転生姫は国外に嫁ぎたい〜だって花の国は花粉症には厳しすぎるのよ〜【WEB版】

古森きり

文字の大きさ
上 下
6 / 39

デート(1)

しおりを挟む



「ユーフィア様、怒っておいででしたね」
「来週の花の日はユーフィア様とのお茶会ということでよろしいでしょうか?」
「ええ、よろしく……」
 
 休日の朝、ユーフィアの侍女から「本日、お茶会にご招待したいとのことなのですが」と声をかけられた。
 でも、休日はニグム様とお出かけと伝えていたので知っててそんな誘いをしてくるってことはまあ、嫌がらせよね、ニグム様への。
 やきもちだって私ならわかると思っていて言ってきたのだ。
 いや、わかるけれども。
 どうしてこんなに私がサービール王国以外の国に嫁ぐのを嫌がるのだろう。
 いや、ユーフィアも私と同じくフラーシュ王国のハーレム制度に思うところがあるのだろう。
 だからニグム様のことに、反対なんだろうな。
 私だってユーフィアがフラーシュ王国の王族に嫁ぐ、なんて話を聞いたらそれはもう心配するし、回避できるなら回避してもらいたいもの。
 でも、ニグム様の考え方を聞いたらハーレムに関する心配はあまりなくなった。
 あの嫌悪の表情は本物だったもの。
 だからまあ……近いうちユーフィアにもお話しして、ニグム様を含めた三人でゆっくりとお話する機会を設けようと思う。
 まずは今日のデートを無事に乗り越えたいけれど。
 
「待たせた」 
「いいえ」
 
 なんてことを考えていたら制服姿のニグム様が馬車の中から現れた。
 ちなみに私も制服だ。
 なぜ制服なのかと言うと、ニグム様から制服を指定されたから。
 
「悪いな。君が着飾った姿も見て見たかったのだが、言葉が通じないと思っていたから町の方に出るつもりが一切なくて」
「結構ですわ。通訳は私がいたしますので」
 
 と、いう「外に出るつもりがない」おつもりだったニグム様は、私服は南側の地域特有の露出が多いものしか持ってきていなかった、ということらしい。
 なので、今日のデートはニグム様の私服を買う、という任務がある。
 逆に言うと私がニグム様の私服を選ぶということなので責任重大すぎない?
 一国の王太子の私服よ?
 聞いた時は胃が痛くなってしまったわ。
 
「君が普段着ているドレスの好みに合わせてくれればいい」
「そ、それはそれでなんというか……」
 
 とか! 言うし!!
 それって「今後も私と出かける時は私のカジュアルドレスの系統に合せる」っていう意味じゃない!
 イコール「デートは今後も誘う気だから」って言ってるようなもんなのよ!
 なにこれわざとですか!?
 わざと言っているのなら十六歳時点でこんなこと言えるニグム様の将来が怖いよ!!
 
「とりあえず何軒か仕立て屋などを回ってみましょう。ご案内いたしますわ」
「ああ」
 
 貴族街に向かい、その中で私が贔屓にしている何軒かの仕立て屋でニグム様の私服を仕立ててもらうことにした。
 面倒くさそうなのだけれど、私がわざと中央語で話す仕立て屋の言葉を「あの単語のニュアンスは難色の意味合いが強いんですよ」と説明すると表情を変える。
 熱心に聞き耳を立てて、「今の単語は色のことだな?」と聞いてくるようになった。
 ちゃんと勉強するつもりがあるようで、助かる。
 まあ、ニグム様は語学留学だからある意味当然かな。
 
「こちらのデザインは去年から流行っているものだそうです。裾を短くすることで動きやすくするとか。カフスボタンはなにになさいますか? ご希望がないのでしたら私が選びますか?」
「カフスボタン?」
「シャツの袖の部分につけるボタンですわ。誕生日プレゼントにもよく選ばれます。正式な場に着ていく礼服では、家紋入りのものを取りつけて出席することが必須ですわね。あとは、左腕の袖に婚約者の家紋のカフスボタンをつけて相思相愛のアピールする方もいますわ。その場合は婚約者の女性が贈っている場合が多くて、浮気防止の意味が大きいですね」
「そう、なのか。では選んでもらいたい」
「わかりました」
 
 ではニグム様の髪の色と瞳の色に似た色の宝石を買いに宝石店へ。
 エメラルド、ペリドット、イエローサファイヤ、シトリン、トパーズ――値段は高くてニグム様の色に近いものを重点的に選ぶ。
 うん、このくらいなら王太子がつけていても問題はないわね。
 
「アメジストもほしい」
「え? アメジストですか? どのような色の……」
「フィエラシーラ姫の瞳の色に近い色を」
「ッう!?」
 
 いや、ホント、急に来るのはやめてほしい。
 っていうか、これを店員に伝えるの私なんですけど!?


 
 
「はあ……」
 
 うっかり溜息を吐いてしまい、ハッとして顔を上げる。
 ようやく仕立て屋を出てカフェテリアの窓際の一席で落ち着いたのだが、その瞬間に気が抜けてしまった。
 紅茶が美味しくて、つい。
 
「申し訳ありません」
「いや、疲れさせてすまない」
「あ、いえ……ですが、早ければ来週には二着は届くそうでよかったですね。あの。ユーフィアが今朝もニグム様と私が出かけることを反対していたのです。多分ニグム様もフラーシュ王国の王族らしいハーレムに、興味があると思っていると思うのです。一度ゆっくりと三人でお話しできたらと思うのですが……」
 
 訳、来週サービール王国風の私服が届くので、ユーフィアと私と三人でお茶会しませんか?
 主にニグム様のハーレムへの考え方を話をしてあげてほしい。
 っていう提案。
 
「ユーフィア姫と、か……」
 
 ああ、渋い表情してる~~~!
 
「だが、フィエラシーラ姫のご友人だろう? ……わかった……」
 
 不服そう~~~~。
 でも、ご了承いただけてよかった。
 後ろのコキアに目線で「予定に入れておいて。帰ったら招待状を書いて先に場所の確保を」と伝えておく。
 まあ、場所は私の別邸にお招きすればいいわ。
 
「それで」
「え?は、はい?」
「君は、フラーシュ王国も嫁ぎ先の候補だったんだろう?貴族の妻になるつもりだったのか?」
「あー。まあ、そうですわね。できれば伯爵家以上の貴族の方の妻になり、アレルギー研究のために幻魔神殿に就職しつつ幻魔石でアレルギー症状の緩和ができたらな、とか思っていました」
『あー、やめた方がええと思うでー』
「え?」

 急にニグム様の肩にフラーシュ様が現れる。
 姿は見えないだけで、いつも一緒にいるのだろうか?

『うちの国の貴族は嫁を表には出さないんねん。この国みたいに女が顔を出して歩くこともないんやで』
「え!?」
「ああ、顔にはフェイスベールが必須。全身を包む布で肌が一切出ないように包まなければならない。家の外に出るのも夫が同行しなければならないし、女性が勉強をすることはいい顔をされない。女性が教養を身に着けるのは王族のみ。顔や肌を出して表に出ることが許されているのは踊り子や娼婦、王族の女性のみだな」
「え、ええええ……!?」
『南部はそういう風習があるんだよ。わいは反対してるんやで。他の国に来るとそんなん時代遅れやん?言うてるんやで~、ニグムの親父にも。でもなんか”女は閉じ込めて見せない”のが男の優越感に心地ええみたいで誰も改善しようとせぇへんねん。クソやで』
 
 おおい、自国の守護獣様が今の国政を「クソ」って言い出したわよ!?


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

処理中です...