいと思う?」
「うーん、味方を増やすのは“ひっす”」

 必須か。
 だよな。

「ヒューバートが言ってた『聖女の“ふたん”を減らせる魔法』は、王家の立場を立て直すのに、十分可能性がある」
「!」
「だから“やくわりぶんたん”。ね?」
「……う、うん! そっか、わかった!」
「うん。ヒューバートも、夢を教えてくれてありがとう。ぼくも手伝うね」
「うん、ジェラルド、ありがとう」

 話をまとめてから剣の素振り練習を一時間。
 魔法の練習を二時間やって解散した。
 味方がいるって素晴らしい。
 俺、前世は一人っ子だったから“きょうだい”がいるのもなんかこう、ウフフってなる。
 まあ、マジで血の繋がった兄弟——レオナルドとは、ほとんど会えないんだけど……。

「無理やり会いに行ってみるか?」

 聖殿の力が強くなっているんだし、いくらレオナルドの母親が聖殿派とはいえ破滅が待ち構えているのは同じだしな。
 陽も傾いてきたし、今日はやめておこうか。
 いや、思い立ったが吉日だ!
 後宮西側に赴き、レオナルドの様子だけでも見てこよう。
 明日の件の稽古に誘うのもいいな。

「!」

 後宮は男禁制。
 女の声がして、思わず柱に隠れた。
 なぜならその女の声は側室のメリリア妃。
 俺にとっては継母であり、聖殿派。
 誰と話してるんだろう、と柱の影からこっそり覗き込むと……ラ、ランディ~!?
 レオナルドを側室のメリリア妃が手放さないので、十歳未満の子どもはお目溢しされているから、いるのはギリギリセーフだが……。

「なにをやっているの! 本当に無能ね! どうしてお前しかいないのかしら。義兄さんの息子は優秀な者が多いのに……ああ、よりによって一番味噌っかすなアンタがヒューバートに一番歳が近いなんて!」
「……も、申し訳ありません、叔母上……」

 え!
 ランディとメリリア妃って親戚だったの!?
 おば、ってことは宰相とメリリア妃は兄妹!?
 し、知らなかった!
 貴族の相関図とかまだ習ってないけど、こりゃ急ぎ目で教わった方がいいかも!
 それにしてもなんか険悪というか……メリリア妃がランディを叱りつけてる?

「いいこと、お前みたいになんの才能にも恵まれなかった塵にも、義兄さんは役目を与えてくれたのよ! ありがたく思ってヒューバートを懐柔なさい! レオナルドが王太子になるのが理想だけれど、お前がヒューバートを操れればアレを引き摺り下ろすこともできるもの」

 は……?

「だいたい、なんで伯爵家のヒュリーが正妃で侯爵家のわたくしが側室なのよ。その時点で間違ってる! あんたもそう思うでしょ!」
「は、はい、叔母上!」
「そうよ! 間違いは正さなきゃいけないわ! レオナルドが次期国王になるのが正しいの! だってレオナルドは由緒正しいアダムス侯爵家の血を引いてるんだから! 我が家から王を出すのは、悲願なのよ!あと一歩、あと一歩なの! いい! 失敗は許されないわ! これ以上無能を晒すのなら、義兄さんに頼んで折檻してもらうんだからね! わかった!?」
「は、はい! わかりました! 二度と失敗しません! だ、だから鞭は……鞭はお許しを……!」
「気安く触るな!」

 ベシッと音を立てて、ランディがメリリア妃に叩かれて倒れる。
 震えが止まらない。
 メリリア妃、片手の数しか面識がない、俺の継母。
 聖殿派だとは、知ってたけど……なんという性悪女!
 ランディはまだ9歳だぞ!?
 子どもを殴るなんて!
 しかもあんなに罵って、無能? 味噌っかす?
 できなければ折檻? 暴力を振るうのか!?
 子どもに!?
 ……信じられない……なんてヤツだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...