25 / 39
サービール王国へ帰国
しおりを挟むその後、父の側室お二人とその娘たちにも初対面。
あああ、可愛い~~~、とはしゃいでいるとまた涙と鼻水が地獄のように垂れ流れている。
ほんの三十分くらいだったのに、コキアとハゼランに「お化粧を直しましょう」と声をかけられた。
「ニグム様がこられる前に、お化粧を直してまいりますね……」
「姉上、本当に大変そうですね……大丈夫ですか?」
「……………………」
「明確な返事がない。ご無理なさらないで」
「うふふ、ありがとうございます。でも、頑張りますね」
ずず……と鼻を啜りながらタオルを顔に押しつける。
控室に戻ってから祝石で顔の赤みや腫れを治す。
ううん、祝石の色がわかりやすく濁ってきて、形も歪んでいる。
多分このままだと幻魔石に戻りそう。
どうしよう……まだ初日なんだけれど?
「ニグム様とのご婚約、認めていただけてよかったですね。フィエラシーラ姫様」
「――うん」
◇◆◇◆◇
「国が違うだけでこんなに王家の家庭事情が違うのか」
「だいじょうぶですか……?」
「こんな状態の君にそれを聞かれるとは……俺は大丈夫だ。ちょっと、その、ショックだったのは本当だけれど」
「あ、あはは……」
サービール王国に帰国の馬車の中で項垂れていたニグム様に声をかける。
どうやらなかなか会うことも叶わないフラーシュ王国の王室を、側室とも、側室の子どもたちとも仲のいい花真王国の王室と比べて衝撃だったらしい。
まあ、フラーシュ王国やサービール王国の王室事情を見ていたので、ニグム様の言いたいことはよくわかる。
なお、私は花真王国から出ていてもまだ花粉症症状が残っていた。
タオルで顔を覆いながら、ずず……と鼻を啜りながら腫れぼったい喉から舌ったらずな声で答えていると、逆に心配そうにされてしまう。
「わたしはサービールおうこくにもどれば、たいちょうも、もどりますので……」
「秋の交流会には間に合うだろうか?」
頬に触れる手。
心配そうな表情。
ぎゅ、と胸が苦しくなる。
「ま、まにあいます。だいじょうぶです……」
「そうか。春先に頼んだドレスも完成しているだろう。君には俺の婚約者として公表したい。いいだろうか?」
「――はい」
タオルから目許だけ出して、交わる。
腫れぼったい目許を見せるのは恥ずかしくて、隠す。
でも、ニグム様の手がタオルを持つ手に触れて、晒される。
「にぐむさま……めもと、あれているので……」
「うん。でも、どんな君も可愛いから」
「そんな」
「早く治るといいな」
「……はい」
額をあてがい、手を重ねて目を閉じる。
もう、どうしよう、十年ぶりの帰国と家族との再会で、涙腺が壊れてしまっているのに、こんな、今まで自分の知らなかった気持ちが溢れ返ってきそう。
「にぐむさま」
「うん?」
「……わたしも、好き……」
「………………」
長い沈黙。
それから耳元で「俺も君が好きだ」と聞いたこともないような飛び切り甘い声で囁かれた。
耳が壊れるかと思った。
そうしてサービール王国に戻ってから、コキアに準備してもらっていた水の幻魔石を使って花粉を遮断する結界を作れる祝石を作れるかどうか実験してみよう。
結界の作り方って、普通の祝石の作り方とは違うのかしら?
幻魔石の効果付与の本を何冊か本棚から取り出してきて、机に載せる。
一番上の本を開いて、水の幻魔石への効果付与について――を開くと……なるほど、水の幻魔石への効果付与は専用の紙とペンがあった方が成功率が高い。
普通の紙やペンでも可能だが、他の幻魔石に比べて付与が難しいみたい。
コキアが水の幻魔石を購入してきたついでに専用の紙とインクも買ってきてくれていた。
机の上に、木箱がある。
中を確認すると、紙とインクが用意されていて思わず笑みが溢れた。
「付与のためのやり方は他の幻魔石と同じ。付与のための場所は水の中。広く、流れのある水中が好ましい、ね。うーん……噴水の中でもいいかしら?」
では、専門の紙にインクで花粉症の成分を書き出して水の幻魔石に包み込む。
この辺の作業はもう慣れたものよ。ふふふ。
「ふう。こんなものかな」
「フィエラシーラ姫様、そろそろお夕飯を」
「ええ、今行きます。あ、これを噴水に沈めてくるわ」
「かしこまりました」
まあ、今までの付与作業だとこれ一回で完成するとは思えない。
何度もできるように専用紙が多めに入っていたのも、コキアたちの配慮だろう。
コキアを伴い正門にある噴水に水の幻魔石を沈めてくる。
「これで数日様子見、ですね。温室のオリーブとアロエの幻魔石も確認しておきたいけれど……」
「明日になさってくださいませ。一週間後は秋の交流会です。ダンスの練習のお時間も取らなければいけません。明日からは研究もセーブしてくださいませ」
「ああ……それもありましたね……」
ダンスの練習は苦手なんだよねぇ。
でも、秋の交流会はお茶会から始まり晩餐の時間を過ぎてから夜会に移っていく。
高位貴族は一度屋敷に戻って茶会と夜会でドレスを変えてくる。
一日同じ服を着ていても、その分長く多くの人と交流してもいい。
まあ、交流会だもの。
私もニグム様と出会わなければ、秋の交流会で結婚相手を探すつもりだったけれど……。
ニグム様のおかげで他の婚約者候補もできていないし、無事に両家の親に許可ももらい婚約もできた。
自分でも信じられないけれど――楽しみ。
「ニグム王太子殿下の婚約者として恥ずかしくないようダンスの練習はしっかりなさってください」
「はい」
44
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜
晴行
恋愛
乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。
見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。
これは主人公であるアリシアの物語。
わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。
窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。
「つまらないわ」
わたしはいつも不機嫌。
どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。
あーあ、もうやめた。
なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。
このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。
仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。
__それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。
頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。
の、はずだったのだけれど。
アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。
ストーリーがなかなか始まらない。
これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。
カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?
それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?
わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?
毎日つくれ? ふざけるな。
……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?
行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される
めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」
ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!
テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。
『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。
新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。
アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。
悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています
平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。
自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。
大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜
楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。
ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。
さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。
(リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!)
と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?!
「泊まっていい?」
「今日、泊まってけ」
「俺の故郷で結婚してほしい!」
あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。
やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。
ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?!
健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。
一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。
*小説家になろう様でも掲載しています
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる