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四章 冒険者『Bランクブロンズ』編

任務

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 さて、そんな後ろ盾がこっそり出来ているとも知らないオリバーは、『ミレオスの町』の冒険者たちに手紙を出したついでに依頼を受けた事を話して町を出た。
 彼らはふざけて「手伝うか」と言ってきたが、その顔は明らかに断られるのが分かっている顔。
 当然にっこり笑って「不要ですよ」と断ってきた。
 モーブ……『トーズの町』を出てきた時に一度だけ戦った魔物だ。
 雌ならばCランクグリーン。
 雄ならば角があるためCランクオレンジ。
 今回の依頼は雌雄の指定はなく、素材として必要、という事のようだ。
 モーブは処理さえきちんとすれば牛肉として人気が高い。
 特に貴族には日常食として好まれる。
 おそらくマグゲル伯爵家の数日分のお肉だろう。

「という事はエルフィーも口にしたりするのかな? よーし、頑張ろう!」

『探索』を使い、広範囲を調べる。
 すぐに反応を見つけて近づけばビンゴだ。
 こういう時は本当に【無敵の幸運】に感謝する。
 頭数は五頭。
 雄一頭、雌四頭だ。
 距離は十五メートル弱。

「なら、雌だけでいいかな?」

 雄が襲ってきたら仕方ない。
 弓矢を収納魔法から取り出して矢を三本魔力で固定して、弦にかける。
 狙うのは眉間。

「ロック・スターショット!」

 中級弓矢スキル。
 どの方向を向いていようとも、弓矢が綺麗に眉間に撃ち込まれる。
 倒れたモーブに、雄のモーブが驚いて辺りを見回す。
 しかと残った一頭と一緒に側を離れる気配がない。
 そんな事をされると大変心苦しくなる。

「はあ……」

 矢筒から二本、矢を取り出す。
 弦にかけて引いた。

「そういう事なら仕方ないよね……まあ、多めに狩っても残りは貰えばいい」

 依頼書には『多くても可』とある。
 仲間想いな種族だとは今初めて知ったが、基本的にモーブは人家の畑を荒らす。
 矢を放つ。
 それぞれの眉間に矢が刺さったのを確認。
 そして、倒れるのも確認した。

「血抜きしておいた方がいいかな? いや、依頼品は出来るだけそのままの状態が好ましいよね」

 解体しておいて欲しければ依頼書にそう書かれる。
 食肉用だろうが、血抜きも行いたいというのならブラッドソーセージでも作るのかもしれない。
 勝手に捨ててしまって依頼料が下がるのは避けたいので、そのまま収納魔法でしまった。

「ん?」

 五頭のモーブを収納し終えると、ステータスに変化があったようだ。
 感覚的に感じるそれを、人々は『通知』と呼ぶ。
 目視出来るわけではなく、自分でステータスを開いて確認するのだが……。

「あ! 収納容量が増えてる! やった!」

 収納魔法レベルが上がったのだ。
 最大収納数が500種×50個数だったのが1000種×80個数に大幅アップしている。

「助かる~! お祖父様から頂いた聖霊武具で100近くスロット食われてたから……。ジャンル別とかに設定出来ればいいんだけどな~。…………。……シュウヤはジャンル別収納出来てたよね? ……チッ」

 素で舌打ちをしてしまった。
 これだからチート主人公は、と。

(収納魔法レベルは5……ようやく折り返しか。最大個数が上がったのも嬉しい。この調子でジャンジャン使おう! ……そういえば……)

 ステータスを少し戻り、基礎数値を出す。

【オリバー・ルークトーズ】
 総合レベル:354
 物理攻撃レベル:42
 物理防御力レベル:36
 魔法レベル:67
 魔法防御力レベル:59
 俊敏レベル:49
 総合運レベル:101

(…………マックス数値のはずの100を超えてるんだけど……なにこれ……)

 素直に怖い。
 しかし、気になったのはこれではない。
 その横にある『称号』の欄。

【転生者】
【世界一の美少年+++】
 + [カリスマ]効果:魅了チャーム誘惑テンプテーション・求心力(開放条件未達成)・指導力(開放条件未達成)
 +[威圧]開放条件未達成。
 +[聖霊の寵愛]効果:聖魔法威力アップ・瘴気無効。
【無敵の幸運】
【ギルドマスターの器】
【努力家+++】
 +[魔法同時使用]
 +[魔法複合使用]
 +[武器スキル+魔法スキル同時使用]固有
【家事好き】
【料理上手】

(……なんか増えてる)

 増えているのは【努力家+++】の+[武器スキル+魔法スキル同時使用]固有。
 もう一つは【世界一の美少年+++】の一番下、称号スキル[聖霊の寵愛]の効果だ。
 瘴気無効が増えている。

(多分……ミートウォール戦で瘴気が効かなかったのはこれのおかげ、だよな? っていうか、これ……ちょっと……大丈夫なのか?)

 【努力家】に増えた+[武器スキル+魔法スキル同時使用]固有は文字通りオリバーのみが使える固有スキル。
 努力が実った結果であり、もう少し使い込めば称号に昇格するだろう。
 ギュンッとやる気が湧き上がる。
 固有スキルはコピー不可。
 つまり、シュウヤにコピー出来ない、その個人限定スキル!

「…………っと、喜んでる場合じゃなかった」

 町から近いとはいえ平原だ、あまり気を抜いてもいられない。
 用事も済んだので、町に向かって歩き出す。
 その間ステータスを眺めながら、もう一つ増えたスキル効果に唸った。
 瘴気無効……これ実はかなりとんでもない。

(この世界で瘴気は聖魔法でしか消す事が出来ない。それでもAランクの瘴気を放つ魔物は、弱まらなければほぼ自動的に瘴気を放ち続ける。消したとしても一時凌ぎ。Aランクの魔物を討伐する時は基本的に遠距離からの魔法攻撃か、上級弓矢スキルぐらいしか手がないのが現状……)

 もしも……もしも瘴気をものともしない人間が現れたら?
 ランクがどうあれ、間違いなくAランクの魔物関連任務に引っ張りだこになる。
 今特に困るという事ではないが、しかし……将来的にエルフィーをお嫁さんにして『トーズの町』に帰るつもりなので、Aランクの魔物が出るその都度、大陸中からお呼びがかかるのは避けたい。
 聖魔法に関しても政府は否定的。
 無論Aランクの魔物討伐では必須なので、完全に「使うな」とは言われていない。
 ただ若干「他に使い道はないだろ?」と小馬鹿にしているだけで。

(というか……瘴気無効なんてシュウヤも持ってないなかったような……? あいつはそもそも力押しでAランクの魔物もポンポン倒していたから、そもそも不要というか……)

 神様がくれたのは「死なないための加護」。
 それは、【無敵の幸運】という形だと思っていた。
 だがこの【世界一の美少年】もまた神が与えてくれた加護だ。
 そう考えれば、この瘴気無効はオリバーを守るための加護とも考えられる。
 それがこちらに、こういう形で現れただけ、とも。

「……こんなにもらって本当に良かったのかな……俺、お返しするものなんてなにもないのに……神様……」

 あの太った大きなおっさん。
 顔は怖いし体は巨人だし声も大きかった。
 空を見上げながら思う。
 貰いすぎではなかろうか。
 自分にここまでしてもらうだけの価値が本当にあったのだろうか、と。

「いや……せっかくもらったんだから、エルフィーだけじゃなくてたくさんの人を助けられるように頑張ろう。……一人でも多く、泣いてる人を、減らそう……」

 自分はもう、前世の家族になにもしてあげられない。
 泣いている妹を救う事も、共働きで朝から晩まで必死で働く両親に育ててもらった恩返しをする事も出来ないのだ。
 無力で、親不孝者な子どもだった。
 死んでしまったのは不幸な事故。
 まさに運が悪すぎた。
 ても、それでもだ。

(ごめんな……お兄ちゃん約束守れなくて……)

 今もとても、心残りな事がある。
 前世の妹に頼まれた同人誌を買っていってあげられなかった事。
 あの子がようやく自分から話しかけてくれたのに、本当に申し訳がない。
 そしてどうか、それを自分のせいだと思わないで欲しい。
 あの時、前世のオリバーに同人誌を頼んでいたのは妹だけではなかったのだから。
 クラスメイトのオタク友達も、しっかりお金と地図を手渡していた。

「はあ……」

 今思い出しても肩が落ちる。
 元気にやっているだろうか……そう心配する事しか出来ない。
 もしもこの世界の時間軸が前世と同じなら、妹は二十代半ば。
 社会復帰して、仕事をして、結婚して、子どももいるかもしれない。
 普通の幸せを手に入れて、穏やかに暮らしてくれていればいいのだが……。

「よし! 昔を思い出しててもなにも変わらない! とにかく依頼達成の報告に行こう! マグゲル伯爵に面会したあとの事も考えておかなきゃいけないし! 町へ帰ろう!」

 パン! と自分の頰を叩き、気合を入れ直す。
 過去に囚われているとは思わないが、時折思い出して前世の妹や両親の幸せを祈るくらいはいいはずだ。
 気持ちを切り替えて、今の自分の生きる意味を思い出す。
 エルフィーを、お嫁さんにする。

「…………」

 そして彼女の事を思い出すとほあ、と顔が温かくなった。
 自分で思っていたよりも、彼女との出会いは衝撃だったのかもしれない。
 気を抜くとソワソワとしてしまう。
 だが、同時に自分の立ち居振る舞いを彼女に不審がられたかもしれない、という不安が呼び起こされる。
 あれはなかなかに怪しかったのではないか?
 跪いて婚約を申し込むのは貴族ではセオリーだ。
 だが、彼女は貴族の血を引いてはいるがほぼ平民。
 まして一目惚れしました、なんて信じてもらえないのでは?
 もっと違う形を想像して、予め用意しておいたセリフだったが……あの場面であれは苦しかったのではないか?

「うー……! マグゲル伯爵に早く会いたい……!」

 そんな事を身悶えつつ、町に入り、ギルドの扉を開ける。
 中にいた冒険者たちが酒の入った木のジョッキを掲げながら「よう! 今日の英雄!」と声をかけてきた。
 首を傾げると、その日もっとも活躍した冒険者を称えてそう声をかける習慣があるのだそうだ。
 それはよい習慣ですね、と笑顔で返す。
 実際『トーズの町』のギルドにも取り入れたい、いい習慣だと思った。

「お帰りなさいませ。どうでしたか?」
「依頼の品はどちらに提出すればいいんでしょうか?」
「…………。え? 確かモーブを三頭ですよね? まさか、三頭狩ってこれたんですか?」
「はい」
「「「はい!?」」」

 なんだか驚かれたが、依頼なのだから狩ってきてなにがおかしいのだろう?
 首を傾げると受付嬢が「えーっと、今繁殖期前で割と気が立ってませんでした……?」とかなり恐る恐る聞いてくる。
 ああ、なるほど、とオリバーは納得した。

「弓矢スキルがあるので、遠距離から仕留めましたよ」
「あ! そうだったんですね! それなら……ん? でも、帯剣されてますよね?」
「近接になれば剣を使いますが……弓矢や槍の方が得意なんです。長剣と大剣は練習中ですね」
「えっ」

 かなり変な声で聞き返された。
 まあ、普通なにか一つ、得意な武器を究めるだろう。
 なんにでも手を出すのはオリバーが『お祖父様からもらった武器がもったいないので使いたいなー』という大変不純な動機があるからで……。

「まあ、あとは魔法を使ったり……。と言ってもサポート系ばかりですけど」
「サポート系?」
「え? もしかしてお前治癒魔法とか使える?」
「はい。こう見えて強化補助系と治癒魔法は得意……」
「「「うちのパーティーに入らないか!」」」
「要検討させて頂きます」

 治癒魔法が使える冒険者は本当にモテる。
 とりあえずその辺りは後日、と丁重にお断りして、受付嬢に向き直った。
 依頼の品はどこに置けばいいか、である。

「あ、えっと、こちらに……」
「分かりました」

 やはりこちらのギルドも聖霊魔具に移し替えるようだ。
 収納魔法を開き、差し出された『聖霊石』の飾られた小箱へと手をかざす。
 ステータス画面のようなウィンドウが現れるので、依頼の品を選択する。
 提出、とボタンのような文字をタップすると移動は完了。
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