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サービール王国へ帰国

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 その後、父の側室お二人とその娘たちにも初対面。
 あああ、可愛い~~~、とはしゃいでいるとまた涙と鼻水が地獄のように垂れ流れている。
 ほんの三十分くらいだったのに、コキアとハゼランに「お化粧を直しましょう」と声をかけられた。
 
「ニグム様がこられる前に、お化粧を直してまいりますね……」
「姉上、本当に大変そうですね……大丈夫ですか?」
「……………………」
「明確な返事がない。ご無理なさらないで」
「うふふ、ありがとうございます。でも、頑張りますね」
 
 ずず……と鼻を啜りながらタオルを顔に押しつける。
 控室に戻ってから祝石ルーナで顔の赤みや腫れを治す。
 ううん、祝石ルーナの色がわかりやすく濁ってきて、形も歪んでいる。
 多分このままだと幻魔石に戻りそう。
 どうしよう……まだ初日なんだけれど?
 
「ニグム様とのご婚約、認めていただけてよかったですね。フィエラシーラ姫様」
「――うん」
 
 
 ◇◆◇◆◇
 
 
「国が違うだけでこんなに王家の家庭事情が違うのか」
「だいじょうぶですか……?」
「こんな状態の君にそれを聞かれるとは……俺は大丈夫だ。ちょっと、その、ショックだったのは本当だけれど」
「あ、あはは……」
 
 サービール王国に帰国の馬車の中で項垂れていたニグム様に声をかける。
 どうやらなかなか会うことも叶わないフラーシュ王国の王室を、側室とも、側室の子どもたちとも仲のいい花真かしん王国の王室と比べて衝撃だったらしい。
 まあ、フラーシュ王国やサービール王国の王室事情を見ていたので、ニグム様の言いたいことはよくわかる。
 なお、私は花真かしん王国から出ていてもまだ花粉症症状が残っていた。
 タオルで顔を覆いながら、ずず……と鼻を啜りながら腫れぼったい喉から舌ったらずな声で答えていると、逆に心配そうにされてしまう。
 
「わたしはサービールおうこくにもどれば、たいちょうも、もどりますので……」
「秋の交流会には間に合うだろうか?」
 
 頬に触れる手。
 心配そうな表情。
 ぎゅ、と胸が苦しくなる。
 
「ま、まにあいます。だいじょうぶです……」
「そうか。春先に頼んだドレスも完成しているだろう。君には俺の婚約者として公表したい。いいだろうか?」
「――はい」
 
 タオルから目許だけ出して、交わる。
 腫れぼったい目許を見せるのは恥ずかしくて、隠す。
 でも、ニグム様の手がタオルを持つ手に触れて、晒される。
 
「にぐむさま……めもと、あれているので……」
「うん。でも、どんな君も可愛いから」
「そんな」
「早く治るといいな」
「……はい」
 
 額をあてがい、手を重ねて目を閉じる。
 もう、どうしよう、十年ぶりの帰国と家族との再会で、涙腺が壊れてしまっているのに、こんな、今まで自分の知らなかった気持ちが溢れ返ってきそう。
 
「にぐむさま」
「うん?」
「……わたしも、好き……」
「………………」
 
 長い沈黙。
 それから耳元で「俺も君が好きだ」と聞いたこともないような飛び切り甘い声で囁かれた。
 耳が壊れるかと思った。
 
 
 そうしてサービール王国に戻ってから、コキアに準備してもらっていた水の幻魔石を使って花粉を遮断する結界を作れる祝石ルーナを作れるかどうか実験してみよう。
 結界の作り方って、普通の祝石ルーナの作り方とは違うのかしら?
 幻魔石の効果付与の本を何冊か本棚から取り出してきて、机に載せる。
 一番上の本を開いて、水の幻魔石への効果付与について――を開くと……なるほど、水の幻魔石への効果付与は専用の紙とペンがあった方が成功率が高い。
 普通の紙やペンでも可能だが、他の幻魔石に比べて付与が難しいみたい。
 コキアが水の幻魔石を購入してきたついでに専用の紙とインクも買ってきてくれていた。
 机の上に、木箱がある。
 中を確認すると、紙とインクが用意されていて思わず笑みが溢れた。
 
「付与のためのやり方は他の幻魔石と同じ。付与のための場所は水の中。広く、流れのある水中が好ましい、ね。うーん……噴水の中でもいいかしら?」
 
 では、専門の紙にインクで花粉症の成分を書き出して水の幻魔石に包み込む。
 この辺の作業はもう慣れたものよ。ふふふ。
 
「ふう。こんなものかな」
「フィエラシーラ姫様、そろそろお夕飯を」
「ええ、今行きます。あ、これを噴水に沈めてくるわ」
「かしこまりました」
 
 まあ、今までの付与作業だとこれ一回で完成するとは思えない。
 何度もできるように専用紙が多めに入っていたのも、コキアたちの配慮だろう。
 コキアを伴い正門にある噴水に水の幻魔石を沈めてくる。
 
「これで数日様子見、ですね。温室のオリーブとアロエの幻魔石も確認しておきたいけれど……」
「明日になさってくださいませ。一週間後は秋の交流会です。ダンスの練習のお時間も取らなければいけません。明日からは研究もセーブしてくださいませ」
「ああ……それもありましたね……」
 
 ダンスの練習は苦手なんだよねぇ。
 でも、秋の交流会はお茶会から始まり晩餐の時間を過ぎてから夜会に移っていく。
 高位貴族は一度屋敷に戻って茶会と夜会でドレスを変えてくる。
 一日同じ服を着ていても、その分長く多くの人と交流してもいい。
 まあ、交流会だもの。
 私もニグム様と出会わなければ、秋の交流会で結婚相手を探すつもりだったけれど……。
 ニグム様のおかげで他の婚約者候補もできていないし、無事に両家の親に許可ももらい婚約もできた。
 自分でも信じられないけれど――楽しみ。
 
「ニグム王太子殿下の婚約者として恥ずかしくないようダンスの練習はしっかりなさってください」
「はい」

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