9 / 39
お茶会(2)
しおりを挟む「ッ……」
「「!?」」
あたたかくてふわふわもふもふ……。
前世から憧れていた、小動物。
これがふわふわもふもふなのね。
感動で涙が溢れてしまった。
そんな私の様子に、コキアが「姫様」と心配そうに肩に触れてくる。
「ち、違うの、嬉しいの。私、小動物を触ったの初めてで……嬉しい……可愛い……」
「そ、そうなんですか」
「本当に触れているんですのね。え? ほ、本当にここに守護獣が……まあ、うっすら宙を撫でているように見えるので、なにかはいるのでしょうけれど。…………。では、ニグム様のご意向は守護獣のご意向なのですわね?」
「そうだ」
「だとしたら、現王陛下は守護獣のご意向を無視することになりますわよね?」
ああ、もふもふ、これがもふもふの生き物の感触なのね。
さらさらの毛並み、ぬくもり、もっちもっちたっぷたっぷのお腹。
くねくねと動く体。
ニコ――っとしたような表情のお口。
可愛い。可愛い。可愛いぃぃぃぃ~~~~~!!
「可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い」
「フィ、フィエラ?」
「ああ、姫様の箍が外れてしまった……」
「幼少期より猫や犬など大好きでらっしゃったのに、もふもふアレルギーでぬいぐるみを抱き締めて我慢するしかできない姫様がもふもふに触れられたのですか!?」
「まあ、フラーシュは猫科の生き物に見えなくもない。俺は砂狐のように見えるが」
ああ、可愛いが止まらない。
でも、そんな私のもふもふ欲求が強すぎたのか『そろそろいいか?』と、フラーシュ様に柔らかな肉球で顔を押しのけられてしまう。
うう、この押しのける時に顔にあたる肉球のふにっと感ですら幸せ……!!
「……そんなに気に入ったのなら、フラーシュはフィエラシーラ姫が預かっていてもいいぞ」
『おぉい!? シレっとわいの面倒を押しつけるんやないで!?』
「お前が一緒にいた方がフィエラシーラ姫の研究も進むかもしれないだろう? 腐っても高位の守護獣なんだから」
「研究のお力になってくださるのですか!?」
『うぎぎぎ……わ、わかったよぉー!』
うおっしゃああああああああ!!
もっふもっふのフラーシュ様をお借りできることになりましたー!!
抱き締めて「よろしくお願いいたしますー!!」と叫ぶと『えげー』と叫ばれてしまう。
その様子にユーフィアは先ほどまでの冷たいつっけんどんな態度がすっかり鳴りを潜め、ニグム様と私そっちのけで話し始めた。
さすがに一国の王族。
守護獣が見える者、触れられる者は他国の者であっても尊重する。
守護獣が見える、触れられる者は自国以外の守護獣にも見たり触れたりできる場合が多いのだ。
ユーフィアは守護獣の姿が見えるニグム様を、もう邪険に扱えない。
それはもう国として、だ。
だって守護獣が見える者、触れられる者は国を守り繁栄させる才能を持つ者――だから。
もしかしたらサービール王国の守護獣様も、私とニグム様は見えるかもしれないってこと。
「はあ、もういいですわ。ニグム様がフィエラのことをそれなりに本気なのはわかりましたし、わたくしが懸念していたフラーシュ王国の害悪文化についても、それらからフィエラを守ってくださるおつもりがあるみたいですし、わたくしこれ以上反対いたしませんわ」
「あ、ああ。ありがとう」
「フィエラが頑張ている研究を応援してくださるのだけは、本当に約束してくださいませよ」
「もちろんだ。アレルギーの研究はこの世界の益になるものだろう。世界中の人間が無関係ではない」
ニグム様が答えるとユーフィアも強く頷く。
私の研究に二人がそんなに期待を寄せてくれているのは嬉しいのだけれど、前世でもアレルギー薬はあまり効かなかった私、正直自信がない。
前世はほぼ一年中花粉症の薬を飲んでいた。
病院に通ったりしても「ちょっと珍しいレベルで重症ですね」って言われるくらいの花粉症人生。
もはや日本で生きるの向いてない日本人だった。
でも、この世界には前世にはない幻魔石もあるし、前世にない治療方法があるかもしれない。
「フラーシュ様は大国の守護獣様ですもの、知識豊富そうで期待しております。あの、あの、今考えているのは幻魔石に効果付与ができないものかと考えているのですが……」
『わい、そもそもアレルギーについてよくわからない』
「では今から詳しくご説明いたします! せっかく研究所のある我が家にいますので!」
『ェ』
フラーシュ様を抱っこして、ユーフィアとニグム様に一言断ってから自宅の中に入る。
あ、でもお招きしている立場で勝手にいなくなるのはよくないわ。
くるりと振り返って「ユーフィアとニグム様も私の研究室に来ますか?」と聞くと、二人はガタリ、と立ち上がる。
「ええ、もちろん! 見せていただいてもよろしいの?」
「こちらこそ、ぜひ手伝わせてほしい」
「ではご案内します! 私の研究室は二階にあるんですけれど……」
と、お二人とお二人の侍女や従者を連れて屋敷の中に招く。
コキアが「本当によろしいのですか?」と確認してくる。
貴重な研究の資料などを、外部の人間に見せるなんて――という意味。
「お二人にも知っていただきたいし、私の研究を盗んで発表する者がいても構わないわ。世間がどのように反応するのか見られるし」
と、にっこり笑って答えるとコキアもなにも言わなくなる。
私だって伊達に一国の王女ではないのよ。
そのくらい考えているわ。
それに、アレルギーの研究はまだ明確な治療法が確立しているわけではないもの。
まずは春、自分が少しでも快適に過ごせるように、前世のような抗アレルギー薬をゲットするのよ!
29
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。
可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。
その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。
そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。
なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。
私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。
しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。
それなのに、私の扱いだけはまったく違う。
どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。
当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
悪役令嬢、モフモフ温泉をおばあちゃんの知恵で立て直したら王妃にジョブチェン?! 〜やっぱり『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件~
華梨ふらわー
恋愛
第二王子との婚約を破棄されてしまった主人公・グレイス。しかし婚約破棄された瞬間、自分が乙女ゲーム『どきどきプリンセスッ!2』の世界に悪役令嬢として転生したことに気付く。婚約破棄に怒り狂った父親に絶縁され、貧乏診療所の医師との結婚させられることに。
貧民街の生活が改善し、診療所も建て直せそうか……と思いきや、獣人らからも助けを求められることに。大聖女のチート技で温泉の源泉を発見!今度はおばあちゃんの知恵を使って温泉宿を経営することに。『医者の嫁』ハッピーセレブライフ計画の進捗状況はやはり停滞中です。
『悪役令嬢、追放先の貧乏診療所をおばあちゃんの知恵で立て直したら大聖女にジョブチェン?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜』の続編となります。
『小説家になろう』で2万ptを達成しましたので、番外編を不定期で更新していきたいと思います。
また新作『盲目の織姫は後宮で皇帝との恋を織る』も合わせてお楽しみいただけると幸いです。
美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました
葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。
前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ!
だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます!
「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」
ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?
私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー!
※約六万字で完結するので、長編というより中編です。
※他サイトにも投稿しています。
悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした~娘は私が責任もって育てて見せます~
平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲーム『聖と魔と乙女のレガリア』の世界に転生してしまう。
しかも、私が悪役令嬢の母となってしまい、ゲームをめちゃくちゃにする悪役令嬢「エレローラ」が生まれてしまった。
このままでは我が家は破滅だ。私はエレローラをまともに教育することを決心する。
教育方針を巡って夫と対立したり、他の貴族から嫌われたりと辛い日々が続くが、それでも私は母として、頑張ることを諦めない。必ず娘を真っ当な令嬢にしてみせる。これは娘が悪役令嬢になってしまうと知り、奮闘する母親を描いたお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる