26 / 39
秋の交流会(1)
しおりを挟む秋の交流会――とは。
各国の王侯貴族が通うサービール王国の王立学園には春と秋に大がかりな交流会がある。
ただし、一年生が参加するのは秋の交流会から。
なぜ一年生に春の交流会への参加が不可かといわれれば、他国からの留学生への配慮である。
私のように長い間サービール王国に滞在している者はともかく、夏頃までは生活環境の変化に戸惑う者が大多数。
自国の貴族であっても、ぬるま湯のような中等部から上がったばかりだと突然の高等教育や課題の倍増具合に慣れるのが大変。
なお、そんな中でも二ヶ月近く体調不良で休学許可が出る私は座学学年首席の座を掻っ攫った。
うふふ、おかげさまでサービール王国の貴族の皆様にものすごく睨まれました。
だって男女混合の順位でも首席でしたので。
高等部で初めての大きな試験で一番になれたのは、故郷のお父様たちに胸を張って報告できる!
でも、スティールが来年留学してくるのなら、姉が優秀だとハードル高いかしら?
「姫様、噴水を確認してまいりました。祝石ができておりましたよ」
「え、本当に!?」
コキアにカジュアルドレスを着つけてもらっている最中、ハゼランがハンカチに包んだ祝石を見せてきた。
薄いピンク色のハンカチに載せられた、ラウンドブリリアントカットのアクアマリンのような祝石。
綺麗……。
「お持ちになりますか?」
「ええ、そうね。今の時期はブタクサの花粉が漂っているもの」
花真王国ほどではないけれどサービール王国にもブタクサがちらほら……あるんだよねぇ……。
手に取って祝石を使ってみると、体が膜に包まれる感じがする。
「いかがですか?」
「ええ、見た目は変わらない?」
「はい。問題は祝石を身に着ける術がない――でしょうか?」
「ネックレスに加工するには一時間はいただきたいですね」
「うーん……じゃあ、コキア、お願いできるかしら?」
「かしこまりました。すぐに作業に移ります。ハゼラン、姫様の準備の続きを頼みますね」
「わかりました。さあ、姫様! ニグム様からいただいた髪飾りを着けましょうね!」
「え、ええ……」
パステルカラーのオレンジのカジュアルドレスに、フラーシュ王国の国花、フラーシュの花を模した髪飾りを着けられる。
フラーシュの花はコスモスに似た花。
華やかで可愛い。
「姫様の淡いベージュピンクの髪によく映えますね」
「そ、そうかしら。いえ、まあ、あの……ニグム様が私に合う、と言ってくださるのなら、まあ……」
お洒落に関して自分の感覚を信じられないけれど、ニグム様とコキアとハゼランがそう言うのならそれを信じる。
姿見を見ると、確かに可愛くなってる、と、思う。
「姫様、ニグム様がお迎えにいらっしゃいましたよ」
「え!? は、早くないですか!?」
「ふふふ、早く姫様にお会いしたかったそうですわ」
屋敷のメイドに呼び出され、応接室に向かう。
あああ、緊張する……と、思いつつハゼランが応接室の扉を開く。
ソファーから立ち上がったニグム様は、いつも下ろしている髪をオールバックに整えた洋装。
洋装というか、中央部文化圏の装い。
あまりにもスマートに着こなしていてカッコいい。
「フィエラ」
「はあっ……!? お、おは、おはようございます……!!」
「おはよう。フィエラが選んでくれた礼服を着てみたが、妙なところはないだろうか?」
「え? ええ……どこも変なところはございませんが……」
「本当か? アリヌスが自信がないと落ち込んでいて、直せるのなら直せる時間がいいかと――」
「ああ、それでこんなにお早くいらしたのですね」
ニグム様の後ろにいる老人執事がペコペコされる。
中央部の礼装が不慣れで心配だったということらしい。
ハゼランの方を見て、確認してあげるよう促す。
「はい。問題はないと思います」
「ありがとうございます」
「本当に申し訳ない。アリヌスも中央部の装いは勉強したらしいんだが」
「ええ、完璧です。フィエラシーラ姫様と並んで歩かれたら、皆様の羨望の眼差しを独り占めでございますよ!」
「そ、それは……!」
それはちょっと、微妙。
私は恥ずかしいから、目立ちたくない。
「そういえば、学年首席おめでとう、フィエラ」
「まあ、四属性の幻魔石! しかもこれは――ランク4の幻魔石ですか!?」
「ああ。俺は五十八位とまったくダメだった。君の一位を祝して……受け取ってくれ」
「ありがとうございます!」
箱に入った手の平サイズの大きなランク4の幻魔石!
すごい、嬉しい!
普通の店で購入できるのはランク3まで。
ランク4~6は王族の城や貴族の屋敷、幻魔神殿のご神体、研究用など。
なかなか手に入りづらいのに、まさか四属性を揃えていただけるなんて!
『やー! フィエラシーラ姫~! わいからも祝福を贈るで! おめでとうやで!』
「フラーシュ様! ありがとうございます!」
ニグム様の肩に現れるフラーシュ様。
あああああ、もふもふが飛び込んできてくださった!
幸せ! もふもふ! 祝福ありがとうございます!
肉球むにむに……いいいいい……!
「いいのか? フラーシュ」
『まー、今回はご褒美やで』
「ありがとうございます! フラーシュ様のもふもふ、ありがたいです!」
ニグム様にエスコートされながら、ソファーに座りフラーシュ様のもふもふを堪能する。
本当に最高。幸せ。フラーシュ様ならカジュアルドレスに毛もつかないし、いくら撫でてもアレルギー反応も出ない。
最高でしょう、もう!!
44
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される
めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」
ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!
テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。
『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。
新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。
アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。
大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜
楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。
ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。
さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。
(リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!)
と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?!
「泊まっていい?」
「今日、泊まってけ」
「俺の故郷で結婚してほしい!」
あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。
やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。
ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?!
健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。
一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。
*小説家になろう様でも掲載しています
悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています
平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。
自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。
櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。
ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。
気付けば豪華な広間。
着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。
どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。
え?この状況って、シュール過ぎない?
戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。
現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。
そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!?
実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。
完結しました。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる