5 / 39
帰り道
しおりを挟む「俺の妻になるのは不服と」
「そ、そういうわけではありません! ただ、フラーシュ王国の王族は、ハーレムが基本と聞いておりますので、なんというか、まだそういう覚悟がなくて」
「ああ、それな」
おや、とニグム様が浮かべた表情があまりにも不愉快丸出しで驚いた。
フラーシュ王国の王は妻が多ければ多いほどいいと習った。
妻の数が王の甲斐性を現す、と。
歴代の王の中には四百人もの妻を抱え、何月何日の妻、みたいな一年に一度しか妻の閨に通わなかった王もいるとか……。
「俺の父もそう言っていたが、その習慣のせいで後宮は毎日血が飛び散っていた」
「え」
「後宮は臓物の匂いがする場所だ。甘ったるい香水でどんなにごまかそうとしても、生臭さが漂ってくるような場所なんだ」
本当に忌々しそうに眉を寄せ、窓の外を睨みつける。
その眼差しの先にご自分の故郷があるのかと思うと、なんだかとても悲しい。
だって私は祖国に帰りたいんだもの。
お父様やお母様や生まれている直系の弟二人、スティールとクロード。
側室の継母様にラフィア様、マルティ様。
異母妹のユリ、リップ。
弟妹にはスティール以外話したこともない。
っていうか、生まれたのも手紙で知った。
毎月四人と両親に手紙を送り、ちゃんと返事もくれる。
弟妹はすごく可愛くて、スティールに至っては『来年にはサービール王国に留学するから』と言ってくれた。
私の弟最高に可愛い優しいー!!って思っていたけれど……。
「ニグム様、ご兄弟はいらっしゃいますの?」
「弟が二人。妹が一人だな」
「え!?」
なんとなく兄弟仲の話を聞いてみようかな、と思ったらまさかの三人。
なんで!? だって私よりも兄弟が少ない!
そんなことある!?
私の反応が意外だったのか、フッと微笑まれた。
「毎晩百人近い女の閨をふらふらしていると、逆に子ができないようだ。俺たちが生まれた頃はまだ父の妻は五人しかいなかったのだが、十人増えたら一気に誰も孕まなくなった」
「――な、そ、そうなのですね」
あー、なるほどな~。
ハーレム奥さんの排卵日と陛下の気分が面白いほどに被らないんだろうな。
あとそのくらい奥さんがいると体質的に合わなくて妊娠しづらい人もいるだろう。
まあ、専門家じゃないから分からないけれど。
確かに女性が多くても排卵日や相性が合わなければ、妊娠確率はむしろ下がるんだろうな。
「それに曽祖父や祖父の代で子どもが多く、元王族の貴族が増えて国の予算を圧迫しているんだ。だというのに、父はまだ子作りに励んでいる。それでなくとも王位継承権でごたごたしているというのに。だから俺は妻を一人だけにして、子どもも二人くらいでいいと思っている。男子が生まれなくとも、王家の血筋の子どもには困っていないからたった一人、癒してくれるような女性がいればそれで……」
「あ、え……」
「あ……」
顔が熱を持つ。
いやいや、いやいや、待って。
ニグム様、それは――
「あ、では、その……また明日。その、よければ次の休日、今度は君の話を聞かせてほしい。俺にここまで話をさせたのだから、いいだろう?」
「あ、は、は、はい!」
え、別に私が聞きだしたわけじゃないんだけど……。
って、思ったけれどいつの間にか寮に辿り着いていた。
御者が扉を開けると馬車の後ろに乗っていたコキアとハゼランが待機している。
くっ、絶対会話聞かれてた。
「また明日
「は、はい。送ってくださりありがとうございます」
そう挨拶をしてから、御者がニグム様を男子寮に送っていく。
後ろからの圧が、圧が……!
「お部屋に戻ってからお出かけの日の準備をいたしましょうか」
「気が早くない!? 休日って三日後よ!?」
「早い方がいいでしょう?」
「姫様のことなので前日や当日まで悩むのですから、早い方がいいです」
「うっ!」
確かにお洒落に関してはまったく自信がなくて優柔不断になりがち!
最近ドレスも着ていないから、サイズとかもチェックしなければいけないでしょうと言われると……。
「わ、わかりました」
「ではいきましょう!」
「夕飯後も靴や鞄も決めておかねばなりませんからね」
「わ、わかりました。やりましょう」
さっさと決めて、アレルギー薬の研究を再開しよう。
なにか他の方法とかも検討しないと。
そう、たとえば――幻魔石とか。
幻魔石というのはこの世界の大地や川、海、火山、鉱山などから採集できる魔力がこもった石。
大きさによってランクが1~6まで振り分けられる。
大きければ大きいほどランクが大きくなるのだが、市場に出回るのはランク1~3まで。
ランク4~6のは王族の城や貴族の屋敷、幻魔神殿のご神体、研究用など。
幻魔神殿というのは幻魔石は神からのギフトだ、という教示で祈りと寄付を集めている。
まあ、利権とかいろいろあるらしいし、信仰はないよりもあった方が人民の心の支えになるだろうから、私は信仰こそしていないが存在には文句ない。
幻魔石の研究に関しては、この幻魔神殿がもっとも幻魔石の研究が進んでいる。
そういう面で、卒業後はのんびり幻魔神殿に勤めて幻魔石でアレルギーを抑えたり、治療したりできないものか研究してみるつもりだったんだけれど……。
「このまま本当にニグム様の妻になったら、アレルギー研究ができないと思うんだけれど……本当にまさか王太子なんて……はあ……」
「まったく、姫様は贅沢をおっしゃる」
「そうですわ。それにニグム様のお考えを聞く限り、弟御に王太子の座を譲ることも問題ではないと言いたそうでしたわ。そのあたりをデートの際にお聞きしてみては?」
「他国の王太子の座に、私が口出せるわけないでしょう」
ハゼランったらなにを言っているのだろう。
そりゃ、頼めば「いいぞ」って言いそうだけれど。
それは国の行く末に関係することなのだから、小さな他国の姫な私がそんなこと頼めるわけない。
私が叱るとハゼランはコキアにも窘められている。
「も、申し訳ありません……」
「ですが、姫様が懸念しているハーレムの件は解決なさったのでは?」
「それは……まあ……。いえ、でも、私を本当に妻になさるかどうかはまだわかりませんし!」
「「はあ……」」
「溜息吐かないでっ!」
だって仕方ないじゃない!
前世の記憶から四十年くらい彼氏いなかったのよ!
恋もしたことないのにいきなり十六歳の男の子、しかも本物の王子様にもしかしたら求婚されるかもしれないとか……ハードルが!高すぎるのよーーー!!
26
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。
可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?
【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません
たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。
何もしていないのに冤罪で……
死んだと思ったら6歳に戻った。
さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。
絶対に許さない!
今更わたしに優しくしても遅い!
恨みしかない、父親と殿下!
絶対に復讐してやる!
★設定はかなりゆるめです
★あまりシリアスではありません
★よくある話を書いてみたかったんです!!
家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。
その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。
そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。
なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。
私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。
しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。
それなのに、私の扱いだけはまったく違う。
どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。
当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
夫に離婚を切り出したら、物語の主人公の継母になりました
魚谷
恋愛
「ギュスターブ様、離婚しましょう!」
8歳の頃に、15歳の夫、伯爵のギュスターブの元に嫁いだ、侯爵家出身のフリーデ。
その結婚生活は悲惨なもの。一度も寝室を同じくしたことがなく、戦争狂と言われる夫は夫婦生活を持とうとせず、戦場を渡り歩いてばかり。
堪忍袋の緒が切れたフリーデはついに離婚を切り出すも、夫は金髪碧眼の美しい少年、ユーリを紹介する。
理解が追いつかず、卒倒するフリーデ。
その瞬間、自分が生きるこの世界が、前世大好きだった『凍月の刃』という物語の世界だということを思い出す。
紹介された少年は隠し子ではなく、物語の主人公。
夫のことはどうでもいいが、ユーリが歩むことになる茨の道を考えれば、見捨てることなんてできない。
フリーデはユーリが成人するまでは彼を育てるために婚姻を継続するが、成人したあかつきには離婚を認めるよう迫り、認めさせることに成功する。
ユーリの悲劇的な未来を、原作知識回避しつつ、離婚後の明るい未来のため、フリーデは邁進する。
美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました
葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。
前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ!
だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます!
「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」
ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?
私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー!
※約六万字で完結するので、長編というより中編です。
※他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる