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決闘
しおりを挟む「「決闘!?」」
「ああ、準備もあるので三日後にな」
晩餐の時間、ニグムとムジュタヒド様が同じ席につき、昼間国王陛下に帰国の挨拶をしてきた時のことを話してくれた。
なんと、挨拶早々父王は三男ムーダ様がニグム様に対して王太子と私の夫の座を賭けた決闘を申し込んだらしい。
以前来た時にフラーシュ王国はハーレムにより兄弟が多く、決闘で王太子の座を奪い合うことがよくあった、という歴史があったと習った。
フラーシュ様の加護を与えられた王子を正攻法で殺害する、唯一の方法とされている。
つまり、正攻法でニグム様の命を狙ってきた。
「あれ? でも私の夫の座とかも言っていませんでした?」
「ああ、王太子の座と……同じくフラーシュの加護を与えた者であるフィエラを妻にするのは、この国の王族には確定要項だ」
「ああ、そうなんですねぇ……」
笑顔だった。
ニグム様が爽やかな笑顔で拳をバキバキと鳴らすので、私の呑気な言葉に「姉様」とスティールに咎められてしまう。
まあ、つまり王太子の座と私が景品ということですか。
男尊女卑の色の濃いこの国だと、女の私がニグム様以外の王子と結婚するのを断る、という考えがないんだろうなぁ。
私は小国とはいえ一国の王女なんだから、ニグム様が亡くなったら普通に婚約破棄ですよ。
ニグム様が、死ぬなんて……。
「あの、大丈夫なのですか? ニグム様……その……」
「問題ない。あんな動きの悪そうな愚弟に負ける気がしない。なにより、君を物のような言いぐさ……! 絶対にシメる」
さ、爽やかな笑顔~。
私に強がっているようにも見えないし、フラーシュ様もケラケラ笑いながら『あのボテボテした体で剣の勝負に勝つつもりなん、あの自信なんなん~!?』とお腹を抱えている。
フラーシュ様もこんな反応なら、平気、なのかしら?
決闘という単語に過敏に反応しすぎた?
でも、守護獣様の加護を与えられた者を合法的に殺害する方法、というから心配しすぎたのだろうか?
い、いや、でも……。
「決闘の内容はニグム様の方に有利なのですか?」
「決闘は基本、剣で行われますが……まあ、ムーダは甘やかされて剣の稽古もしてこなかったので、むしろ剣の握り方も知らないかもしれないですね」
私の考えていたことを、スティールがムジュタヒド様に聞いてくれた。
ムジュタヒド様の答えに、内心胸を撫で下ろす。
そんな話なら、大丈夫、なのかな?
「あの、では、その……」
「うん?」
「人が亡くなったりも、ないのですよね?」
王族として、罪人がどんな沙汰を下されるのかはある程度知っている。
私に毒を盛った侍女が死刑になったのも、仕方ない。
罰痕があるものが国外に逃れても生きていくことなどできないだろう。
実行犯ということもあり、苦しまないように処刑した方が彼女のため。
でも、それを見たいわけではない。
目の前で人が死ぬなんて、考えるのも嫌。
まして、婚約者が……死ぬかもしれない、なんて。
「俺としては君にロダウを嗾けたムーダとムーダを王太子にしようとするロソーク家を黙らせるために、ムーダの首を落とすことも吝かではないのだが」
「ニグム様!?」
「君が見に来るのならそんなことはできないな。どうする?」
「え!? う、うーん……わかりました。じゃ、じゃあ……」
ニグム様は負ける気がしない、と自信満々。
剣の握り方も知らないというのなら、それだけ実力差があるのだろう。
でも剣の試合とか一切興味ないんだよなぁ。
「まあ、ニグム様が一瞬で勝ってくださるのなら……」
「はっはっはっはっはっ!」
なぜ大爆笑?
目を丸くする私と、口許を緩めて笑いをかみ殺すスティールとムジュタヒド様。
え? そんなに笑われるようなこと言った?
「そうも煽られては、燃え上がるというものだ。ククク……どんな罠でも叩き伏せて君に勝利を捧げよう」
「え、え、あ……」
今まで見たことのない、自信満々で愉しげで、捕食者のような目。
あれえ? 煽ったこととか、ないと思うんだけれど……?
◇◆◇◆◇
それから瞬く間に決闘の日。
ここ三日色々バタバタ忙しそうにしていた侍女や城仕えの役人たちが、ようやく落ち着いたようだ。
ラフィーフが緊張の面持ちで朝、私とスティールを迎えに来た。
「おはようございます。フィエラシーラ姫様」
「おはよう、ラフィーフ。……なにかありましたか?」
「い、いいえ! だ、大丈夫です……」
どうしたのだろう?
ラフィーフの様子がおかしい。
首を傾げながら、闘技場に案内される。
王都の端に、闘技場があったなんて……初めて知った。
市民も入っているのだろう、観客席は満席。
始まる前からものすごい歓声で、空気がずっとピリピリ震えている。
王族席は私とスティールのいる来賓席の真横。
国王陛下と、初めて目にした王妃様。
ニグム様と同じ灰黄緑の髪と淡黄の瞳。
私が席に着いたのに気がつくと、疲れたような表情で微笑んだ。
席を立ち、カーテシーでご挨拶をすると驚いた表情をされた。
国王陛下や、付近にいた貴族、王族親族の男性たちがギョッとした表情している。
フラーシュ様の加護を与えられた者がほぼお飾りの王妃に礼を尽くしたのが予想外だったのだろう。
私の横でスティールも膝を折り、頭を下げる。
「聞きしに勝りますね」
「まあ、仕方ないわね。今は、まだ」
「姉様が嫁いだあとの不安要素ではありますが、フラーシュ様がいらっしゃるなら大丈夫ですよね?」
「ええ」
頭を上げてから席に座り直す。
王妃様の驚いたような、感動して震える姿にまた微笑んで見せる。
ニグム様のお母様には嫌われたくないから、愛想は振りまいておこう。
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