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会食会(3)
しおりを挟むそして、ニグム様のおっしゃていたことも理解してしまった。
フラーシュ様が見えるという話しも、あの場の親族は国王陛下含めてほとんど信用していなかったのだ。
今回私が現れ、フラーシュ様が見えること――存在することを証明すれば、彼らの立場は一気に悪くなる。
王族はニグム様とあまり表に出ていないご兄弟以外、守護獣の加護を与えられた者に反抗的ということで端に追いやられてニグム様は貴族たちに手のひらを返して迎えられるだろう。
このままではあの場にいた王族とその親類はこれまでと同じ生活はできなくなる。
今の生活を守るには、私かニグム様のどちらかを亡き者にするのが手っ取り早い。
でもそんな短絡的な方法を取ったら、貴族が黙っていないだろう。
こんな、王族を守護獣の大義名分を得た状態で攻める機会なんて滅多にないもの。
私のことも……うちの国と喧嘩になるし、多分ユーフィアが……本当に最悪な未来の話をすると、サービール王国を動かしてしまう。
まさにフラーシュ様とニグム様の懸念していた国際問題待ったなし。
どちらにしても国が荒れる。
それを抑えながら、穏やかに政権交代ができるように私が支えるしかない。
……めっちゃ自信がないけれど。
できることをやるしかない。
そのためにも王宮内に味方を増やすところから。
「皆様は王宮に仕えられて長いのですか? わたくし、この国には十日ほど滞在したのですが、自分の研究ばかりでこの国の文化についてはあまり勉強ができておりませんの。お世話をしてくださっている方もこの国の侍女三人ほどしかおりませんし、もしよろしければ皆様のお仕事のお話を教えていただいてもよろしいかしら?」
「え……し、しかし、私どもの仕事など……」
「いいえ。ニグム様が改革を考えておられるのです。現状と、どう改善していくのかを現場の働き手の話を聞きながら考えていく必要があります。今のままでは他国の方をお呼びすることなどできませんもの」
と、言って果汁ジュースを一口。
毒が盛ってあってもフラーシュ様の加護で無効化されるので、容赦なく飲み食いができますアピール。
入口に立つ侍女の一人が、私の様子にわかりやすく顔を真っ青にして震え始める。
本当に真っ先に手を打ってくるなんて逆にすごいなぁ。
なんてのんびり構えていたら、入口の侍女が顔を押さえてしゃがみ込む。
「あ、あ、あ……い、いや、嘘……熱い……ぎゃあああああああ!」
「「「!?」」」
侍女の顔が熱で真っ赤に染まる。
話には聞いていたけれど、あんな顔面一面に罰痕が現れるなんて――
「ッ」
宴会場からも男の悲鳴が響いてきた。
彼女に毒を盛るよう指示した者にも罰痕が浮かび上がったんだろう。
こんなに早く効果が出るなんて思わなかったし、向こうも本当に罰痕が現れると思っていなかったのかもしれない。
今までニグム様が積極的に王位や王族とその親族へ敵対するような行動を取ってこなかったから、本当に守護獣の存在を信じなくなっていたんだろう。
毒は使うつもりがなかったのか、最近政務に勤しみ始めたニグム様への牽制のつもりだったのか。
どちらにしても彼女のような上の者の指示で人生がダメになってしまう者が現れるのは悲しいわ。
「どなたかの指示で動いた者でしょうね。火傷は冷やすしかないのですが、皮膚が爛れていますし顔ですからアロエか、サボテンの皮を持ってきてあげてください」
「は、はい……」
「で、ですが、この者は罰痕が……」
「だとしても痛みに苦しむ方を介抱もせず放置するのは心苦しいです。甘いと思われても、できる処置はいたしましょう。この方はこの後の人生も、まともに生きていけるわけではないのですから」
呻く侍女の近くに寄ることはないけれど、他の侍女や衛兵に指示をして彼女の介抱を依頼する。
前世でお祖母ちゃんに火傷にはアロエがいい、と聞いたけれど、サボテンでも大丈夫かなぁ?
同じ多肉植物だし、タオルでは貼りついてしまうだろうからサボテンが最適解な気がする。
さすがに専門家ではないからお医者さんを呼んでもらった。
「アロエには抗炎作用がありますが、サボテンにはないのでサボテンを火傷に擦りつけるのはちょっと……」
「勉強不足で申し訳ございません……」
お医者様にはやんわり叱られました。
そっかー、やっぱりアロエはいいんだ~。
おばあちゃんの知恵袋ちゃんと根拠があるのすごーい。
「フィエラシーラ姫様、本日の検証は中止とのことです」
「まあ、そうでしょうね」
コキアが現れて、宴会場で起きた事態の収拾のために私には王宮の客間に戻るよう指示が来ていると伝えてくれた。
そして、検証は中止。
むしろ必要なくなったようにも思うのだけれど……。
「再検証が終わるまで、ニグム様とは接触禁止――あるいは、帰国をしてほしいとのことです。姫様の御身をお守りするためにも、とのことです」
「思い切り時間を稼ぎに来ましたね」
うっかり「ふふ」と笑ってしまった。
ニグム様のご意向は、と首を傾げると意外にも「秋の交流会の前、夏季休暇中可能ならば花真王国にも赴きたいとのことです」と少し困った表情で伝えてくれる。
目を丸くしてしまった。
「ええと、フラーシュ国王の私とニグム様の婚約については……?」
「姫様に毒を盛った者たちに現れた罰痕が、姫様が守護獣フラーシュ様に加護を戴きし者のなによりもの証。婚約についての反対意見はないとのことです」
「まあ……そう……」
そこの抵抗はやはりないのね。
国内貴族の女性をハーレムに入れて、ニグム様が私ではなく別の娘を寵妃とすればいい。
そのように仕向ければよいとか、安直に思っていそう。
まあでも、そちらがそのつもりなのならニグム様のお手並み拝見ということで、私は帰ろうかな。
「でも、花真王国に来られるおつもりなのですか」
「姫様を遠い南国にいただくのだから、許可をきちんと取りたいとのことです」
「この時期ならブタクサですね……」
「い、いかがしますか?」
夏は、確かに春ほどではないのだけれど……だからと言って私の花粉症が軽いというわけでもない。
しかし、ニグム様のおっしゃっていることもわかる。
ここで引き離されたまま時間稼ぎを待っているのも時間の無駄に感じるのよね。
「…………」
「姫様?」
「ええ、そうね……ちょっと試してみましょうか」
「はい?」
「いえ。実家に帰りましょう。私もお父様やスティールやクロード、お母様に会いたい。継母様や生まれてから一度も会っていない妹たちにも。――寝込んででも!」
「寝込むの前提なのですね」
起き上がれる気がしないもの。
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